2024年ISU世界選手権(モントリオール大会):女子競技振り返り(訂正あり) | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

訂正:「同じリンクで滑っている」というのが千葉選手と吉田選手、という意味だったのですがちょっと分かりづらかったかも知れません。手直ししておきますので、正確に伝わりますように。

 

 

日にちもかなり経ってしまったので、ここからは本当にざっとの振り返りになります。

 

女子の競技について、今回すごく印象に残っているのは坂本選手の貫禄、そして現在の女子フィギュアスケート界においての位置づけ、でした。

 

昨年9月のオータムクラシックに始まり、坂本選手に憧れる若いスケーターがどんどん増えている様子を目の当たりにしてきました。

 

カナダなどでは試合を観に来るお客さんの多くが自身もスケーターであったり、その保護者であったりすると思うのですが、なんと多くの子たちが「カオリが大好き!She's so cool!」と言っていたことでしょう。

 

ソチ五輪以降、特にロシア選手が活躍していた時期は女子のフィギュアスケーターの多くが「華奢な少女」で、あまり楽しそうにスケートをしていないイメージがあったように思います。

 

そこに豪快なスケーティングとおおらかで明るいキャラクターが持ち味の坂本選手が台頭してきて、国際試合を制覇するようになった。これはドーピング事件が影を落とした北京五輪以降、フィギュア界にとって本当に爽やかな風の様でしたね。

 

今回のモントリオール・ワールドで、日本代表チームが「クイーン・カオリ」と二人の(しかも同じリンク所属の若手選手(しかも千葉選手と吉田選手はリンクメイト同士)という構成であったことはとても大きな意味があったと思います。

 

千葉選手、吉田選手にとって、頼もしい先輩と一緒に出場する初めての世界選手権はどれだけ素晴らしい思い出となったでしょうか。

 

 

デイリースポーツより

 

 

フリーの日、演技を終えてキスクラ裏に引き上げて来た坂本選手に向かって、千葉選手が感動と誇らしさで胸をいっぱいにした表情で「さすがです!さすがです!すごいです!」とハグを求めに駆け寄っていました。

 

こんなに自然に後輩を腕の中に飛び込ませるのは、坂本選手の懐の深さ、人格の温かさのなせる業でしょう。見ているこちら側まで心が満たされる場面でした。

 

上位3選手がまるで椅子取りゲームのように次々と入れ替わるグリーンルームのエリアでは、21番滑走の坂本選手の演技後、24番のヘイン・リー選手のフリー終了後までちょっと時間がありました。

 

ずっと和やかな雰囲気の中で皆が談笑していましたが、かつてこれだけ自然に、心からの祝福と友愛の空気が漂うグリーン・ルームがあったでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

表彰式の周回ではアメリカの国旗をイザボー選手のために坂本さんが見つけ、ボード際まで取りに行く、という場面も見られました。クイーン・カオリは他国の選手にも優しく接するのです。

 

 

 

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テレビ局がそれぞれのブースを設けたブロードキャスト・エリアや、ペン記者たちが集まるミックスゾーンでは取材を受ける選手たちのキャラクターが如実に表れます。

 

すでにこのような場に馴染み切っている坂本選手は、実に落ち着いて受け答えをし、知り合いの記者さんたちとは冗談を言い合ったりする余裕があります。

 

また今回は千葉選手と吉田選手のインタビューを聞いていて、二人の試合に対するアプローチの違いが興味深かったです。

 

千葉選手は、ご存知の方も多いかと思いますが、非常に表現力のあるコメントができる方ですね。

 

SPの後は、ルッツの失敗について分析する場合も自分がそれまでの取材で言ったことをちゃんと覚えていて、氷の質に関する感想を「よく滑る(滑りやすい)、というよりも『勝手にツルツル滑って、少し掴みづらい』と言った方が正しいかも知れない」。だからこそルッツに入るまでが慎重になってしまってスピードを抑え過ぎたのだ、と丁寧に分析していました。

 

またモントリオールの会場が「すり鉢状なので歓声の集まる構造になっている」とも言っていました。そのため6分間練習ではその大きな歓声が聞こえて空気に飲まれてしまった、と少し悔しそうな表情を見せていました。

 

でもミックスゾーンを去り際にパディントンのティッシュケースを披露し、さわり心地の良い足を握って心を鎮めているのだ、と笑顔で言っていたのが可愛かったです。

 

あ、もうひとつ千葉選手の面白いコメントとしては、確かフリーの後だったかと思うのですが、今後、改善していきたい点を聞かれて「緊張すると『この世の終わり』みたいな顔になってしまうので(そこをもうちょっと表情管理できるように)」というものがありました。これには取材陣も爆笑。

 

グリーンルーム・エリアにもかなり長い時間、座ることになった千葉選手、お腹が空いたのかクラッカーを一口ずつゆっくり、ゆっくり食べていましたが、「これを食べていると『小動物みたい』ってよく言われます」と。そういった飄々としたところも良いですねえ。

 

ところで肝心の滑りに関しては、背中の美しさ!にいつも感心します。あまりあのような姿勢でジャンプを跳んで着氷できる選手はいませんよね。やわらかい動きといい、素晴らしいスピンといい、今後、どんどん彼女のユニークな面を伸ばして行ってほしいと思いました。

 

 

その一方で吉田選手は同じ大歓声をパワーに替えた、と。なかなか肝っ玉の据わった選手だな、と思いました。SPでトリプル・アクセルを回避してまずはしっかりとエレメンツをこなす作戦で行ったそうですが、6分間練習で「自分が凄いところにいるな」と感動したと言っていました。

 

シーズン最後のフリー演技は今シーズン中に学んだこと全てを込めて滑り、「高く羽ばたきます」と瞳をキラキラさせて言っていたのが印象的でした。

 

今回、海外の取材陣の間では吉田選手のプログラムが両方とても斬新で面白い、という声が聞かれました。SPのライムグリーンと黒の衣装もインパクトがありましたが、フリーの鶴をモチーフとした衣装が良かったですね。エキシビションの黒のドレスを着た吉田選手はまた違った雰囲気になり、色々なプログラムを滑ることができる幅の広い表現力を持つ選手に成長して行ってくれるのだろうな、と楽しみになりました。

 

それにしてもこの二人の若手選手たちにとって、いつも一緒に練習しているリンクメイトと初めてのワールドに出られたのはラッキーだったのではないでしょうか。結果的には初出場にして千葉選手が7位、吉田選手が8位、と見事な順位を獲得しました。これはものすごい快挙です!

 

 

 

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なお、他国の女子に関しては正直、あまり見ている暇がなかったのですが、アメリカのアンバー・グレン選手のフリー後の様子は本当に気の毒でした。なかなか落ち着きを取り戻せず、テレビや記者の取材に応えられるまで時間が掛かりました。

 

何度言ったことか知れませんが、世界中の人々が見ている中で自分が不甲斐ない演技をした選手は、キスクラでもまだ注目を浴びつつ何とか感情をこらえ、裏に戻ったら戻ったで質問攻めに遭う。

 

こういった扱いを我々一般人はほとんどと言ってよいほど受けないので、どれほど辛いことなのか想像できないと思います。いくら慣れている選手にとっても、きっと逃げて穴に入りたい、と思うこともあるでしょう。

 

見ていてこちらまで苦しくなる時がありますが、やっぱり必要なんでしょうかねえ。まあ、メディア的には、必要なんでしょうけど。