雪中花 | もとろーむの徒然歳時記

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山が好き、花が好き、クラッシック音楽や絵画、演劇に歴史好き…気ままに書かせて頂いています。

 

水仙ほど種類が多く、

 

花期がバラバラな花も珍しいと思います。

 

早ければ年末頃から咲き始める水仙もあれば、

 

5月のゴールデンウイーク頃に

 

花開くものもあります。

 

その間は花を楽しめるので、

 

私は数種類の水仙を庭に植えています。

 

スイセンには日本のスイセン、中国産、ヨーロッパ産のものなどがありますが

 

学名の属名は全て

 

Narcissus(ナルキッスス)です。

 

日本のスイセンの学名はNarcissus tazetta L.var. chinensis Roem

 

(ナルキッスス タゼッタ シネンシス)といい、

 

彼岸花科スイセン属の多年草です。

 

 

スイセンの属名の

 

ナルキッススの語源については、

 

ギリシャ神話にでてくる美少年ナルキソズの話が有名ですが、

 

もう一つ説があります。

 

ナルキッススの語源はナース(naree)で、

 

ギリシャ語のナルキソス(narukisos)から出た言葉で

 

”麻痺”という意味です。英語ではnumbnessといいます。

 

また、英語にnarcoticという言葉もあるのですが、

 

これも”麻痺させる”や”麻薬”という意味で、

 

同じ語源に基づきます。

 

narcosisという言葉は”麻酔”とか”人事不省”という意味です。

 

スイセンと麻痺との関係は、

 

スイセンの鱗茎には

 

リコリン、ガランタミン、タゼチン、シュウ酸カルシュウムなどの

 

毒があることが知られています。


こちらの説は現実的で有力な気もしますが

 

ギリシャ神話の方が夢があっていいですね。

 

 

早春に咲き始める日本スイセンは、

 

雌蕊も雄蕊も子房もあるのですが、実を結びません。

 

繁殖はもっぱら球根の鱗片によるものですが、

 

一般的に他の水仙は実をつけます。

 

私は数年に一回球根を掘り上げて、秋に再度植え付けをしています。

 

 

樋口一葉の「たけくらべ」という

 

有名な小説があります。その話の最後に、

 

一葉は

 

スイセンの話で完結させています。

 

龍華寺(りゅうげじ)の信如が我が宗の修業の庭に立出る風説(うわさ)をも美登利は絶えて

聞かざりき、有し意地をば其まゝに封じ込めて、此處(ここ)しばらくの怪しの現象(さま)に我れを我れとも思はれず、唯何事も恥かしうのみ有けるに、或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり、誰れの仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆゑとなく

懷かしき思ひにて違ひ棚の一輪ざしに入れて、淋しく清き姿をめでけるが、聞くともなしに傳(つた)へ聞く其明けの日は信如が、何がしの學林に袖の色かへぬべき當日(とうじつ)なりしとぞ。

 

この作品は美登利という少女を中心に、

 

未だ恋愛などというものではないのですが、

 

ひそかに抱く少年少女の思慕のもつれを美しく、悲しく描いた

 

淡い、感傷的な心がしみじみと感じられる作品です。

 

美登利のひそかに心に描いていた少年は、

 

幼馴染の龍華寺の信如でした。

 

この信如が近く、どこかの僧侶の学校へ入学するということを遊び友達から聞きます。

 

そのせつな、

 

こころの中に、言うに言われぬ寂しさを感じますが、

 

わざと聞かないふりをしてその寂しいこころをとらえ、

 

それからはただ何事も恥ずかしいような、

 

やるせない心で日々を送っていました。

 

ある朝起きてみると、

 

格子のところに水仙の作り花が投げ入れてあります。

 

だれが投げ入れたのかわかりませんが、

 

美登利はなんとなく懐かしい思いで

 

これを一輪差しに入れて

 

寂しく清い水仙の姿を眺めます。

 

聞くともなしに伝え聞くと、

 

そのあくる日は信如が学校へ入学する当日でした。

 

と一葉は水仙の花をもって、

 

この作品を結んでいます。

 

 

この水仙の原種はカナリア諸島のものが、

 

ヨーロッパに伝わる一方で、中国にも伝わります。

 

それが日本へ伝わったものと、植物学上では推定されています。

 

彼岸花科の水仙は

 

彼岸花より先に日本へ入って来たようですが、

 

室町時代の文献にその名を見つけることが出来ます。

 

当時の国語辞典「下学集」(かがくしゅう)にその名を見ることができます。

 

この頃から水仙を栽培していたのでしょう。

 

 

また江戸時代、

 

正徳2年(1712年)成立の和漢三才図会(わかんさんすいえず)には、

 

「水仙、南面の岩陰によく茂生す。

 

遠州・駿州の如き向陽の地には三四尺のものとぼしからず」

 

との記載があります。

 

室町頃に日本に入って来た水仙が栽培され、

 

そこから持ち出されたものが、人知れず群落を作り、自生地にしてしまったようです。

 

現在では

 

淡路島や九州南部海岸、

 

伊豆南部や能登半島に自生地があると言われてるようです。

 

 

 

私はこの水仙の中でも、

 

まだまだ寒い時期から花を咲かす

 

日本スイセンが好きです。

 

派手さはなく、

 

無垢で清楚な花だと思っています。

 

厳しい冬の間から今年も順調に花を咲かせ、

 

すがすがしい芳香を放っています。

 

スイセンの季語は晩冬ですが、

 

その美しさに目をうばわれ、懐かしさと癒しを与えてくれます。

 

スイセンの異名は雪中花、


なかなか情緒のある名前です。