月の海に沈む廃墟〈全七夜~第二夜~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
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いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。

庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。

山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。

それに加えて、時に不思議な現象に遭遇する土地でもあるのです。

今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な現象は、全部で七夜を通して、お届け致します。

それでは第二夜を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。




月見お月様星空




しかし、私があっさりと思い付くくらいですから、もうとっくの昔に、他の誰かが思い付いて、小説や映画やゲームなどに仕立てているアイディアかも知れません。

もしそれだとしたら、二番煎じになってしまって、新鮮さや面白味に欠けてしまいます。

その辺りが気になったので、『月、廃墟、海』というキーワードをパソコンに打ち込んで、インターネットからの返答を待ちました。

すると、一番最初にヒットしたのは、『月の海に廃墟を贈るためのクラウドファンディング』という、至って風変わりな項目でした。

その項目から詳細ページに飛んでみると、案の定、更に風変わりな説明文が並んでいました。

『私共は、月の平和を護るために結成されました、NPO法人団体です。

今現在、月の海底に沈んでいる廃墟が、四十二戸を残して、全て灰塵に帰している状態です。

廃墟が灰塵になると質量が変わるため、月の重量が変わり、そのことによって、月の軌道にも狂いが出てくる恐れがあります。

月の軌道が狂うと、他の天体に衝突する可能性が出てきますので、大変危険な状態になります。

そこで私共では、月の海底に新たな廃墟を仕込むべく、今回のクラウドファンディングを立ち上げることに致しました。

現状から算出致しますと、十二戸の廃墟を月の海底に仕込むことが出来れば、あと四百年ほどは、月の安定的な軌道を確保出来る算段をしております。

あなた様からの心温かなご支援を、月共々、お待ち致しております』

世の中には、何とも奇妙なNPO法人団体が存在するものです。

当然ながら、それまでに見たことも聴いたこともない、クラウドファンディングの内容でした。

ですがそれだけに、余計興味を惹き付けられました。

更に詳しく見ていくと、支援額は一口五千円で、リターンとして提示されている物は、月の砂で拵えた、不思議なパワーが秘められている砂時計となっていました。

私は月の軌道が狂ってしまって、天空で衝突事故が起こるのは避けたいと思いましたし、何よりも不思議なパワーが秘められている砂時計の存在が気になったので、そのクラウドファンディングを支援することを決めて、名前や住所などの必要事項を入力していきました。

それから三ヶ月ほどが経ったある日、自宅にリターン品である砂時計が送られてきました。

宅急便の箱を開けてみると、支援に対するお礼状と、木目細かな琥珀色の砂が詰められている硝子製の砂時計が入っていました。

お礼状は二つ折りになっていて、開くとまん丸い満月の形になるという寸法でした。

その表側には、奇怪な形のクレーターがぼこぼこと開いている、リアルな月のイラストが描いてありました。

そうしてお礼状の内側には、クラウドファンディングが無事に成立して、月の海底に十二戸の廃墟を仕込む作業も、滞りなく行われたことが記されていました。

私は緩衝材に包まれている砂時計を取り出すと、それをあらゆる角度から、繁々と眺めました。

琥珀色の砂を閉じ込めてある硝子は澄明(ちょうめい)で、蜂のフォルムを思わせる優美な曲線を描いていました。

耳許で軽く振ってみると、中に詰まっている砂が、さらさらと動く気配が聴こえました。

クラウドファンディングの紹介文では、月の砂で拵えた、不思議なパワーが秘められている砂時計だと紹介されていましたが、見た目はごく普通の砂時計にしか見えませんでした。

そこで油断した私は、砂時計を矯(た)めつ眇(すが)めつした後に、くるりと引っ繰り返して、砂が溜まっている部分を上にすると、それをテーブル上に置いたのです。

すると、蜂の腰のように細く括(くび)れた部分を通過して、琥珀色の砂がさらさらと零れ始めた瞬間に、私の世界が、くるりと反転したのです。


お月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあと


・・・ 月の海に沈む廃墟〈全七夜~第三夜~〉へと続く ・・・



ふんわりリボン佐藤美月は、こんなバックボーンを持っています。詳しくお知りになりたい方は、こちらを紐解いてみて下さいね。




義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム