スプリングエフェメラル・カタクリ | もとろーむの徒然歳時記

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山が好き、花が好き、クラッシック音楽や絵画、演劇に歴史好き…気ままに書かせて頂いています。

 

いしょうけんめい   工藤直子

 

春の光あびて カタクリの花が咲く

その花の種がこぼれ

アリンコが いそいで駆けよる

「あっちに種を運ぼうか?」

カタクリ にっこり アリンコも にっこり

それを見て雑木林も にっこり

 

レンゲソウとミツバチが

いそいそ はなしこんでる

「ねえ あたしの花粉 つれてって」

「もちろんさ!うまいミツ ありがとよ」

とおりかかった風が そのようすをみて

「いよっ ご両人」なんて言っている

 

ああ本日は晴天なり晴天なり

カタクリもアリンコも

いっしょうけんめい生きている

レンゲソウもミツバチも

いっしょうけんめい生きる

それらを ながめる わたしも

いっしょうけんめい生きる

 

地球では

いつもだれでも いっしょうけんめいだ

そんな気がした すこしうれしい日

 

 

カタクリはスプリング・エフェメラルの

 

冠を持つ植物のひとつです。

 

 

上の写真は去年撮った満開のカタクリの様子です。

 

相賀撤夫氏の文献によるとカタクリは野山の林に群生する多年草で、

 

鱗茎は4~6㎝で、白または薄茶色の皮をかぶり、

 

基部にイモムシ状の尾(旧年の鱗茎の残りがつながったもの)がある。

 

早春に茎を立てて2枚の葉を対生し、花をさげる。

 

花は長さ6~12㎝、幅2.5~5㎝花は長さ5~6㎝の6弁、

 

中心部に黒紫の目がある。

 

おしべは6本で葯は黒紫。

 

花柱は先が3又。実はハート形で花茎とともに倒れて夏に熟し、

 

それまでに葉が枯れてしまう。

 

鱗茎に40~50パーセントのでんぷんを含みこれを集めたものが堅栗粉で

 

白く、上質である。

 

一般に販売している片栗粉はじゃがいもや、

 

さつまいもからつくったでんぷんであり、

 

葛粉と同様本物ではない。

 

葉もゆでて食べられるが、甘味があってうまい。

 

とありました。

 

 

もし、じゃがいもやさつまいもから大量生産された澱粉、

 

つまり片栗粉が取れなかったら、

 

種子から開花まで7~8年というカタクリの堅栗粉に頼っていたら、

 

まちがいなくカタクリの花は絶滅していたでしょう。

 

少ないとはいえ今日、

 

自生のカタクリが残っているのは、

 

じゃがいもやさつまいものおかげであることは

 

間違いないでしょう。

 

 

ここでは小高い丘の北斜面に

 

1万株のカタクリが自生しています。

 

今年は開花が遅く、まだ5分咲き程度です。

 

満開になれば、辺り一面を薄紫の小さなカタクリの花が埋め尽くします。

 

性質は福寿草と似ていて、

 

陽があたる時間に咲き、曇りや雨の日は開花していないこともありますが、

 

曇りでも気温が高い日には、咲いたりするそうです。

 

デリケートな花です。

 

この日の天気は晴れ、

 

5分咲き程度ながら、花は見事に咲いていました。

 

紅紫色の花はうつむき加減に咲いて、

 

W字形の濃い紫色の斑紋が印象的です。

 

 

このカタクリは雑木林がすっかり葉を落とす、

 

2月から3月の冬萌の頃に、地上に姿を見せ始め、

 

3月下旬から4月上旬にかけて紅紫色の花を咲かせます。

 

そして、雑木林が新緑に覆われ、

 

日光が遮られる頃には早々に種子が熟し、

 

葉も枯れはじめ、地上から姿を消します。

 

1年のうち、夏、秋、冬は地中で息をひそめ、

 

次の春まで長い休眠状態に入ります。

 

文字通りその心根にはいじらしさを感じます。

 

このようなサイクルをもつ花を

 

スプリング・エフェメラル(春のはかない命)といいます。

 

節分草や福寿草にイチリンソウなども

 

スプリング・エフェメラルです。

 

 

カタクリの種子には

 

蟻が好きな匂いのするエライオソームという物質があり、

 

工藤直子さんの詩の通り、

 

蟻はこの匂いに惹かれ、種子を運びます。

 

この運ばれた種子が翌年の春に発芽し、

 

子葉となり一枚の葉をつけ、春が終わると枯れてしまいます。

 

この子葉はまた翌年になると、前年より少し大きな葉を1枚だし、

 

光合成を行い、

 

少しずつ鱗茎に栄養をためながら、

 

そのまた翌年も同じように成長を繰り返します。

 

そして栄養が十分ためられると、ようやく葉を2枚出して花を咲かせます。

 

花を咲かせるまでは、7~8年かかるそうです。

 

花言葉を調べると

 

「寂しさに耐える」とありました。納得です。

 

 

 

カタクリの学名は

 

Erythronium japonicum(エリズロニューム ジャポニカム)

 

ユリ科カタクリ属に属する多年草で、

 

英名では和名と同じくKatakuriや

 

dogtooth violet(犬の歯のスミレ)とされています。

 

 

Erythronium」は、ギリシア語で赤を意味する「erythros」が語源で、

 

ヨーロッパ原産のカタクリの原種が

 

赤い花を咲かせることに由来しているようです。

 

日本カタクリは「ジャポニカ」とも呼ばれている品種で、

 

ピンク色や紫色の花を咲かせるのが特徴です。

 

清楚で美しい咲き姿には、小さいながら、

 

気品と風格を感じます。

 

愛用の古語辞典には

 

このカタクリは「カタコ」ともよばれ、

 

古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれているとありました。

 

 

万葉集巻第十九の四一四三に

 

大伴家持(おおとものやかもち)が詠んだ歌があります。

 

万葉種にただ一句、

 

唯一のカタクリが読まれる孤語はこの大友家持の句だけです。

 

もののふの 八十をとめらが 汲みまがふ 寺井の上の かたかごの花 

 

もののふのは、八十(やそ)、数の多い事にかかる枕詞、

 

寺井は寺にある井戸なので、

 

賑やかに娘たちが水を汲む寺の井戸のほとりのカタクリの花よ

 

と訳せます。

 

 

 

こちらの自生地は約1万株あるそうですが、

 

昨年は1株の白花のかたくりを見つけました。

 

その隣にある2株のカタクリはピンク色をしていました。

 

今年も目を凝らして探してみたのですが、

 

残念ながらまだ咲いていないようでした。

 

それは紫にまぎれて一株だけ咲く本当に美しい白花でした。

 

今年もこれから沢山のカタクリが咲くでしょう。


願わくばこれからも無事、環境が守られ、

 

咲き続けてもらいたいと切に思いました。


下の写真は去年撮った白花とピンクのカタクリです。