月の海に沈む廃墟〈全七夜~第三夜~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
あなたが初めて出逢ったのに、不思議と懐かしさを感じる世界が、ここにあります。
佐藤美月〈小説家・エッセイスト〉のブログへようこそ。




いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。

庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。

山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。

それに加えて、時に不思議な現象に遭遇する土地でもあるのです。

今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な現象は、全部で七夜を通して、お届け致します。

それでは第三夜を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。




月見お月様星空




身体がいきなりふわりと浮き上がったかと思ったら、次の瞬間に足の裏が捉えていたのは、ダイニングルームの天井でした。

つまり、蝙蝠(こうもり)のように、天井からぶら下がった格好になったのです。

少し低めのポニーテールに纏めていた髪の毛の束が、ダイニングルームの床に向かって、だらりと垂れ下がりました。

私は慌てて、その時の服装を確認しました。

もしスカートを履いていたとしたら、インナーを仕込んでいるとは言え、股や尻が丸見えになっていたからです。

でも、レギンスの上に、デニム地のショートパンツを履いていたので、一先ずは胸を撫で下ろしました。

それはそうと、いきなり天井からぶら下がった格好になったのは、明らかに月の砂で拵えた、不思議なパワーが秘められている砂時計の仕業に違いありませんでした。

砂時計に秘められている不思議なパワーとは、このことを言うのかと思いました。

それならば、その不思議なパワーのタイムリミットは、きっと砂時計の砂が落ち切るまでなのでしょう。

そのことに思い至った私は、こうしてはいられないと即座に思いました。

恐らく室内にいるために、天井で支(つか)えているだけで、一度外に出てみたら、何処までも高く上昇して行けるのかも知れません。

私は突然授けられた浮遊力のその可能性を試してみたくて、うずうずしました。

そこで天井を歩いて、窓辺へと近付くと、腕を伸ばして、サッシ窓の鍵を開けました。

それから窓硝子を開けると、そこから上半身を伸ばして、身体を外に出したのです。

まるで閉じ込められていた箱の中から、漸く外に出たような気分でした。

夜気はミントアイスのように、冷たく澄んでいました。

それを深々と吸い込むと、肺の中が新鮮さで溢れ返ったのを感じました。

辺りに粛々と広がっているのは、濃紺色のしっとりとした闇でした。

まるで海の底ならぬ、夜の底に沈んでいるような感覚でした。

そうして夜空には、北斗七星を始めとした、数々の星座を従えた三日月が、女王然として輝いていました。

その夜空が少し奇妙な感じに見えたのは、その時の私にとって、夜空は見上げるものではなく、見下ろすものになっていたからでしょう。

まるでサーカスの軽業師にでもなったような気分でした。

そんな気分のまま、思い切って窓枠から手を離すと、私の身体は、爪先を先頭にして、ぐんぐん上昇していきました。

その浮遊感は心地好かったのですが、いかんせん頭を下にしている態勢なので、次第に顔に血が昇って来るのを感じました。

その時、生き物にとって、重力というものは大切なのだと、改めて感じたのです。

どのみち体内に血液が巡っていれば、頭が上になっていても、下になっていても、同じようなものだと思いますが、生き物の構造上、どうもそうはなっていないようでした。

いい加減頭に血が昇り過ぎて、息苦しくなってきた頃に、目の前の世界が、再び反転しました。


お月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあと


・・・ 月の海に沈む廃墟〈全七夜~第四夜~〉へと続く ・・・



ふんわりリボン佐藤美月は、こんなバックボーンを持っています。詳しくお知りになりたい方は、こちらを紐解いてみて下さいね。




義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム