【今日の1冊】内田樹『ぼくの住まい論』 | ことのは徒然

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今日は本紹介の日

 

今日ご紹介するのは

内田樹『ぼくの住まい論』

 

入試問題頻出の思想家でありながら、武道家でも知られる内田樹が、大学を定年退職後に自宅兼道場(能舞台付)である「凱風館」を建てる過程のあれこれを描いたもの。もしかしたら、内田樹の本の中で一番好きかもしれない1冊。「道場」という社会的な「居場所」を提供することへの強い思いと、道場づくりへの尋常じゃないこだわりが詰まっています。それを、経済、社会、思想などを織り交ぜつつ論じていく軽いエッセイという位置づけだと思います。

 

このくらいだと、中高生でも気楽に読めそう。

こういうところから入るのがいいと思うんですよね、敷居が低くて。オススメです。絶版だけど。

 

まず目を引くのは、大きなカラー写真がふんだんに掲載されていること。写真掲載にはすごいこだわりがあったんだと思う。本冊の紙も厚めのしっかりしたもので、コート紙ではないけど、印刷は色鮮やか。そして、どの写真にもエネルギーが溢れてる。

 

筆者が、建設で何よりこだわっていたのは「木造」であること。だから、良い木を求めて、自ら京都美山へ、岐阜加子母へ。そこで写された深い山林や茅葺きの里、山とともに生きる人々の姿は、多くの日本人の原風景なんじゃないかしら。いつまででも眺めていたくなります。

それから職人探し。瓦職人やら左官やら。で、みなさん、そろいもそろってホントいい顔なんです。作業中の真剣の表情も、屈託のない笑顔も。自然と近いところで生きている人たちはなんて豊かなんだろう。眩しいんだろう。そう思いました。

 

だから、「凱風館」は、豊かな自然の恵みを受けた木と土でできている。その自然のエネルギーに満ちている感じが、写真からも伝わってくるんです。木の美しさと温もり。そして豊かな空間。心惹かれます。ほんとです。写真だけでも、ぱらりと見てほしい。

 

「凱風館」は、自然と人のエネルギーでできている。こんな空間を作れるんだから、内田樹はきっといい人! って思いましたよ。

 

筆者のもう一つのこだわりは、「凱風館」は私物ではなく(法律的には私物かもしれないけど)、そこで自分を磨き、目標に向かっている門人たちの未来のためのものだということ。つまり、社会的共有物という認識なんだと思います。この本には、筆者が道場に込めた思いが、経済や社会、思想などの切り口を交えながら語られています。この道場は、内田樹が研究者として長年積み重ねてきた思想を、具現化した場所なんだろうなぁ、と感じました。思想を机上の空論で終わらせない実践主義者っていうんですかね。

 

思想家でありながら(だからこそ?)、身体を修める武道家でもある、っていう筆者の生き様と重なってて、ホント興味深いです。

 

ということで、筆者は「凱風館」を「出会いの場」と位置づけていて、人間ネットワークの「ハブ」としての活動がいろいろ紹介されています。「甲南麻雀連盟」「おでん部」「巡礼部」などなど。板張りの清々しい空間で雀卓囲んでる写真とか、なかなか興味深いものがあります。おもしろいところでは「ジュリー部」(沢田研二ファンクラブ)とか? 10年以上前の本なので、今はどうなっているのかそれも興味がありますね。

 

ちなみに、本書の終わりのほうに「書生日記」という、凱風館の書生さんをしている方のコラムがあります。そこに書生部屋の写真が載っているのですが、畳2枚を縦に長くつなげたスペースで、そこに文机が置いてあるんです。その細長い微妙な形と適度な狭さがすごく心地よさそうなんです。こういう、ちょっと不思議なゆとりのスペース大事だなぁ、と。機能的なだけでは息が詰まる。それは空間も時間も同じかも、なんて、その写真を見ながら思いました。ゆとり。大事にしたいです。