秋来ぬと目にもさやかに見えました | ことのは徒然

ことのは徒然

日々の徒然に思いついたことを書き留めてます。

夕方買い物に出かけたら、うろこ雲。

秋ですね。

 

 

「うろこ雲」と「いわし雲」は同じ雲の別名で、

正式には「巻積雲」と言うそうです。

で、似てるけど「ひつじ雲」は別物で「高積雲」。

 

どっちも秋の空の雲なんですが、発生する高度が違うらしい。

巻積雲は、高度が高いので小さく見え、高積雲は高度が低いので大きく見えるそうで、手をかざしてみて、人差し指の先よりも小さかったら巻積雲(うろこ雲)、大きかったら高積雲(ひつじ雲)なんだそうです。

 

今となっては、検証の方法がないですが、私が今日見たのはもしかしたら「ひつじ雲」かもしれないです。

 

でも、まあ、いずれにせよ、秋ってことです爆  笑

 

で。

まさに今日の午前中。

仕事で和歌をやっていて出てきたのがこの歌。

『古今和歌集』に収録されています。

 

秋来ぬと目にはさやかに見えねども

  風の音にぞ驚かれぬる

藤原敏行

秋が来たと、目には はっきり見えないけれど、風の音ではっと秋だと気づいてしまったよ。

 

今の時期の歌だよねぇ、って話していたところだったんです。

日中は暑いし、まだみんな半袖だったりして、

見た感じ夏っぽいんだけど、

朝の空気はなんか違う。

秋だな。

みたいな。

 

こういう微妙な季節の移ろいを詠む感じが、

すっっごく日本人ぽい。

 

なのにねぇ。

まさにその日の夕方。

うろこ雲を発見して、

目にはっきり見えちゃいましたとさ、というお話。

 

移ろう時期は、本当に一瞬の短さで、

あっという間に次の季節が来ちゃうんですね。

 

 

さて。

この「秋来ぬと……」の歌。

私、なぜかすごく好きなんです。

そして、教科書でも問題集でも頻出。

おそらく多くの方が見たことあるのでは?

 

情緒ありますよね。

風の音で秋を感じるなんて。

ゆったりした時の流れと

心豊かな暮らしぶりを思わせます。

 

ですが。

教材に頻出なのは、内容がすばらしい歌だから、というのが唯一の理由じゃないんです。

朝に晩に歌を詠んでた時代なんだから、内容的にいい歌というのは、たくさんあるに決まってるじゃないですか。

 

この歌の教材的萌えポイントは、

意味が分かりやすいくせに、文法的な学習ポイントと、語彙的学習ポイントが満載!というところ。

 

ざっと列挙するとこんな感じ。

 

【重要古文単語】「さやかなり」「驚く」

【動詞】カ変動詞「来」の活用

【助動詞】「ぬ」の品詞の識別「る・らる」の意味の識別

【助詞】「と」「ども」

【和歌の表現技法】視覚と聴覚の併用

【その他】会話文を表す「 」部分の理解

もうね。

この1首でいくらでも問題が作れる。

国語教材ライターからしたら神作品爆  笑

 

この1首を初見でカンペキに品詞分解できるとしたら、けっこう古典文法わかってるな~って感じだと思う。

 

特に「来ぬ」のところ、「こぬ」と読むのはダメですよ。「こぬ」は「来ない」という意味です。

ここは「来た」という意味なので「きぬ」と読みます。これも文脈でなく、文法的に「きぬ」であることが導けますグッド!ラブラブ

 

なのでね。

奈良・平安の時代に作られた和歌が、全部で何首あるのかは知らないけど、

たとえば『万葉集』が4500首以上、『古今和歌集』が1100首以上、ほかにわんさと歌集があって、それらに収められているというだけで、すでに選ばれた和歌たちで、

その中からさらに厳選に厳選を重ねて選ばれた5首とか10首なわけですよ。

教科書に掲載されているのは。

もう、びっくりするくらい狭き門をくぐり抜けた、内容的にも、文法学習的にも秀逸な作品ですから。

 

学生さんは、きっちり理解しておくと、その後の応用にぜったい役立ちますグッド!

 

こういう神作品。

他にもいくつかあるんだけど、また別の機会にご紹介できたら、と思いますニコニコ