『ラグタイム』(2023)日生劇場
日本では今回が初演。
脚本 テレンス・マクナリー
歌詞 リン・アレンズ
音楽 スティーヴン・フラハティ
翻訳 小田島恒志
訳詞 竜真知子
演出 藤田俊太郎
ターテ:石丸幹二
コールハウス・ウォーカー・Jr.:井上芳雄
マザー:安蘭けい
ファーザー:川口竜也
サラ:遥海
ヤンガーブラザー:東啓介
エマ・ゴールドマン:土井けいと
イヴリン・ネズビット:綺咲愛里
ハリー・フーディーニ:舘形比呂一
ヘンリー・フォード/グランドファーザー:畠中洋
ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITH
リトルボーイ:大槻英翔(おおつきえいと)、村山董絃(むらやまとうげん)
リトルガール:生田志守葉(いくたゆずは)、嘉村咲良
リトルコールハウス:平山正剛、船橋碧士
(以上ダブルキャスト)
新川將人、塚本直、井上一馬、井上真由子、尾関晃輔、小西のりゆき、斎藤准一郎(さいとうしゅんいちろう)、Sarry、中嶋紗希、原田真絢、般若愛実、藤咲みどり、古川隼大(ふるかわはやた)、水島渓、水野貴以(みずのたかい)、宮島朋宏、山野靖
(以上アンサンブル)
1900年初頭、ニューヨークを中心とした白人、黒人、ユダヤ移民らの物語。
娘(リトルガール)の未来を考え、ラトビアからアメリカに渡って来たユダヤ人のターテ(石丸幹二)は、切り絵売りをしていた。しかしなかなか金にならないし、やはり移民の立場は苦しい。しかし、諦めかけたある時、娘のために作った動く絵本(いわゆるパラパラ漫画)が人の目に止まる。やがて映画を作るようにまでなる。
ピアニストの黒人コールハウス・ウォーカー(井上芳雄)は才能はあるが恋人のサラ(遥海)に愛想を尽かされ去られてしまう。
裕福な白人家庭のマザー(安蘭けい)は偏見を一切持たない正義感あふれる女性で、息子のエドガー(リトルボーイ)もマザーにならっている。一方父親のファーザー(川口竜也)はごく一般的な社会通念の持ち主で、仕事が忙しく家を空けがち。しかしエドガーを思いマザーを愛する気持ちはある。マザーの弟ヤンガーブラザー(東啓介)は生きがいや夢を探し続けている青年で、人気女優イヴリン・ネズビット(綺咲愛里)に夢中だが想いは届かない。
ある日、マザーが庭で黒人の赤ん坊(リトルガール)を見つける。サラがコールハウスとの間に出来た子を産み捨てたのだった。保護したマザーはサラを見つけ、赤ん坊と共に屋敷に招き入れる。ファーザーが反対したがお構いなしだ。やがてサラと子供の存在を知ったコールハウスが訪ねてくるがサラは会おうとはしない。ピアニストと知ったマザーはエドガーのためにもピアノを教えてくれと、サラが心開くまで通うことを許す。そうこうしてコールハウスは「ラグタイム」を奏で、多くの人を魅了していく。
コールハウスがラグタイムで名を馳せ、あのフォード社の車も手に入れ、これからサラと赤ん坊とで幸せを築いていこうという時、黒人差別者との間にトラブルが起きる。ちょうど世間では移民への風当たりも強く、排除の動きも加熱していた。ついにサラの命まで奪われてしまい、コールハウスは白人社会相手に立ち上がる。ヤンガーブラザーも知らぬ仲ではないから、自分のやるべき事を見つけたとばかりコールハウスらと一緒に戦う…。
その他、イヴリンはもちろん、フォードモーターズのヘンリー・フォード(畠中洋)、ユダヤ人奇術師ハリー・フーディーニ(舘形比呂一)、ユダヤ人アナーキストエマ・ゴールドマン(土井けいと)、アフリカ系アメリカ人の教育者であり作家のブッカー・T・ワシントン(EXILE NESMITH)らが、時代を表す人物として登場し、ターテ、コールハウス、マザーに関係していく。
人種の坩堝と言われるアメリカの始まりのようなお話。ちょうど今日本も移民問題、人種差別問題が取り沙汰されてるのでタイムリーで、人権云々は承知だが複雑な思いが湧いた。しかし、こういう時を経て今があるのだと思うと、当時人権と戦った人たちの苦労はいかばかりかと心も痛む。そういうやるせない過程が描かれている。その様が演者の体温のある歌声に乗って訴えかけてくるわけで、あらためてミュージカルの素晴らしさを感じる。いくつかのシーンでジーンとするほど感動した。
東京もそうだけど、昔なら立身出世、今でも東京に出て何者かになろうという人は多い。アメリカでもこの年代からアメリカン・ドリームがあったのかと、やはり他所から来た人たちによって文化が発展していったのだなぁと感慨。ターテは大成しているし、命は落とせどコールハウスもだし。
衣装のデザインによる人種の区別化がとてもわかりやすく素敵だった。白人は白を基調とした上品なドレスとスーツ、黒人は原色のカラフルな色の服、ユダヤ人はブラックやグレーのモノトーンのゆったりした服。シーンによって人種が入り乱れてもわかる。きれいな演出だと思った。
ストーリーは深いのだけど、物語を細かく追っていったらとても描ききれない。それをざっくりした語りに預け、舞台美術も簡素で要所要所を押さえている感じ。その省略はミュージカルだからこそ可能であり、感動も笑いも起こせる。そしてそこにそれぞれの複雑な人生が確実に見えるのは演出の上手さかな。
石丸幹二の重量感のある歌声、時には儚く、でも強いあの歌唱は素晴らしいと思った。ドンドンと胸を打ってくる感じ。
今回、遥海に耳目を持って行かれた。すごく良かった。一声でキャラクターがわかる、歌えばまさにサラそのものだった。
井上芳雄のコールハウスも当然良かった。軽やかなのに意志を保つ歌声。表現力がすごい。
安蘭けいは言うまでもなく、安定感がある。
東啓介はその高身長のわりによくいる青年像がはまってて面白さを感じた。存在感もある。
EXILE NESMITHは知らなかったのだけど、良い演者だなと思った。もちろん歌も上手いし。失礼ながらLDHにこんな逸材がいたのかと感心してしまった。ミュージカルどんどんやればいいのに。
「ラグタイム」は1890年代から第一次世界大戦くらいまで流行した黒人音楽をベースにした音楽ジャンル。とのこと。
(観劇日20230912)
東京:日生劇場 0909~0930
大阪:梅田芸術劇場メインホール 1005~1008
愛知:愛知県芸術劇場大ホール 1014~1015