過去のない男 | これ観た

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基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『過去のない男』(2002/日本公開2003)

フィンランド映画。原題は『Mies vailla menneisyyttä』、英題は『The Man Without a Past』

アキ・カウリスマキ監督による「敗者三部作」の二作目。

 

監督・脚本 アキ・カウリスマキ

 

 

 

 

列車に乗ってヘルシンキへやって来た男M(マルック・ペルトラ)は公園のベンチで一眠りしてる間に三人組の暴漢に身包み剥がされめった打ちにされる。病院に搬送されたが死亡と診断される。しかし実は死んでおらず、フラフラと病院をぬけ出る。そして包帯だらけのまま港の岸辺で倒れてしまう。それを見つけたニーミネン一家はMを家へ運び入れる。家といっても廃棄されたコンテナだ。その一帯はコンテナどころかゴミ箱にまで住みつくホームレスの居住区だった。

夫妻そろって親身になって手当てをした結果、回復の兆候が見え出す。しかしMは殴られたことによって自分の名前もわからない記憶喪失になっていた。これでは職にも就けない。救いなのはニーミネン一家はもちろん、まわりの人間たちが優しいことだ。

ニーミネン夫(ユハニ・ニユミラ)に倣い出かけた救世軍の炊き出しで、救世軍下士官のイルマ(カティ・オウティネン)と出会い恋に落ちる。イルマの助けもあり、救世軍で働けることになり、金の亡者悪徳警察官アンティラ(サカリ・クオスネマン)に空きコンテナを借りてなぜか犬ハンニバルも譲り受け、拾い物で部屋を整え、生活が整い出した。

仕事は段階的に変化を見せ、救世軍バンドの興行もするようになった頃、銀行強盗事件に巻き込まれ、新聞に載ってしまう。そこからMと婚姻関係にあったという女が名乗り出る。夫婦関係は破綻しており、離婚届けを出す寸前でMが行方知れずになったのだった。ヘルシンキから7時間以上かけてヌルメスの自宅まで女を訪ねるとすでに恋人が存在し、Mにもまたイルマがいる、そこは丸く解決し、Mはホームレス居住区に戻るのだった…。

 

今さらだが、アキ・カウリスマキ監督の作品は基本棒演出なのかな。日本語ではないし日本人でもないからわからないけど、淡々と喋る演技が棒に感じる。でもそれが悪いというのではなく、味になっていて笑いにも転化している。独特の雰囲気がやはり面白い。あと、ギャグというか伏線が細かい。文化が違うのでこれまた何とも…だが、寮にかかってきた共同電話を取り合おうとする女は、そのシーンだけでどんな身にあるかがわかる。その行動を入れる目の付けどころが面白い。ジュークボックスを拾うのも。救世軍のマネージャー(アンニッキ・タハティ)の存在も。元妻の新恋人との会話も。ラスト、親睦会でバンドが立つステージの端に座りボーッとしてる救世軍スタッフ女性のその様子もまた面白い。

 

劇中、ニーミネン妻(カイヤ・パリカネン)が「恵まれているのよ」と言う。コンテナの暮らし、食事も粗末でどこが!?と思ったが、「住む所があり、夫は週に2日だけど仕事がある」と言う。普通に考えて腐りそうな生活なのに、ニーミネン夫妻はとてもいい顔をしている。何が幸せかって一口にはまとめられないなと実感した。

また、夫が金曜日だし給料出たからと、正装してMをディナーに連れて行く。おやおやと思ってたら、救世軍の炊き出しだった。これは笑いどころなんだろうけど、やはり生活の潤いは一概に言えない。

悪徳警察官アンティラも、凶暴だという犬ハンニバルをMの見張りにつけて置いていく。ところがハンニバルはちっとも凶暴じゃないし躾のいき届いた犬だ。悪徳とはいえ、心根はいい人なのだ。ギャグかもしれないが、人もカテゴライズ出来ないってことだ。

カフェで無料のお湯しか頼まないMの、こっそり出涸らしのティーパックを入れる様子を見た店員(アンネリ・サウリ)が無料で食事を添える。施しだが、これも人の暖かさだ。

銀行強盗でさえ同情に値する背景がある。

そして、ラスト、例の三人組の暴漢に人が襲われているところにMが出くわす。ホームレス仲間がどこからともなく現れ、暴漢を追いやる。ずっと苦しめられてたのだった。Mによって士気が湧いたのだろうな、そんな展開が見て取れた。人情味があっていい。

そうそう、Mが妻と暮らしていた家はなかなか良い家で、仕事は溶接工だったのに地域によるのかわからないけど、港町の人々とは接点がなさそうな家だった。アキ・カウリスマキ監督の作品には珍しい家屋ではないかな。その不思議なギャップがまた面白い。人を見る時、外見だけで判断する愚かさを見た気がする。

 

造船所の事務員にエリナ・サロ。『浮き雲』でレストランのオーナー役だった人だ。

犬はなんだろう、スムースコリーかなぁ?雑種か。

 

そういえば、ヌルメスからヘルシンキへ戻る食堂車で寿司を食べるのだが(箸の置き位置、すでに割られてある割り箸は残念みが強いw)、BGMがクレイジーケンバンド「ハワイの夜」。アキ・カウリスマキ監督は日本好きとか。

 

敗者…転生。

 

★★★★(★)

 

 

この淡々とした現実を描き心情を映し半ば会話劇みたいな作り方は昔の日本映画のようでそれは…小津安二郎に通じるところがあるのかもしれない。小津安二郎2本しか観たことないけど。