ある男 | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『ある男』(2022)

原作は平野啓一郎の小説。

 

監督・編集 石川慶(『愚行録』『蜂蜜と遠雷』他)

脚本 向井康介(『マイ・バック・ページ』『ふがいない僕は空を見た』『愚行録』他)

 

妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊(こやぶかずとよ)、坂元愛登、山口美也子、柄本明、でんでん、きたろう、真木よう子、仲野太賀、小笠原覚、カトウシンスケ、伊藤駿太、森優理人、河合優実、小野井奈々、水間ロン、岩川晴、芹澤興人、矢柴俊博、山野海、モロ師岡、池上季実子、松浦慎一郎、中村シュン、眞田惠津子、他。

 

里枝(安藤サクラ)は離婚して幼い息子悠人(幼少期:森優理人/少年期:坂元愛登)を連れて宮崎の実家に出戻り。父の死から立ち直れてない母(山口美也子)一人で営む文具店を手伝う。そこに絵を描く道具を買いに来た谷口大祐(窪田正孝)と惹かれ合い再婚する。悠人とも仲良く、娘花(小野井奈々)が生まれ幸せな日々を過ごしていたが、大祐が生業の林業で事故死してしまう。一周忌を迎え、墓のこともあるし大祐の実家伊香保の温泉旅館に連絡をする。後を継いでいた兄の谷口恭一(眞島秀和)が法要に現れるが、遺影にある人間は弟の大祐ではないと放つ。じゃあ、いったい誰なのか。里枝は離婚調停で世話になった弁護士の城戸章良(妻夫木聡)に相談がてら身元調査の依頼もする。城戸もまた何かから逃れるかのように、はたまた突き動かされるかのように大祐…ある男「X」(窪田正孝)の人生を追う。

城戸自身の出自の問題、妻香織(真木よう子)との仲の多少の行き違いを描きながら、戸籍売買で収監されている小見浦憲男(柄本明)を通して、「X」の隠された真実が明るみになっていく…。

 

城戸は帰化してるとはいえ在日三世であり、香織の裕福な実家との落差がある。おまけにその義父母(モロ師岡、池上季実子)には差別意識が少なからずある。

本物の谷口大祐(仲野太賀)は恭一との確執があり、父親が亡くなったことにより後継の問題も浮上。高校時代から付き合いのある後藤美涼(清野菜名)とも連絡を断つ選択をする。それだけ家を捨てたかったということのようだ。

それは谷口大祐の戸籍を買った原誠(窪田正孝)も同じで、殺人を犯した父親小林謙吉(窪田正孝)の呪縛から逃れるため、生き直すため、2度も戸籍を変えた。犯罪者の子供であることは(凶悪であればなお)、その血を継いでるということで、自家中毒みたいになってしまうんだろう。

キツイなと思ったのは、城戸の浮気を疑っていながら香織の裏切りがあった点。それを城戸は不問に付す。これを背負ってどのくらい長く家族を保っていられるだろう。

 

面白かったけど、なんか色々繋がりが悪い気がした。ミステリーなので登場人物の過去含む動機に説得力が欲しい。大祐と恭一の具体的な確執、戸籍交換をした大祐の動機、本心。城戸の在日三世としての生き方、香織との結婚に至った過程。原の1回目の戸籍交換相手曽根崎の詳細。小見浦の具体的な過去も欲しかった。

て、そんなの入れたら2時間じゃ収まらないだろうな、てことでドラマの方が良かったんじゃ…。

 

ラスト、バーで城戸は初見の客と身上を語るシーンがある。そこで城戸は原誠が谷口大祐だった時の人生を語る。在日であることを城戸も苦に思っていて、違う人間になりたいのかもしれない。名前を名乗る寸前のところで映画は終わってる。そしてオープニングがラストとリンクしてるんだけど、そのバーには一つの絵画があって、ルネ・マグリットの「複製禁止」という絵らしいが、後ろ向きの男が鏡に写ってる。あり得ない構図なのだが、その前に立ち、城戸は絵画と同化する形になる。何者かに代わりたい、でもそんなことは無理なのだと言ってるかのようだった。城戸は誰の名を出したのか、本名を名乗ったのか、どっちだろう。

 

悲しくはない、ただ寂しくて、お父さん=大祐に聞いてもらいたいことがいっぱいあると言う悠人の言葉に、出自や過去がどんな人間であろうと、人の心に入ってきていることが全てだと思わせられ、人生は事実のみ、今の関係性が一番であると感じた。

一方、2度目の人生を精一杯生きようとしたんです、こうまでしないと生きれない人がいるんです。という作品のテーマであろう台詞には「だから?」としか思わなかったのはなぜなんだろう。

 

中学生になった悠人役の坂元愛登、まだ子供ぽい。ドラマ『不適切にもほどがある!』でキヨシ役。それを見てると大きくなったなぁ、男子の成長かぁと思わずにいられない。また、純子役の河合優実も食堂の子、原に好意を寄せる女性役で出てる。こちらはあまり変わらない。

 

★★★(★)

 

 

 

配給 松竹