2016年カナダ選手権:雑感(その2) | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...



雑感(その1)の続きです。



女子シングルスでアレイン・シャートラン選手の優勝が決まってしばらくたっても、彼女、本当にまだそのショックに呆然としていました。

何度もこめかみに両手を当てて、

I can't believe it


と繰り返してる様子はおそらくテレビにも映っていたと思います。


ちょっとした隙に、「日本のファンも喜んでるよ」と私が言うと

My Japanese fans!....

と感に堪えないような表情で「報告しないと」、と自分に言い聞かせるようにつぶやいていました。


コーチのミシェル・リー、そしてブライアン・オーサーもお互いを祝福し合い、指導者として最高の時間を共有している様でした。



さて、夕方から行われた男子フリーの演技。


ローマン・サドフスキー君の出番辺りから舞台裏にはりつくようにしていました。


ローマン君は昨年、大躍進してカナダ選手権で4位に入りました。美しいスケーティングとしなやかなスピン、ジャンプを着氷した際のフリーレッグのラインが印象的でした。


ところが今シーズンは夏ごろから急に背が伸びて、またたく間に178センチくらいの長身に。

彼もまた、ケヴィン選手に負けず劣らずの脚の長さで、間近で見ると「プロポーション、おかしいんちゃうか?」と、ちょっとビビるほどです。


そのせいか微妙にジャンプのタイミングが崩れてしまったようです。


最初のJGP大会では見事に4Sを決めるなどして優勝し、幸先が良かったのに、次の大会は3位、そしてJGPFでは残念な最下位に終わってしまいました。


不調をそのまま引きずった今大会でもショートではかなりしんどいスコアを出してしまっているため、フリーでの巻き返しが期待されました。

結果としてはなんとか頑張って滑り切り、その時点では大差で暫定一位につけました。さすがに本人もちょっと表情が柔らかくなって、コーチと抱き合って喜んでいました。彼にとって、グランプリファイナル辺りからかなりしんどいシーズンとなってしまったので、せめてもの報いだったのでしょう。



余談になりますが、いわゆるヨーロッパ系の人の体型って単に「脚が長い」というだけでなく、極端に胴が短い場合が多々あります。

肩の下がすぐお尻、みたいな。

これはもしかするとスケー トなどの競技には不利なのかも知れません。

聞くところによるとローマン君は首から背中の上部にかけてがとても柔軟で、そのためレイバックスピンがものすごく 綺麗なのですが、それにしてもアクセルが苦手すぎる。前後には折れるけど、腰からひねって、というのがやり難いのかなあ、と素人的には思ってしまいます。

そこへ行くと羽生選手は手足が長く、すらりとしていますが、胴は薄く、細く、そして適当な長さなのですね。柳の様な、と言いましょうか。

かつて、(2014年GPFフリーの演技に関して)CBCの解説の中でキャロル・レインさんが

He’s actually almost the perfectly designed figure skating machine.
彼ってまさにフィギュアスケートをするために完ぺきに設計されたマシーンみたいね

とおっしゃってましたが、まさにその通り。

全てが理想的な造りなのです。




あ、また脱線してしもた。


まあとにかくローマン君の演技が無事に終わりましたが、この時点で彼はジュニア選手の中でもショートで6位につけていた二コラ・ナドー(Nicholas Nadeau)君に勝てるかどうか分かりませんでした。ナドー君も長身で180センチ近くあるようですが、彼の場合、すでに18才になっているので自分の体に慣れているのでしょう。力強いジャンプが持ち味で、ジュニアというよりはすっかり大人の雰囲気でした。

このほか、ベネット・トーマン(Bennet Toman)君という18才の選手がいて、彼もショートで8位に食い込んでいました。なのでジュニア選手の中でもローマン君、出遅れてたんですね。


結果的には去年の4位からかなり落ち込んで9位。ジュニアGPFに出場していながら、ジュニア世界選手権には出場できないという予想外の展開になってしまいました。


すでに大会終了から日にちが経っていることもあって皆さん、順位に関してはご存知のことと思いますので簡単に。

優勝したパトリックについては、ショートに続いてフリーでも安定した演技を見せ(後半部分ではジャンプにミスが目立ちましたが)、圧巻の王座奪還、でした。一人だけ別格、と(フィギュアにはあまり興味がなく、生観戦は初めてだった)うちの主人でさえも言ってました。

二位に入ったリアム・フィルス選手、彼は2013年のカナダ選手権で観た時、パトリックに似た滑りをするスケーターだと思いました。ジャンプは特にトリプル・アクセルが得意ではありませんが、PCSに助けられての結果だったと思います。

そして三位のケヴィン・レイノルズ、本当によく復帰してくれましたね。去年のカナダ選手権であまりにも悲しい棄権をしていただけに、メディアも連盟関係者も喜んでいました。

ところでここ2シーズンほどはさんざん、スケート靴の不具合に悩まされたケヴィンですが、腰の手術をした後は完全休養、スケートの練習をしなかった時期が長かったために思いがけない好影響が!

これについてはスミスさんの記事:"Kevin Reynolds Sighting"に詳しくありますが、抜粋しますと:


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During his time off the ice, his wounds healed. And surprisingly, his feet grew without the pressure of being in boots all the time. They spread out more at the toes.
氷に乗らずにいた間に(手術の)傷は癒えていった。そして驚いたことに、スケート靴にずっと締め付けられることがなかったため、足が大きくなった、と彼は言うのだ。指の部分がもっと広がった、と。
 
Remember all of his boot woes from the past two seasons? Going through a dozen pairs of boots, unable to find any that fit him tightly around his narrow heels? His feet would slide in the boot, not allowing him to follow his star of being Canada’s Quad King.
読者の皆さんは、過去2シーズン、彼を悩ませ続けたたスケート靴の不具合について憶えていらっしゃるだろうか。何十足もの靴を試しても、彼の幅の狭いかかと部分にぴったり沿ってくれるものが見つからずにいたことを。靴の中でかかとが滑って安定しなかったせいで、「カナダのクワッド・キング」としての道を歩み続けられなかったことを。
 
Well, Reynolds has been able to move up half a size in skating boots. And he found three or four pairs of boots in stock of the model he used during his most successful season. He bought all of them up, boot problems apparently solved for the next few years. Incredibly.
それがなんと、レイノルズは半サイズ上のスケート靴を履けるようになったそうなのだ。そして最も調子の良かったシーズンに履いていた同じ型の、(カスタムメイドではなく)市販のものを三、四足も見つけてしまった。それを全て買い占めて、どうやら数年後まで靴には悩まされなくても良いことになったらしい。なんとも信じられないような話だ。
 
“Sometimes you have to leave things to fate,” he said, smiling.
「時には、運命に物事を任せるしかない、っていうことですね」と彼は言い、微笑んだ。

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そう、スマイル!ケヴィンは今大会、ずっと微笑んでいました。時には静かに落ち着いたスマイル。そして演技の後は楽しくてたまらない、といったようなスマイル。

長く、苦しい時期を乗り越えて来たからこそ、の百万ドルのスマイルでした。


さて、一方で大きな挫折を味わったのが昨年のチャンピオン、ナム・ニューエン選手でした。


ローマン君と同じく、昨年は飛躍のシーズンだっただけに、今年のカナダ選手権は彼にとって失望の記憶となるでしょう。


ショートでいつものような元気が見られず、フリーでもスピードに乗れませんでした。衣装は二つとも新しい物を仕立て、とても綺麗でしたが、何よりも彼の持ち味である自信に溢れた、安定した滑りが全く影を潜めてしまっていました。


舞台裏に戻って来たナム君、集まった記者たちに(これまたローマン君同様)確かにどんどん背が伸びて、今では5フィート10インチ(約177センチ)になったけれど、それを自分では決して言い訳にしたくない、と言いました。
:
“No. Never. I cannot forgive myself for this entire season, to be honest with you. This season has been so bad for me.’’
「いえ、絶対に(言い訳には)したくないです。正直、このシーズン全体を通してみても自分が許せません。今シーズンは本当に自分にとってさんざんでした。」



上海の世界選手権で最後の最後までハビエルやユヅたちと上位争いに加わっていた2015年の3月、あの時の自分はどこに行ってしまったんだろう、と信じられないような気持ちでいるに違いありません。あれからまだ一年も経っていないのに、自分で獲ったワールドの枠を逃がしてしまったのです。

ただただ、呆然としたような表情でした。



ローマン君、ナム君にとってこれほど短かいスケートシーズンは今まで経験がなかったのではないかと思います。少なくともジュニアに上がってからは、カナダ選手権が終わったら何かしら、国際試合が待ち受けていたのですから。


ずっとレギュラー・シーズンを戦って来て、「さあこれからが本番、プレイオフに突入」という流れに慣れているプロ野球やプロホッケーの選手たちも、急にその目標が消えてしまうとなんとも手持無沙汰になってしまうと聞きます。


喪失感、挫折感、一体これまでの一年間は何のためだったんだろう、という脱力感。


それぞれの練習拠点に戻り、周囲が四大陸やジュニアワールド、ワールドへと向けてトレーニングに拍車がかかる中、どうやって士気を保って行くのか。どうやって自分を奮い立たせるのか。


これまで何の曇りもなく順調なキャリアを積んできたナム君に大きな壁が立ちはだかりました。


乗り越えて、さらに強くなって、来シーズンに挑んでほしいと思います。



ちなみに2月26日、ナイアガラ地方でアイスショーが開催され、ナム君が出演します。

ヴァーテュー&モイヤー組、ハビちゃん、そしてカートさんバトルさんアシュリー・ワグナーケイトリン・オズモンド選手たちも出ますよ。

これでちょっとは元気が出るかな?