『らんまん』NHK 連続テレビ小説20230403〜0929 全130話
日本の植物学者牧野富太郎がモデル。
脚本 長田育恵(『群青領域』他)
演出 渡邊良雄、津田温子、深川貴志
1867年土佐佐川村の造り酒屋「峰屋」の長男坊、槙野万太郎(森優理斗/小林優仁/神木隆之介)5歳の時より話は始まる。体は弱いが植物が大好きな子供だった。母親ヒサ(広末涼子)が病床に伏してるため、実質万太郎は祖母タキ(松坂慶子)に育てられた。上に実はいとこだが姉として一緒に育てられた綾(小島叶誉/太田結乃/高橋真彩/佐久間由衣)がいて、番頭の息子竹雄(井上涼太/南出凌嘉/志尊淳)とも使用人を超えた絆で結ばれていた。
9歳の時に「名教館」に入塾するがまったく身に入らない。しかし池田蘭光(寺脇康文)から「本草網目」を教えられてからは植物画を模写することに楽しさを覚え、そればっかりになる。ここで道は違えど生涯の友となる広瀬佑一郎(岩田琉生/中村蒼)と出会う。12歳で小学校が出来たが植物にばかり興味がいき、ついに退学となってしまう。以降も本を取り寄せては独学で植物学に邁進していく。
「峰屋」は万太郎が継ぐものとされていたが、本人はまったく興味がないし下戸だった。逆に綾が酒に魅了されていたが、女が酒蔵に入るのはもってのほかという時代で頭首としての道はなかった。そんな中、内閣博覧会が開かれる東京へ「峰屋」として出展出来ることになり、博物館勤めの植物学者の野田基善(田辺誠一)と里中芳生(いとうせいこう)に会えるチャンスと喜び勇み上京する。そこで和菓子屋「白梅堂」の娘西村寿恵子(浜辺美波)との出会いがある。一目で万太郎は恋に落ちるが、万太郎は高知に帰り若旦那として「峰屋」を継ぐことは決まっている。ところが自由民権運動家の早川逸馬(宮野真守)や中濱万次郎(宇崎竜童)との出会いがあったこと、綾の酒への愛を知るほどに、タキへ植物学への理解を求め、竹雄付きで上京することを許される。
佑一郎の紹介もあったがおかしな縁もあり、根津の「十徳長屋」に住むことになる。竹雄はレストランでボーイをしながら万太郎を支え、万太郎は野田や里中の口添えもあり東京大学への出入りが許され、田邊彰久教授(要潤)のもと、雑用から自らの植物への研究も始める。大学では初めは周りにばかにされていたがそのひたむきな植物への想いに感化された学生始め助教授徳永政市(田中哲司)、講師大窪昭三郎(今野浩喜)らにも変化をもたらし、学生の波多野泰久(前原滉)と藤丸次郎(前原瑞樹)、画工野宮朔太郎(亀田佳明)ら友人も出来る。さらに植物学雑誌を作れることになり「大畑印刷所」で石板印刷を学ぶ。同時に寿恵子とも再会を果たし、恋を育み夫婦となる。そしてタキが亡くなり、竹雄は高知で綾と結婚、造石税が厳しい中「峰屋」を二人でやっていくことになる。
誰もが手に取れる植物図鑑を作ることを夢に掲げ、万太郎は朝から晩まで植物に没頭し、金の工面は寿恵子任せだった。質草も枯れ、実家からの支度金も底を尽きたころ、「峰屋」が腐造を出してしまい、畳むことになる。実家を頼れなくなったため、寿恵子は叔母みえ(宮澤エマ)の料亭「巳佐登」で仲居として働くようになる。八犬伝が好きな寿恵子はなかなかの評判を呼ぶ仲居になる。一方、万太郎は田邊教授との間がうまくいかなくなり、大学を追われる。田邊教授自身も失脚の負い目にあい、その後事故で亡くなってしまう。
万太郎と寿恵子の間には子供が5人でき、そのうちの一人は幼くして亡くなってしまったが、他は長屋の住人に助けられながら無事に育っていく。また、高知でたまたま知り合っていた山元虎鉄(寺田心/濱田龍臣)が上京してきて、「大畑印刷所」に勤めながら弟子として万太郎の手伝いをする。新聞広告が功を奏し日本全国から植物標本が送られてくるようになり、日本植物志図譜を出す一方で図鑑の準備も始め、新しい印刷機が必要となる。金の工面は相変わらず寿恵子任せで、みえの口利きから渋谷に待合茶屋「やまもも」を開くことになる。また、綾と竹雄は高知名物の屋台をやりながら酒造りの夢も諦めてはおらず、実家が酒問屋であり菌の研究をしている藤丸と組むこととなる。「十徳長屋」は次々と住民が次のステップへ進むため出てゆき、差配人の江口りん(安藤玉惠)も自分の人生を歩むと、長屋は全て万太郎一家に任せ出ていく。娘の千歳(秋山加奈/入江美月/遠藤さくら)は虎鉄と夫婦となり、日々は過ぎていく。また、この間に教授として大学に戻ってきた徳永により万太郎も再び大学へ通うことになるが、時世の流れによりまた大学を後にすることになる。
大正12年、1923年、関東大震災がおこる。「巳佐登」時代からの「やまもも」の常連客となった官僚の相島圭一(森岡龍)の紹介の出資者永森徹(中川大志)との約束、ちょうど万太郎の図鑑の印刷が決まろうという時だった。持てるだけの植物標本を持ち無事だった渋谷に避難する。家族に被害者は出なかったが、植物標本はおおかたなくなってしまった。「やまもも」を再開したものの、安心して標本を保管するためにもっと広い土地が必要と思った寿恵子は「やまもも」を売却し、練馬に広大な土地を買い、移り住む。
1927年(昭和2年)、子供たちはそれぞれの道をゆき、末娘の千鶴だけが同居していた。敷地内に標本館を建て、近所の子供らも遊びに来る穏やかな日常を送る傍ら、万太郎の集大成となる3206種も収めた図鑑作りも進められていた。新たに発見した笹に「スエコザサ」と寿恵子の名をつけることもできた。寿恵子が病魔に侵されていたこともあり、完成を急ぐ…。
最終週はナレーションを務めた宮崎あおいが出る。
昭和33年、1958年、藤平紀子(宮崎あおい)は千鶴(松坂慶子)のかけたバイト募集に申し込んだ。それは標本を都立大の保管庫に移すための万太郎の遺品整理だった。これで1話目からのナレーションに意味がつく、その展開に驚いた。そして、次の世に残すという万太郎の意志が末娘の千鶴に受け継がれていたこと、人の一生は永遠に続く、まるで植物のように生えては踏み潰され、咲いては枯れ、けれど何度も何度ももぎ取られては芽吹くものという解釈がまた良かった。
万太郎は理学博士になり、寿恵子はもちろん、子供たち、多くの友人知人に助けられ、今があることを噛みしめるわけだが、この世に生きてる人すべてに言えること、誰もが決して一人で生きているわけではない、そんなことが感じられるドラマだった。
本当に素晴らしい脚本だった。ゴタゴタはあっても、万太郎が一般的にはクズの部類に入るタイプでも(天才なだけ)、嫌な人、悪い人が一人もいない。田邊教授だって理解できるから嫌な人、悪い人にはならない。むしろ田邊教授と万太郎の恩返しの解釈が違うのが面白かった。世間一般常識や忖度が万太郎には理解できないし、真意のとらえかたが人間性(というと大袈裟だが、育ちとか環境の違い)と直結していて、人がわかり合うことの難しさがよく表れていた。
これは『あさが来た』の時以来のキャラ設定のうまさと思った。誰をも否定しない。
万太郎が憎めないのは神木隆之介のお芝居のおかげもあるかもしれない。浜辺美波の寿恵子の凛とした強さ溢れるキャラクターも助けてるかもしれない。浜辺美波、初めてすごいと思った。特に晩年がまだ20代前半とは思えないほどの演技だった。練馬の土地を「私が買いました」と万太郎に言う台詞もすごく良かった。これが最後の金の工面だということ、こうして万太郎との冒険が終わりに近づいていること、やり切った感が出てて深みがあった。志尊淳の竹雄も素晴らしかった。万太郎とのコンビネーションが愛おしい。本当に幼い頃から一緒に過ごしてきたんだと思える。佐久間由衣の綾もいいし、松坂慶子のタキには高知編終了時、台詞はもちろん演技にも感動した。ここでのタイトル回収台詞「らんまんじゃ」の一言はまさに「ずぎゃん」ものだった。
とにかく、登場人物が(藤丸、羽多野、野宮、倉木…)、ちょい出の芸人までもが魅力的だった。特に長屋の倉木(大東駿介)はお気に入りだった。長屋を出ていく倉木に万太郎が放った「大好きじゃ」に照れるところは名シーンだと思う。大東俊介、さすがだ。それと画工の野宮の実直さは何を言わせても説得力があった。亀田佳明はもっと映像作品に出てきてもいい役者だと思う。
残念だったのは寿恵子の母親役の牧瀬里穂。これだけは失敗だったと思う。
過去一にたくさん印象に残るシーンがあったし台詞もあった。寿恵子との愛、竹雄との信頼、タキの大きさ、綾の芯の強さ、倉木の不器用さ、虎鉄の真面目さ、藤丸の頼りなさ、羽多野の冷静沈着な秀才ぶり、田邊教授の凡人さ、その妻聡子(中田青渚)のあどけなさ(演技は下手)、大畑印刷の父親大畑義平(奥田瑛二)の江戸っ子ぶり、その娘佳代(田村芽実)のコミカルさ、また佳代と母親イチ(鶴田真由)の掛け合い、野宮の生真面目さ、逸馬の人の話聞かなさ加減w、高藤(伊礼彼方)の気づいてない傲慢さ、などなど、それらが表れる会話やシーンが面白かった(…永守役中川大志が万太郎と向き合った時はどうしても細杉くんが浮かんでしまった…)。伊藤孝光役落合モトキ、分家の息子伸治役坂口涼太郎も印象に残ってる。
そして関東大震災の描き方、演出がとても良かった。こんなコンパクトなカットでも演出によって惨事が伝わるんだと感心した。
脚本が良いということはこういうことなのか、そこへ出来る役者が揃うとこんなにも演出が光るのか、遊びもできるのか、とあらためて思った。
2年ほど不作でガッカリしてたからよけい。『らんまん』も東京局だし浜辺美波かぁ…と期待してなかったけど、嬉しいはずれだった。
ちなみに、この前は『おちょやん』、その前は『スカーレット』、『まんぷく』、『あさが来た』、『カーネーション』が良かった。ひどかったのは『まれ』『半分、青い。』『なつぞら』『エール』『ちむどんどん』。脚本がダメだとこうなるんだなと思った。役者が頑張っても空回りに終わる。演出もまとまらない。おまけに主演俳優まで嫌いになってしまう(朝ドラを見始めたのは『あまちゃん』の途中から)。これらの間に入る作品は「可もなく不可もなく。取り立てて面白くもなく。どちらかちえばつまらない」だった。
さて、『ブギウギ』はどうだろう。
★★★★★
そうそう、『青天を衝け』を見てただけに、岩崎弥太郎の弟岩崎弥之助(皆川猿時)が出たのは良かったな。しかも料亭で。
あいみょんの主題歌もすごく良かった。最終回でのハマり具合は秀逸。