市子(ネタバレ有り) | これ観た

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基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『市子』(2023)

原作は戸田彬弘主宰の劇団チーズtheater旗揚げ公演作品。

 

監督 戸田彬弘

脚本 上村奈帆(『書くが、まま』他)、戸田彬弘

音楽 茂野雅

 

杉咲花、若葉竜也、森永悠希、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり、中田青渚(なかたせいな)、石川瑠華、倉悠貴、大浦千佳、他。

 

川辺市子(杉咲花)長谷川義則(若葉竜也)が出会って一緒に暮らすようになって3年の夏。長谷川はプロポーズをし、喜びに涙した市子だったのに、翌日姿を消した。プレゼントした浴衣を着て花火に行こうと言ったのに、わけがわからない長谷川。市子の所有物が入ったボストンバッグがベランダに置かれたままだっただけに、すぐに戻るかもしれないと捜索願を出さず日を過ごしていると、一人の刑事後藤修治(宇野祥平)が訪ねて来た。市子を探しているというが、その市子は存在しない人間だという。

東大阪市生駒山の土砂崩れ跡から8年以上経過した白骨化した遺体が見つかったことにより、市子の過去、これまでの軌跡が市子と関わった人々〜市子の家庭の事情など多くをよく知り罪の共有をする高校時代の友人北秀和(森永悠希)、市子がホームレス状態の時に新聞配達の仕事と寮を紹介してくれ友人関係にあったパティシエを志す吉田キキ(中田青渚)、高校時代の市子の交際相手の田中宗介(倉悠貴)、市子が小学校に上がる前から知っている同じ団地の山本さつき(大浦千佳)、小学生の時、男子にからかわれてるところをかばい友達になった幸田梢、そして市子の人生を根底から左右していた母親の川辺なつみ(中村ゆり)と、社会福祉士のなつみの元恋人小泉雅雄(渡辺大知)〜を通して明らかになっていく…。

 

生きることについて考えさせられる作品だった。

 

とにかく杉咲花と若葉竜也が素晴らしい。めちゃくちゃいい。もちろん森永悠希も。

あと、石川瑠華がキャスティングされてたのは嬉しい。心に闇を抱えるキャラクターとか、闇とまではいかなくても陰の部分の表現力が素晴らしい役者さんだと思う。

 

プロポーズされて嬉しさが込み上げてくる市子の涙のシーンはすごく良かった。普通に生きたい市子、一つ一つ普通のことがしたい、長谷川と出会って、それができて嬉しいのにその生活を捨てるしかない悲しみもよく表れていた。ここは長谷川の嬉しさが自然とあふれる照れの表情もまた秀逸だった。

 

ところで、高校時代、宗介とのディープなキスシーンは度肝を抜かれた。「え、杉咲花が!?」と、衝撃だったがあるとないとじゃまるで流れが違ってくるだろう必要なシーンだった。そういう点で素晴らしいシーン。

 

ずっと夏の話なのがまたいい。暑さには狂気が内包されてるのかも。

 

これ、戯曲とのことだけど、舞台でどう観せたんだろう、気になる。証言だけなのか、証言とともにスポット芝居も入ってるのか。映像用に脚本を書き直したんだろうか、それくらい映像力が強い作品だった。

 

★★★★★

 

 

 

制作 basil

配給 ハピネットファントム・スタジオ

 

 




 

 

【以下ネタバレメモと感想】

 

 

市子はなつみの最初の夫との子で、妊娠したまま離婚、夫のDVから逃げてることもあり戸籍を取ることをしなかった。再婚で妹月子が生まれ、また離婚。その後小泉と知り合うが、月子は2歳の時に指定難病にかかり寝たきりで介護が必要になる。おまけに知的障害もあった。戸籍のない、社会的に存在しない人間、市子は月子になりすまし就学することになる。

だから、同じ団地の幼馴染みさつきは、同い年なのにしばらく会わないなと思ったら4学年下に月子という名で小学校に上がってきた市子のことが不審でならなかった。それもあってはずみでケンカもしている。

一緒の学年になった友達梢との家庭環境の違いからの落差が苦しい。初めて仲良くなれた友達なのに。

 

市子は4歳下の妹、月子として学生時代を生きてきた。その後戸籍を取る相談にも行くが、月子を手にかけたこともあり指紋採取で手続きを諦めている。

ずっと月子の介護を任されていた市子は高校生の時、月子の人工呼吸器を抜いた。この時、なつみに「ありがとうな」と言われてる。なつみも疲弊していたわけだ。そして小泉となつみによって月子は生駒山に埋められたのだろう。

その後、なつみは失踪し、残された小泉は市子と関係を持つようになる。小泉も転落の人生だ。何度目か、慰みものになろうとしてた市子が耐え切れず小泉を刺殺してしまう。市子に想いを寄せていた北がストーキングしていた結果、その現場を見てしまい、市子の力になろうとする。小泉を線路に寝かせて自殺を装うのだが、その時市子はすでに姿をくらましていた。

ボロボロのホームレス状態の市子に声をかけたのはキキで、働き口も住まいも紹介し、ゆくゆくは二人でケーキ屋をやろうと夢描き邁進する。実際、新聞屋が潰れてからキキと同じケーキ屋で働き始めている。支援団体に戸籍取得の相談に行ったのはこの前後か。この時点で罪の共有関係にある北が市子を見つけているが、市子はまともに生きたいと北を拒否している。昔の人とつながりたくない市子。未来を手にしたい市子。罪を共有してるため市子に固執して自分の存在価値に実感を得たい北。北が気の毒。

北に見つかったことで市子はまた居場所を変える。そして長谷川と出会う。

 

市子にも、なつみと小泉、月子とで籍は入れてなくても四人で幸せな時期もあった。その頃の誕生日ケーキを前に撮った記念写真を後生大事に持っていた。たぶん、希望を待てたのがキキとの夢で、次に幸せだったのが長谷川との暮らしだ。

 

長谷川は北と市子の間にある秘密までたどり着き、全てを知るわけだけど、市子を見つけることは出来ないまま終わる。だけに終わらず、生きなおそうとする市子は北の連絡先を使ってサイトで自殺ほう助希望の北見冬子(石川瑠華)とコンタクトを取る。その後和歌山で海に車ごと落下した男女の遺体が発見される…というラスト…。

 

戸籍がないのはこの世にいないのと同じで、社会的恩恵は何一つ得られない。まともな職に就くことも出来ないし、病気になっても病院にも行けない。ましてや結婚なんて出来るはずもなく。それでも市子の生きるしかない、生きていこうとする生命力が悲しい。そして、どこか頭のネジが外れているんだと思う。そういう人間に育つ環境というものがあるのだと思った。