『こちらあみ子』(2022)
原作は今村夏子の小説。
監督・脚本 森井勇佑
音楽 青葉市子
大沢一菜(おおさわかな)、井浦新、尾野真千子、奥村天晴、大関悠士、橘高亨牧(きつたかとまき)、播田美保(はりたみほ)、黒木詔子、桐谷紗奈、兼利惇哉、一木良彦、柿辰丸、他。
他の子と違う風変わりな小学生のあみ子(大沢一菜)は、お父さん(井浦新)と兄孝太(奥村天晴)、新しい命がお腹にいる新しいお母さんさゆり(尾野真千子)と広島で暮らしている。
さゆりは自宅で習字教室を開いており、あみ子はそこへ通ってくる同じクラスののり君(大関悠士)が好きで何かとちょっかいを出すのだけど、のり君のほうは迷惑そう。とにかくあみ子はトラブルメーカーなのだ。
誕生日プレゼントにトランシーバーをもらい、生まれてくる弟とやりたいとご機嫌なあみ子だったが、さゆりが流産してしまう。あみ子も残念だし、何よりさゆりが元気がない。そこであみ子は弟の墓を作る。昆虫や金魚のお墓と並べて得意そうにさゆりに見せるが、さゆりは喜ぶどころか糸が切れたように号泣する。墓を見た孝太はいたずらと一掃、そもそも弟ではない、妹だった。
それからさゆりは寝込むようになり、習字教室もしまい、孝太は非行に走り、お父さんは男手ながら奮闘するものの、あみ子が中学生になった頃には家の中は荒れ、疲弊していった。
そんな中でも相変わらずのあみ子は異様な物音がする、オバケだと騒ぎ出す。やがて著名な人物の亡霊までをも妄想し出す。結局それは鳥の巣だったとわかるのだが、それと前後して、あみ子はのり君に告白し、こっぴどく振られる事件がある。そしてついにお父さんは祖母(黒木詔子)の家にあみ子を一人預ける選択をすることになる…。
あみ子は自閉症だろうな。友達はいない。授業をまともに受けず、勉強は出来ない。漢字が読めず、何気に気にかけてくれてる坊主頭(橘高亨牧)に壁に貼り出された習字のうち、のり君の作品がどれかを教えてもらってる。その坊主頭があみ子を想ってくれてる存在であるのは暖かい。坊主頭の存在は癒し。
優しい兄孝太は度々面倒をみてくれるが、非行に走ってからはほぼ助けにならない。おそらく葛藤もあったろう。父親の他にあみ子をわかっているのは孝太しかいないのだから。
新しいお母さんさゆりはあみ子を理解しようとしてくれていたが、その手のかかりようは想像以上だった上、自分の初めての子供が死産となり、限界を超えたのだろう。お父さんが出した答えがあみ子よりさゆりを取ることだったのが、わからないでもないだけになんとも辛く切ない…。
現実であれば面白いではすまされないが、のり君がクッキーの真実を知って、その上あみ子から告白もされて、限界だったのだろう、あみ子に対してひどい暴力をふるう。どうしたことか、これが面白かった。笑えた。
そして引越しをするというので、てっきり父母は離婚するものと思ってたのが、実はあみ子だけが捨てられた形になる。これは辛いけど、やはり、祖母の家で淡々と日常が始まるさまはコメディかと思うくらい微笑ましく見える。
ラスト、早朝の海で、舟に乗った妄想の亡霊たちがあみ子を手招きする。あみ子は足の脛くらいまで海に浸かっているが、でもさよならの手をふる。そして通りすがりのおじさんの「まだ冷たいじゃろ」との声かけにあみ子は元気よく「大丈夫じゃ!」と答える。亡霊たちの手振りをあみ子は内心どうとらえていたのか。ただ、生きる力はあるのだと思えて、問題は深いのだけどホッとする。
情景描写が素晴らしく、間が丁寧。行間を読む、という感じの映画。とても良かった。
自閉症、発達障害など、疾患のある子供を持つと大変だなと思う。思うのは周りの人間で、本人、当事者はただただ必死であり自然であり、出来ないことが当たり前でそれ以上でもそれ以下でもないのだ。この折り合いをつけるのは周りの妥協しかないのではないかな。
大沢一菜がとてもいい。ドラマ『姪のメイ』でも独特のカラーで面白かった。
奥村天晴の表情も良かった。
保健室の先生に播田美保。雰囲気が好きな女優さん。
★★★★★
配給 アークエンタテイメント