夕陽の王国に捧げるタペストリー〈全十幕~第九幕~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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シルフィーは、豪雨を浴びて、しとどに濡れたような泣き顔を晒したままで微笑むと、深々と頷いた。

「私は、夕陽の王国への貢ぎ物としての生き方しか知らない。

今更地上に戻ったところで、他の生き方なんて、出来ないわ。

たとえ夕陽の王国には入れないとしても、少しでも長くあなたと一緒にいられるのなら、連れて行ってもらうことを選ぶわ。

私をその雲に乗せて。あなたの隣にいさせて

男は、シルフィーの顔を暫し見詰めていたが、やがて右手を差し伸べた。

「そこまで言うんだったら、一緒においで。

夕陽の王国の手前までなら、連れて行こう

シルフィーが、逞しい男の手をしっかりと掴むや否や、黄金色の雲の上に、軽々と引き上げられていた。

それから男は、シルフィーの細い肩に腕を回したままで、黄金色の雲を操り始めた。

黄金色に輝く雲は、空中を滑るようにして、瞬く間に移動して行った。

やがて沈み行く夕陽の真ん中を目掛けて飛び込んで行く時、シルフィーの目に見えていたのは、タージマハルのような、黄金色に輝く壮麗な建物群だった。

あれが夕陽の王国なのかと思った瞬間、全身が燃えるように、かっと熱くなった。

それは同時に、シルフィーの命が燃え尽きた瞬間だった。

男は、急に空手になった右手を、暫し見詰めた。

同じだ、と思った。

彼女の前に貢ぎ物に選ばれた娘も、その前も、その前も、もういちいち覚えてはいられないくらいの、歴代の貢ぎ物に選ばれた娘達は、地上に戻るという選択肢を与えられたにもかかわらず、自ら破滅の道を選ぶのだった。

それほど、恋を知らない乙女達は、初めての恋に、狂いやすいのか。

しかしそれは、夕陽の王国の女王にしてみれば、狙い通りの結末だった。

女王自らの若さを保つためにも、夕陽の王国を存続させるためにも、五年に一度、乙女の純潔が、捧げられる必要があったのだ。

左目に深い傷を負った男は、そのために遣わされている使者なのだった

“夕陽の王国に捧げるタペストリー”と題された物語は、そこで終わっていた。

そして、次の便箋に綴られているのは、香澄の叔父からのメッセージだった。

そうしてそれは、この物語に込められている深遠な意味合いが、ひしひしと汲み取れる内容だった。


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・・・夕陽の王国に捧げるタペストリー〈全十幕~第十幕~〉へと続く・・・



義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム