2023年ISU世界ジュニア選手権(カルガリー大会):3月4日アイスダンスFDと男子FS | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

ようやく世界ジュニアの最後のレポ記事を書くに至っています。

 

そうこうしているうちに来週はカナダの選手たちが埼玉へと向かうのですよね。トロントのお天気予報は幸い、大きな吹雪が来るようなことも言ってないし、何とか持ってくれるよう、祈っています。

 

さて、3月4日の土曜日はホテルからスーツケースをゴロゴロと引いてシャトル乗り場に向かいました。これを会場まで持って行って、そこから直接、夜は空港に行けば良いと思っていたのですが、すでにお知らせしたとおり、フライトがどんどん遅延され、結局またいったんホテルまで戻ったのでした。

 

そこでSさんと名残を惜しんでもっかいダメ押しのステーキを食べて、長い長い待機に備えたのでした。

 

まあそれは良いとして、会場に着いて早々、アイスダンスのFDが始まりました。

 

キスクラ裏に詰めている我々の必要グッズは:クリップボード、そして滑走順シート、そして予定構成表、です。

 

 

 

 

もちろん、モニターにはそれぞれのスコアやプロトコルなどが出るのですが、手元でもちゃんとチェックしつつ、最終順位などを確認していくのです。

 

加えて私の場合はミックスゾーンや記者会見で通訳をすることになるので、特に日本の選手たちがどういったエレメンツをこなして行ったのかを把握しておくことが求められます。

 

なお、かつてはこういった資料は競技ごとに色分けして(女子はピンク、男子はブルー、ペアは緑、アイスダンスは黄色)全て紙ベースでコピーが配布されていたのですが、最近は資源の無駄をなくすために、メディアには専用のアプリを使うよう、指示が出ています。

 

しかし、我々は選手たちをエスコートしつつ、スマホやタブレットやらを持って駆使している余裕がないので、こうやってプレスセンターでプリントアウトしてもらって、持参するのです。

 

日本のアイスダンスチーム、木田&森口組は前日のRDでの順位が低かったため、早めの滑走順でした。採点競技の現実として、早いグループで滑るとPCSがさほど伸びない、ということがあります。これをおかしい、と思う人は少なくないでしょうが、選手やコーチ側では割り切って受け入れているように見えます。

 

逆にだからこそ、RDで良い成績を出して、なるべく遅いグループに入れるようにする、というのが作戦になるのでしょう。

 

きだもり組のFDは映画「Red Notice」のサウンドトラックを使った、アップテンポのプログラムでした。木田選手の真っ赤なドレスがインパクト大、でしたね。

 

森田選手もしっかりと「決め」のポーズをタイミングよく随所で取って、ジャッジにアピールしていました。このプログラムは本当にすごく小気味よく進んでいくので観ている方もノッて行けます。

 

ミックスゾーンではキャシー先生に前日のミスを引きずらず、思い切っていくように言われた、と話していましたが、本当にその通りの演技だったと思います。

 

 

 

 

 

日本のアイスダンス界が徐々に盛り上がって行っているようで嬉しい限りです。木田選手が今年で16才、森田選手が20才、ということで来シーズンもジュニアに残るのでしょうか?これからも楽しみに彼らの活躍を見守りたいと思います。

 

FDの最終順位は前日同様、首位がチェコのムラスコバ&ムラゼク組、2位が韓国のリム&クアン組、そして3位と4位が入れ替わり、カナダのバシンスカ&ボーモント組が僅差で表彰台に乗りました。

 

 

 

 

 

4位のベッカー&ヘルナンデス組は一見、カナダのチームを上回ったように思われたのですが、リフトが制限時間を超えて、何とも惜しいディダクションを食らってしまったのでした。コーチも選手たちも愕然として、メダルを逃したであろうことを悟った時の表情が切なかったです。

 

それでも毅然として取材を受けたのは立派でした。

 

しかもフィビー選手は大会開始直前までロスバゲで荷物が届かず、前の週は病気で寝込んでいた、と。そしてジェームス選手の方はお父さんが二週間前に亡くなった、というではありませんか。そのような状況下で戦うことが出来た自分たちを誇りに思う、と語っていました。

 

 

 

 

 

アイスダンスの競技が終わると、練習リンクの前のカフェテリア近辺でペアと女子のスモールメダル授与式が行われました。司会はなんと、ナム・ニューエン君。

 

 

 

 

選手たちはそれぞれフリープログラムのメダルと、記念品としてシチズンの時計をもらっていました。

 

 

 

 

金・銀・銅で時計の大きさも違ったので、式が終わって比べ合っていたのも可愛らしい。

 

 

 

 

女子はこちら:

 

 

 

 

 

 

 

そしていよいよ、最終種目の男子FSとなりました。

 

午前中の公式練習の後、三浦選手が面白いことを言っていて、前日の島田選手のスコアに負けないようにしないと、と吉岡選手と気合を入れ合った、ということでした。

 

そしてジュニアのフリープログラムは制限時間がシニアよりも30秒短いので、三浦選手は最後、野獣からプリンスにならずに終わる、ということも私は初めて知ったのでした。

 

「でも良いです、自分らしくて。ビースト三浦で行きます!」

 

思えば昨年の秋、GPスケートアメリカから連続でGPスケートカナダへのアサインがあり、三浦選手をオークビルのリンクでボランティア仲間のYちゃんとアテンドしたのでした。その時の彼の様子と比べても、ひとシーズンでかなり成長したのが見て取れました。

 

四大陸選手権での優勝のおかげかも知れませんが、ジュニア世界選手権での三浦選手は堂々と落ち着いて、まさに「格上」のオーラを放っていました。全く優勝が疑われない、とでも言いましょうか。注目すべきは彼がどのようなスコアを出して、他の選手にどれだけの差をつけて優勝するのか、ということだったと思います。

 

ジュニアのプログラムはショートに必須課題のジャンプがあり、今シーズンは「ループ」でした。多くの選手はループを嫌う傾向にあり、三浦選手も吉岡選手も好きではないジャンプ、と言っていました。

 

しかしジュニアである内は苦手なジャンプをも身につける必要がある、という考えのもとにこのような制限が掛けられているのだそうです。

 

一方、フリーとなると一気に選手間の実力の差が出ます。男子では特に、クワッドがプロトコルに入っているかどうか、トリプルアクセルは何本跳べるのか、そしてコンビネーションではどような組み合わせが出来るのか、で大きくスコアが違ってきますからね。

 

11番目に滑った中国の「Yudong CHEN」選手が素晴らしい演技を見せました。果敢に二つのクワッドを跳び、4トウループではミスが出たものの、そこでコンビネーションとなるはずだった3トウを3ルッツの後にしっかり付けて、点数を稼ぎました。

 

長い間、チェン選手が首位を保ち、ショートでの14位からどんどん順位を上げました。最終的にはフリーで5位、トータルで8位と驚異的な追い上げでした。

 

逆にショートでは5位だったスエーデンのノルデバック選手がフリーで13位、トータルは11位、と沈みました。私の印象としてはジュニア男子にこういったパターンは多く、二つのプログラムをなかなか揃えられない選手を良く見かけます。

 

さあ、注目の吉岡選手。「パイレーツ・オブ・ザ・カリビアン」の衣装が良く似合っています。この音楽、すごく良いですよね。ハビエル・フェルナンデス選手もかつて使っていたと記憶しています。懐かしい。

 

全体的にはジャンプの幾つかがすっきりと決まらず、ちょっと着氷でぐらついたり、というものが見られましたが、とにかく予定通りの構成で滑り切りました!来年はシニアで参戦する、と言っていますのでやはり複数のクワッドを跳ぶことが求められるのでしょう。

 

そして暫定首位に立ち、この後、なかなか抜かれることがありませんでした。

 

 

 

 

ジュニアGPのファイナルでは優勝したメモラ選手、フリーでかなり挽回しましたが、結局は4位どまりでした。ファイナルでのあの弾けるような演技にはならず、やはりピーキングの難しさを痛感したことでしょう。

 

アメリカ期待の若手、ルカ・ブルサール選手。彼はジェイソン・ブラウン選手を彷彿とさせる抒情的なスケーターですが、どうも今大会は彼もベストの演技が出来ませんでした。非常に残念でしたが、とても美しい滑りをする選手ですので、今後の活躍に期待しましょう。

 

SPで三位につけたナオキ・ロッシ選手。このプレッシャーの中でどういう演技をするかと観ていたのですが、丁寧にエレメンツをこなしていって、しかも最初のコンビネーションの難易度を上げたところ、3ループが2ループになりました。しかしその後、またしっかりと3ルッツにコンビネーションで3トウをつけ、落ち着いて全ての要素を滑り切りました。

 

この選手もとても綺麗なポジションを見せるので、何となく往年のエマニュエル・サンドゥーに似てるね、と他のカナダ人のスタッフとも言い合ったことでした。まだ16才ですか?これからどういうスケーターに成長していくのか、期待されますね。

 

演技が終わった時点でまだ二人、滑走が残っていましたが、ミックスゾーンで取材を受けている内に次のウェスリー・チュウ選手が2本のクワッドをパンクしてどうやら自分が2位に上がりそうだと気づき、パニクっていました。

 

 

 

 

 

そう、カナダのウェスリー選手は果敢に4トウループをを二本、構成に入れてきたものの、両方ともパンクしてしまったのです。そのため、フリーでは8位、総合で5位に落ちてしまいました。

 

さあ、とうとう「ザ・ビースト」三浦選手の登場です。もう出てきた途端から会場中の期待のレベルがグワッと上がりました。何を見せてくれるのか?

 

最初は3アクセルからのオイラー+3サルコウ。そして次の4トウは少し着氷でバランスを崩しましたが手はつきませんでした。

 

4サルコウは軽々と決まり、どんどん加速していきます。

 

後半に入って二本目の4トウにコンビネーションで3トウを付け、観客席からどよめきが起こります。私もモニター前で思わず「おおっ!」と声が上がりました。ワハハ。

 

最後の3ループだけがちょっと危なっかしかったですが、もうこの時点で技術点のカウンターが1人だけ90点台だったので、問題ありません。貫禄の演技、圧倒的な勝利、でした。

 

 

 

 

なんだか本当に面白い選手が出てきましたね。これからも怪我無く、成長して行ってくれますように。

 

 

 

 

 

記者会見ではナオキ選手がまだ信じられない、という様子で感慨にふけっていました。

 

なお、チームリーダーの方に聞くところによると、ナオキ選手は日本語、英語、ドイツ語、スイス式ドイツ語、イタリア語、そしてフランス語が話せるそうです。私が聞いた限りでは日本語と英語は完璧でしたので、その他の言語も同じレベルだとすると驚異的ですよね。

 

そして三浦選手も吉岡選手も最初のコメントは英語で、ということで、ちゃんとしっかり発言していました。

 

三人ともが「ループは苦手」と言ったのも面白かったです。

 

 

 

 

 

また、弱冠17歳の三浦選手が「自分は来年、シニアで戦うので、次のジュニアの子たちにバトンを渡します」と大人っぽく言っていたのも笑えました。君、まだめっちゃ若いやん。

 

 

では以上で、2023年ISU世界ジュニア選手権のレポートを終えます。

 

次は埼玉、ですね。

 

さいたまスーパーアリーナの現地にいらっしゃる方、ぜひコメント欄にてお知らせください。お会い出来れば幸いです。

 

その方法やタイミングについてはまた調整いたしましょう。