やっちまった!
先日の内田樹の本紹介。
誤字脱字がないか、改めて読み直していて大変なポイントを発見!
「敷居が低い」を使ってしまった。
私はこんな仕事をしているくせに、言葉は生き物だから流通していて通じる言葉がいちばん、と思っているところが心の奥底にあって、語源的に正確かどうかは二の次と思ってるフシがあります。なので、いわゆる誤用も使いがち。
で、「敷居が低い」は、そもそもの意味から外れた用法なんですよね。
私なりに解説してみますと、
「敷居が低い」は、「敷居が高い」から派生した言葉です。
でも、「敷居が高い」は、本来は「不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくい」(『大辞林』)という意味。「不義理・不面目」という特殊事情があるから生じる意味なので、ここから直接「敷居が低い」という意味は出てこないんですね。だって、そもそも「不義理・不面目がない状態」が普通だから、「不義理・不面目がないので、その人の家に行きやすい」っていうのは、「いやそれ、わざわざ言うこと? 普通だよね?」っていうくらい当たり前のこと。当たり前の現象に慣用句は不要だから、「敷居が低い」っていう言葉は必要ない=発生しないんです。
じゃ、どうして発生したかというと、「敷居が高い」は、現在は誤用が流通していて「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい」という意味で使われることが増えているんです。
この意味だと、反対の意味の生成が可能で、「それほど高級じゃないし、上品すぎないので、入りやすい」となります。
「誤用」というワンクッションがあるから生まれた言葉なんですよね。なので「敷居が低い」は誤用前提ということです。私の理解によれば。
で。さらに問題なのは、現在、誤用の方が圧倒的多数になりつつあるということ。既に「誤用」と言っていいのかどうか。過渡期なのかなぁと思います。
参考までに国の調査を見てみましょう。
令和元年度「国語に関する世論調査」の結果より
P21「(2)敷居が高い」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/92531901_01.pdf
平成20年度はギリギリ五分五分って感じでしたが、
令和元年には誤用の方が圧倒的に優勢になってますね。
元々の意味:29%
vs
誤用:56.4%
民主主義的には、誤用の圧倒的勝利
ちなみに私は両刀遣いです
どっちの場面でも使いたくなる。
ただし、国語教材作成という仕事では、グレーゾーンの言葉は絶対NGです。
「敷居が低い」は避けます。「敷居が高い」は、元の意味でしか使わないようにしますね。
自分で文章を書くときは、そこまで神経質にならなくてもいいよね、と思いつつも、公表する場合はできるだけグレーな表現は避けるようにしています。
でも、今回はチェック漏れしてしまった。
読み直してて気づいたときは、ヒヤッとして、こっそり直そうかな、とも思ったんですが、よい機会なので、改めて訂正文を書くことにして、まあこうして長々と言い訳しているわけです。
ということで、
【誤】
「こういうところから入るのがいいと思うんですよね、敷居が低くて。」
↓
【正】いかがでしょう?