梅雪 | もとろーむの徒然歳時記

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山が好き、花が好き、クラッシック音楽や絵画、演劇に歴史好き…気ままに書かせて頂いています。

 

この冬初めての積雪に、庭の梅も重たそうです。

 

花にまとわりついた雪とともに、雪の上に

 

花びらを散らす花もありますが、

 

負けじと重みに耐え、

 

しっかりと5枚の花びらを離さずにいるものがほとんどでした。

 

 

         陸游(りくゆう) 「落梅」

 

         酔折残梅一両枝  酔うて折る残梅の一両枝

         不妨桃李自逢時  防げず桃李の自ら時に逢うを

         向來冰雪凝厳地  向来氷雪のこること厳しき地に

         力斡春迴竟是誰  力めて春のかえるをすすむるは竟に是誰ぞ

 

酔いて咲残りの梅の一枝二枝を折った。

 

ももやすももが、春たけなわの暖かい頃に咲くのを

 

うらやむことはない、

 

雪と氷で寒さも厳しいこの地にあって、懸命に春を呼び寄せるのは、

 

結局は誰なのか、それは梅ではないか。

 

 

 

梅は奈良時代に原産国の中国から渡来したと言われていますが、

 

当初は薬として乾燥した梅の実が重宝されたようです。

 

しかし、当然、万葉歌人たちは

 

この梅の美しさに関心を寄せています。

 

万葉集の中に梅を詠み込んだ歌が118首あり、

 

ハギの花の137首についで2番目に多く詠まれています。

 

3番目がサクラの42首ですので

 

当時の人気の程が伺えます。

 

我が園に うめの花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも

(大伴旅人 おおとものたびと)万葉集5巻822

 

 わが家の庭に梅の花が散る。はるか遠い天より雪が流れて来るよ。

 

梅の花の白さを、雪の白さであると言い換えて、

 

見た目以上の美しさが見えてくるようです。 

 

 

平安時代になると梅は、上流社会の花になり、

 

それまでになかった匂いという花の美も探求され始めます。

 

有名な、

 

東風吹かば 匂い起せよ梅の花…などの歌がそうです。

 

そして色もそれまで白梅ばかりであったものから、

 

紅梅も輸入されるようになり

 

当時の宮廷や貴族の館に植えられ、沢山の和歌の材料となっています。

 

清少納言の枕草子の35段、木の花は(春34)には

 

木の花は濃きも薄きも紅梅。

 

木の花は色の濃いのも薄いのも紅梅がよいと書かれています。

 

この次にくるのが桜、藤で、

 

いとめでたし。見事だと続きます。

 

 

 

また、紫式部の源氏物語の末摘花(すえつむばな)では、

 

光源氏が零落の姫君、末摘花の鼻の赤さを思い出しては、

 

ひとり笑いをかみころす場面にも

 

紅梅が咲いています。

 

雪の朝、末摘花(源氏がつけたあだ名・紅花の別名)を訪れていた源氏は

 

初めて見る末摘花の醜貌に驚きます。

 

それまで見ることのなかった、末摘花の顔、

 

長い鼻に真っ赤な鼻先、その醜悪ぶりに仰天します。

 

源氏は二条院に戻ると、可憐な若紫を相手に、

 

末摘花の醜貌を思い出し、

 

髪の長い女性を描いては、鼻を赤く塗り、自分の鼻にも紅を塗って戯れます。

 

その後の叙述です。

 

こんなことをしてふざけている二人は若々しく美しい。

 

初春らしく霞を帯びた空の下に、

 

いつ花を咲かせるのかと、たよりなく思われる木の多い中に、

 

梅だけが美しく花を持っていて、

 

特別なすぐれた木のように思われたが、

 

緑の階隠(はしかく)しのそばの紅梅は、ことに早く咲く木であったから、

 

枝がもう真っ赤に見えた。

 

 

くれないの 花ぞあやなく 疎まるる 梅の立枝は なつかしけれど

 

(与謝野晶子訳 源氏物語)

 

と続きます。

 

ここでは、末摘花の異様な赤鼻を連想する源氏に、

 

紫式部は

 

歌に梅の高く伸びた枝は、なつかしいものなのに、

 

その花の赤さは、わけもなくいやなものと詠ませています。

 

花の色ひとつにしても色々と好みと事情があるようです。

 

因みに源氏は末摘花の滑稽なまでに

 

古風で気の利かない性格に驚きながらも、


心が素直な末摘花を見捨てることができず、生活の支援をしています。

 

 

現代では梅の品種は300種類ほどあるそうです。

 

私も梅の花が大好きで、庭の梅は植木屋さんに頼んで

 

野梅系の出来るだけ原種に近い白梅を探してもらいました。

 

この白梅、花は小さいのですが、

 

香りが良く、

 

花期も長いので、和室の雪見障子越しに楽しめます。

 

白梅に雪が降り積もる様は、

 

万葉人に限らずとも、いとおかし。です。