皆様、前記事にコメントありがとうございました。
ちょっと間が空きましたが、感想の続きを書きたいと思います。
常に書き換えられる「ハニュー・ノーマル」のおかげで、「GIFT」以降は羽生さんがワンマン・アイスショーを開催することに、
しかも「一夜限り」ではなく、「ツアー」まで展開してくれていることに、
なんとなく慣れてしまっているわけですが、
やはりこれは驚異的だとしか言いようがありません。
私は現在も、現役のフィギュアスケーターたちが競技をする世界を(大会の手伝いをしたり、地元のオークビルのリンクで練習しているりくりゅうや若手ペアたちとの交流を通して)けっこう間近で見ている一人だと思います。
それもあって、彼・彼女たち選手が二つのプログラムを試合の本番で滑るためにどれほどの綿密な準備を重ねなければならないのか、を多少は知っているつもりです。
羽生さんのソロ・ショーは競技ではないのですから、ジャッジはいないし、スコアを争っているわけではありません。でも、「代役を立てるわけにはいかない」といった彼一人でしか背負えない責任が伸し掛かっているため、そのプレッシャーはとてつもないでしょう。
そんな中、あの数のプログラムを滑り切り、最初から最後まで観客のエネルギーを受け止め、ショーを成功させるにはどれほどの身体的およびメンタルの強さが求められるのか、ちょっと想像もつきません。
過去のインタビューではデイビッド・ウィルソンさんが、クリケット・クラブにやって来た当時の若き羽生選手が、「フリーを滑り切るスタミナもギリギリだった」と笑いながら述懐していたのが考えられませんよね?
しかし、同じく羽生さんと選手時代から今に至るまで何度も振り付け作業を重ねてきたシェイリーン・ボーンの言葉がヒントになるかも知れません。
滑っているプログラムがすごく好きだと思えると、そして自分自身の人生経験と関連づけることができると、スケーターにとってそのプログラムは格別な意味合いを帯びてくるものです。そうなるとよりパワフルな感情が掻き立てられるので、途切れさせるのが惜しいと思えてきます。
その結果、どういうことが起こるかは味わってみればわかります。『ゾーンに入る』、つまり刹那刹那をしっかり意識する状態に入り込めると、逆にどんどんエネルギーが湧いてくる。惜しみなく力を注げば注ぐほど、良い効果が生まれるのです。
羽生さんは今やプログラムの一つ一つだけではなく、ショー全体を一つの「物語」として捉えているわけですから、シェイリーンの言葉を当てはめればどのようにして「途切れさせることなく」、滑り切る力を呼び起こしているのかが少しは見えて来るのかも知れません。
ただそれにしても、あまりにも途方もない偉業であることには違いない。
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さて、メインのショーを見終えた私は、そこからまだインタビューの映像がかなりの長さで収録されていることにワクワクしました。現役時代から羽生さんの言葉にはいつも驚かされ、感心させられていたので、何を語ってくれるのか、を楽しみにしていました。
いやあ、凄かった。
語られた内容の濃さ、もさることながら、一つの質問・テーマに対する羽生さんの答え・コメントがどうやらほとんど「ロングテイク」で一気に撮られているようであることにも度肝を抜かれました。
特に言い直しをするでもなく、躊躇するでもなく、よどみなく紡ぎ出される美しいコメントの数々。冴え切った彼の頭脳には、明確な「道」が写っているとしか思えません。
また、私がインタビュアーだったらこういうところに触れてほしいな、こういう側面に細かく言及してほしいな、と思うであろうことをピンポイントで言ってくれる。
彼は自分が答える側でありながら、聞き手の意図(この「GIFT」に関するインタビューの場合は羽生さんもある意味、プロデュース側なのでしょうが)や、後々に見ることになる私たちの求めているものを実に的確に嗅ぎ取れるのですよね。
見事です。
そしてやはり、全てを言語化できるということは、それだけこのショーが彼自身の企画であり、彼自身の頭の中で隅々までが計算され、実行に至っている、という証拠です。
これほどの企画を現役を退いてまだ半年とちょっと、といったタイミングで実現させるなんて、いったい彼はどういう人なのでしょうか?
改めて、彼の口からショーのコンセプトについて聞かされて、どれほどの想いが注ぎ込まれているのか、そして彼の目線はどれほど研ぎ澄まされているのか、にもため息が出ます。とてもじゃないけれど、一度(今回、二度目でしたが)の鑑賞では全てを把握できない。
そこで、ハタと気が付きました!
コメント欄でも「特典」について教えてくださった方がいらっしゃいましたが
これはDVDを買って、次の帰国時に、大のユヅファンの母と一緒に見れば良いのだ!
ということですね?
よーし、それまでにカナダでしっかり予習して、母のためにメモを作って、事前に説明をして。。。
いや、それよりもやはり何の予備知識もなく、ストレートに見てもらうべきなのか?
それから改めて、復習?
なんだか新しい楽しみが湧いてきました。
ありがとうございます、羽生結弦様!!
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ちなみに、ショーの合間に流れる羽生さんの「語り」においても、このインタビューにおいても、英語の字幕は優れた出来だったと思いました。(偉そうな言い方ですが)
以上で「GIFT」を久しぶりに鑑賞した感想でした。
数日前から2024年のトロント国際映画祭が始まり、通訳に駆り出されています。
一昨日までは黒沢清監督の「CLOUD」、そして来週は奥山大史監督の「ぼくのお日さま」を担当しています!
こちらに関する記事はまた明日以降に。