2020年カナダ選手権レポートその② | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

カナディアン・ナショナルズのレポートの続きです。

 

昨日の記事では言い忘れましたが、1月17日(金)は男子の競技の前にペアのSPもあったのでした。

 

ペアは昨年のチャンピオン、ムーアタワーズ&マリナロ組の優勝がほぼ「決まり」という見方だったのであまり波乱はないだろうと思われましたが、SPでカーステンに珍しいジャンプのミスがあり、意外にもトップ3の点差が詰まりました。

 

今シーズンから組んだイリユシェシキナ&ビロドーたちが非常に良い演技を見せて二位に入り、三位にはウオルシュ&ミショー組が。妥当な順位ではありました。

 

 

さて、男子。

 

今大会をカバーしているライターたちや、メインの放送局であるTSN&CTVの取り上げ方では、キーガン・メッシングかナム・ニューエンがタイトルを獲るだろう、というのがまるで決まったような雰囲気でした。あまりにも二人の友情をクローズアップしてストーリーを作っているのにはちょっと違和感を覚えるほど。

 

昨年のさいたまワールドの現場でも、確かにキーガンとナムは始終、一緒に行動していたし、仲が良いのは事実の様です。

 

 

 

 

そしてキーガンの家族に大きな不幸があり、それが今シーズン、彼の演技にドラマを与えてしまっているのは否めない。でもだからと言って試合を戦う前からちょっと盛り上げすぎ?というのは私自身、感じていました。まあ、メディアはこういう煽り、好きですからね。カナダの連盟もそれに乗っかってるし。

 

 

 

 

ただ、シーズン前半の成績を比べてみると、キーガンはオータムクラシックで3位、GPはスケアメが4位、中国杯4位。ナムはネーベルホルン4位、スケカナ2位、そしてロステレコムで5位。ローマンはフィンランディア杯3位、スケカナ10位、そしてNHK杯で3位、という風にものすごい差があったわけではない。ローマンのスケカナでの不振はちょっと不味かったけど、その分、一番最後のGP戦で表彰台に乗っている。

 

あれ、そう考えると三人とも、今シーズン一度は羽生選手と同じ表彰台に乗ってるんだわ。

 

まあそんなこんなで、会場で最初にローマンに会った時に顔がシュッとなってて、「おっ、気合入ってるな」と感じたのは何かの前触れだったのでしょうか。(これはその日の内に友人にメッセージで伝えているので、「後出し」じゃないですよ、念のため。)

 

カナダの男子はその他にも何人か注目すべき選手はいます。クリケット・クラブのジョセフ・ファン選手、そしてコンラッド・オーゼル選手。この二人にはブライアン・オーサーとジスラン・ブリアンが帯同していて、どういう演技を見せるかが期待されました。

 

SPは結果から言うと、キーガン首位、ナム2位、そしてローマン3位。ジョゼフはなかなか良い演技で4位に食い込みました。コンラッドはどうもジャンプが安定せず、8位。なかなか厳しい出だしとなりました。

 

すでにお伝えしたとおり、ナショナルズの中継はTSN&CTVが担っています。GPスケートカナダも同じクルーが担当しているため、すっかり顔なじみになっているのが舞台裏のインタビュアー、サラ・オルレスキー嬢。彼女は色んなスポーツに通じていて、フィギュアスケートの他、カナディアン・フットボール(アメフトと似て非なり)の主要大会でも活躍しています。

 

ディレクターのジェイミーさんとも連携はバッチリ、どの組のどの選手を連れて行ったらよいのか、を事前に打ち合わせしておいて滞りなくエスコートして行くのが我々ミックスゾーン係です。

 

しかしトップの順序がなかなか決まらない場合、最後まで選手を通路に留めておいて、最終滑走まで待たせることもあります。SPではキーガンを留めておいたのに、ナムの滑走が終わると同時に走り出してキスクラまで行ってしまったため、二人一緒にインタビューすることになりました。

 

ところでこの↓TSNのツイート、スペルのミス("congratulate" が "cogranulated" になってる。グラニュー糖ちゃうっちゅうの。)がひどいわ。メディアセンターでも話題になってましたが。

 

 

 

https://twitter.com/SkateTSN/status/1218364408101064704

 

 

ちなみに解説はトレイシー・ウィルソンさんとロッド・ブラックさんでしたが、ワールドなどのISUの大会はCBCが放送局となります。この場合、解説はカートさんやキャロルさんが担当して、舞台裏のインタビューはさいたまワールドでもそうだったように、ブレンダ・アービングさんとPJクオンさんが出番となるはずです。(というわけでトレイシーさんはモントリオール・ワールドの際に、ちゃんとコーチとして選手に帯同できる、って話ですね。)

 

 

1月18日(土)

 

土曜日は厳密に言うと私はシフトに組み込まれていなかったのですが、行けば仕事があるのは分かっていました。しかし数日前から予報でこの日は大雪が降って道路がどうなるか分からない、ということだったので、行くかどうか非常に迷いました。

 

パイパーたちの優勝の瞬間に立ち会いたい、男子の競技の行方を見届けたい、と思うものの、朝の9時半ごろから雪が降り始め、アッという間に真っ白な壁の様な状態になりました。

 

どーしよー、どーしよー、と思っているところに会場にいる友人たちからメッセージが届き、どうしても行きたいという気持ちがこみ上げて来る。恐る恐る、夫に頼んで会場まで運転してくれるか確認すると、意外にも快諾。彼も市内でコンサートを観に行くことになっていたので、この際、一緒に出ようということになりました。

 

というわけでアイスダンスのFDと女子のフリーは家でテレビ観戦。前者は予想通り、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエの美しい演技で初優勝が決まりました。ああ、嬉しい。このジョニ・ミッチェルの曲に合わせての彼らのFDプログラムは本当にどんどん、磨きがかかっています。あと二回、四大陸選手権とワールドで観られるのが楽しみです。

 

 

 

 

 

 

しかしまあ、女子の部の大波乱は何としたことか。あるいは想定内、ということなのか。SPで良い演技を見せた首位のアリシア・ピノ―が崩れ、ガブリエル・デールマン選手も散々な演技となり、表彰台に乗ったのは三人ともジュニア世代の選手でした。

 

首位がエミリー・バウスバック選手、彼女のコーチはケヴィン・レイノルズを育てたジョアン・マクラウドさん。二位のアリソン・シューマッカーは今シーズンからクリケットクラブに移籍して来た選手です。そして三位に入ったのは16才のマドライン・スキザス、SPで二位に入った勢いでメダルを獲得しました。

 

 

Photo by Danielle Earl, Skate Canada (2020 Canadian Nationals)

 

 

奇しくも7年前に同じ会場で開催された2013年のナショナルズでも、三人の若い選手が表彰台を独占したのが思い出されます。17才のケイトリン・オズモンド、15才のガブリエル・デールマン、そして16才のアレイン・シャートランという顔ぶれが懐かしいですね。

 

 

 

 

 

というわけで悪天候の中、何とか大会現場までたどり着いたのが男子とペア競技の直前。

 

 

 

 

メディアセンターに向かうと、たまたまベテラン記者の一人、スティーブ・ミルトン氏の「カナダ・フィギュアスケート殿堂」(そういうものがあるのです)入りのお祝いの途中でした。特別に野菜ディップなどが振る舞われ、皆さんご機嫌でした。

 

そして男子の第一グループが終わった時点で、日本から応援にいらしていたSさんとも合流出来て、差し入れを頂きました。

 

 

 

 

とっても美味しい焼き菓子をありがとうございました!!

 

さて、私はこの時すでに、男子の結果を予告していたのでSさんにも証人になって頂けますが、まだもちろん、試合前のこと。

 

ペアは予想通り、ムーアタワーズ&マリナロの圧勝でした.


 

 

コーチのブルノー・マルコットさんも嬉しそう。このチームと同じリンクで練習している日本代表の三浦&木原組にとっても幸先の良いニュースとなりましたね。ちなみにキスクラに一緒に座っているのはペアの振り付けの第一人者であるジュリー・マルコットさん、ブルノーコーチとは兄妹です。

 

二位はウオルシュ&ミショー組が逆転して掴み取り、イリユシェシキナ&ビロドー組はミスが響いて残念ながら銅メダル。しかし組んでまだ一年にも満たない彼らですからまだまだ伸びしろはあります。

 

 

そしていよいよ男子のフリー演技、第2、第3グループが始まります。

 

舞台裏でのコーチと選手との最後のやり取りが本当に様々で興味深い。長年の付き合いの中でどういった言葉をかけたら良いのか、のパターンがあるのでしょう。落ち着かせたり、鼓舞したり、スローガンを唱えたり、談笑したり、あるいは黙って送り出したり。

 

そして演技が終わると、この会場ではコーチが立っていた場所からキスクラ裏までがとても遠いので、皆さん必死でダッシュしてきます。そのため、息を切らしていたり、テレビのカメラがキスクラを写し出すまでに間に合っていなかったり、と気の毒なほどでした。

 

そう言えば2016年のGPスケカナもここで開催されたのですが、同じような事が起こって、日本の某コーチ(ちょっとお年を召されていた)が辛そうにしていらしたのが思い出されました。そして日本のファンの方々から「どうしてなかなかキスクラにコーチが来ないのかと思っていた」という感想が寄せられたんでしたね。

 

テレビに写らない所では色んな事が起こっているのですよ。

 

あと、キスクラで点数を待ちながら、選手とコーチがふと横の方を向いてポーズを取ったりしますよね?あれは各チームリーダーのスマホなどに記念写真を撮ってもらうためなのです。このカナダ選手権でも各選手、各ペアのために州のチームリーダーがスマホをカーテンの裏からスタッフに渡して、キスクラ脇から撮ってもらっていました。貴重な思い出になりますから、ちゃんと記録に残しておかないとね。

 

 

第二グループには二年前のジュニア・チャンピオン、マシュー・マーケル選手がいましたが、私は彼の滑りがとても好きです。SPはちょっとジェイソン・ブラウンを彷彿とさせる衣装と振り付け、フリーでも伸び伸びとした美しい演技を見せました。トータルでは9位に入りました。

 

同じグループにはコンラッド・オーゼル選手がいましたが、コーチとしてキスクラに帯同しているのはブライアン・オーサーとペイジ・エイストロップでした。ジスランコーチもキスクラ裏でモニターをしっかりとチェックし、結果が出てコンラッド君の笑顔を見届けるまで動きませんでした。コンラッド君、フリーでは後半から持ち直してようやくジャンプが幾つか決まり、本人も納得して試合を終えることができたようです。フリーは6位という順位、トータルでも8位から6位へと順位を上げました。おそらく負傷や靴の不具合を抱えてのシーズンだったのだろうと思われますが、彼らしいジャンプを早く取り戻せるよう祈っています。

 

ちなみにジスランコーチは国際試合の舞台裏でいつもひょうきんなジェスチャーや表情を披露してメディアにも注目されるのですが、こういった国内の試合でほとんど誰もいない所でもトラボルタのダンスの真似をしたり、あの大きな目をひん剥いて喋ったりしているので、おそらく普段の生活でもああいう方なのでしょうね。

 

さあ最終グループ。ジョゼフ・ファン選手の滑りも見応えがあります。ジャンプが安定しないのがもったいないですが、とても柔軟性があって、スピードもあるし、スピンも綺麗。今年もまだジュニアの大会に出ているのですが、来年からはシニアに参戦して来るでしょう。演技後にモニターでスコアをコーチたちと確認して、満足そうでした。トータルでは4位、と健闘しました。

 

そしてトップ3ではまず最初にローマン選手が滑ります。本当に背の高い選手ですが、かつては長すぎる脚が災いしていたのに、今となってはパワーを生み出す武器と変わりました。その点についてはトレイシーさんも解説で言及していて、彼のスケーティング・スキルは注目すべき、と。本当にものすごいスピードでリンクの端から端までを、数ストロークで制覇してしまいます。

 

今シーズン、シンドラーのリストの曲を用いている選手が多い中、多分ローマン選手のものが一番、見栄えがするような気がします。

 

NHK杯とほぼ同等のフリーのスコアをもらって暫定首位。これで表彰台は確定するのですが、実は彼、これまで一度もナショナルズでメダルを獲っていなかったのですよね。驚きです。

 

ここからキスクラ裏でモニターをじっと見つめながらの長い待機が始まります。この時間はかなりストレスだろうなあ、と思いながら私もそのすぐ近くで見ていました。

 

そしてキーガン、ナム、と優勝候補の演技が続いた訳ですが、端的に言うと「自滅」。二人とも十分、勝つチャンスはあったのにミスを重ね、逃してしまったという印象です。

 

優勝が決まった瞬間の映像をTSNのツイートでどうぞ:

 

 

 

ローマン君が長年のコーチ、グレゴー・フィリポウスキとトレイシー・ワインマン達と、ひしと抱き合っているのが感慨深い。

 

10月のGPスケートカナダではフリーでちょっと悲惨な演技をしてしまい、どう声を掛けて良いのか分からない感じだったのが、こうやって見事にカナダチャンピオンのタイトルを獲得したとは。本当に良くピークを合わせてきました。

 

 

 

 

ということで男子の表彰式が行われたわけですが、翌日、カナダ連盟から発表された代表チームは男子女子ともに、ワールドに関して未定、と。まずは四大陸選手権に出場させて最終決定をするとのことでした。

 

 

せっかく初タイトルを獲得して、ローマンがひと枠しかないモントリオール大会への切符を手にしたのかと私は思っていたのですが、過去二年間の実績やワールドランキングなど、他にも幾つか要素はあるのですね。

 

成績次第でまだナムやキーガンにもチャンスがある、ということになりますか。それぞれの選手のファンや関係者としては、あと数週間、落ち着かない日々が続きます。

 

ペアとアイスダンスに関しても、ワールドの出場選手が完全に決まったわけではありません。ペアでは優勝したムアータワーズ&マリナロが確定していますが、二枠目は未定。アイスダンスはギレス&ポワリエと二位のラジョワ&ラガたちは確定ですが、三枠目は四大陸選手権後にアナウンスされるようです。

 

四大陸選手権に出場するのは今大会の表彰台に乗った選手ほぼ全員。

 

 

 

 

その影響はジュニア世界選手権にも及ぶと思われます。特に女子の場合、どうなるのかはまだ分かりません。

 

 

 

 

 

日曜日のエキシビションはさすがに疲れて行けなかったので、カナダ選手権のレポートは以上です。また何か質問があればどうぞ。

 

さあ、これからヨーロッパ選手権、そして全米選手権かあ。フォローするのも大変だ。