偉大なアスリートの証:膨大な情報を瞬時に分析し、言語化する能力 | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...




まだか、まだかと待っていた春がやって来たかと思いきや、一気に初夏に飛んだような陽気です。


こちらのジョークで


「カナダには季節が二つしかない。一つは冬、そしてもう一つは七月。」


と言われるように、本当に極端な気候の変化です。、


我が家の裏庭には今年も大好きなスズランが咲き(そして枯れ)




可愛いポピーも目を楽しませてくれました。




さて、息子たちが帰って来てからほぼ一か月が過ぎましたが、つい先日、長男が私に論文を見てくれ、と言ってきました。

息子の主専攻は哲学だったのですが、卒業要件の一つとして提出した論文のテーマが「スポーツにおける『集中』の謎を解く」というものでした。



細かい内容はさておき、途中でちょっと面白い考察があったのでブログに使わせてもらうことにしました。

息子によると:

エリート・レベルのアスリートの中で、自分の競技中の咄嗟のプレイについて

正確に、的確に説明をできる者は意外に少ない

インタビューされてもたいていは使い古された言い回しで、陳腐な返事をする

それが単に面倒くさいからなのか、独創的な言葉が見つからないからなのか、

はたまたあまり自己分析しすぎてのちのち、変に意識してしまうのを避けるためなのか



。。。という点が興味深い、ということでした。



そこで「ちゃんと説明できる例」として挙げられたのが、現在プロホッケーのゴールキーパーではナンバーワンとされるCAREY PRICE

(ソチ五輪ではチームカナダの守護神として金メダル獲得に貢献し、昨シーズン終了後にはMVP賞、最優秀キーパー賞などを総なめにしました)




昨年の秋に国営放送のCBCで彼の特集が組まれ、ベテランのニュースキャスター、Peter Mansbridge のインタビューを受けた時のことです。




マンスブリッジはプライスに一枚の写真を見せて聞きます。




M: 「この写真は先日の試合中のものですが、ゴールに向かって来る選手に対して、あなたはパックをレーザーの様に鋭く凝視しているように見えます。この時、頭の中では、どんな考えがよぎってるのでしょうか?」




P: 「パックというより、この時は相手の選手のスティックを見てるんだと思います。」





P:「これは確かマディソン・スクエア・ガーデンでの試合で、相手はパーシャル・ブレイクアウェイ(キーパーとの一騎打ちのような形)で向かってきていた。そこで僕はポークチェック(スティックで素早くパックを突くプレイ)するべきか、それか打たれたショットを止めるべきかで迷っていた、ってところですね。で、結局はポークチェックしたわけなんですけど、それで相手の手元が狂って。。。

まあ色んな要素が関わってて、それを全て、読まないといけない。だからいつもビデオ映像を見て予習するわけなんです。試合中は考えるんじゃなくて反応するだけ、になるように。その方が読みが当たる確率が高くなるんで。」

しかもこの後、プライスはさらにシューターのスティックの角度背後から味方のディフェンスマンが迫って来ていたことにも触れ、だから自分がここでポークチェックをしたら相手が虚を突かれてミスを犯すだろうと判断した、と言います。


瞬時にいかに多くの情報(会場の特徴、相手がどのくらいの距離から突進してきているか、スティックの持ち方、味方の動き)を意識し、分析しているか。


マンスブリッジはものの1秒にも満たないプレイについて、プライスが45秒以上もの説明を行ったことに驚きを隠せません。






息子によると、同じ状況下に置かれた場合、自分ならせいぜい相手のスティックの角度くらいしか意識する余裕がない、ということでプライスとの差に愕然しただけではなく、プライスがテキパキと自分の頭の中の動きをステップごとに言語化していることにも感心したそうです。


考えずに、本能に任せてプレイする、ということは確かに大事だけれど
(プライスの言うようにあまり競技中は考えすぎると動きが滞ってしまうという危険性があるので)


自分のプレイについていつも意識して、それを言葉で説明できる選手は、スランプに陥った時に強い、
(調子の良い時にどういうプレイをしていたか、を自分で確認して再現できるから)


というのが息子の持論のようです。


ちなみにプライスはこのインタビューから間もなくして負傷し、今シーズンは休場を強いられてしまいました。怪我から立ち直り、今は練習に戻っていると聞いていますので、きっと来シーズンはまた素晴らしいプレイを見せてくれるに違いありません。



あ、あと一つだけ。


私は息子の論文を読んで


「もう一人さあ、(競技における自己分析力と言語化に長けているという)例に使ったら良いと思うアスリートがいるよ。」



と言ったのですが、



さてそれは誰でしょう。