早春賦 | もとろーむの徒然歳時記

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山が好き、花が好き、クラッシック音楽や絵画、演劇に歴史好き…気ままに書かせて頂いています。

 

先日の雪が残る庭の日陰では、

 

グランドカバーのジュニペルスウィルトニーが

 

青緑色の葉を広げ、残雪の合間から顔をのぞかせていました。

 

暑さにも寒さにも強い植物で美しい緑の枝を四方に広げます。

 

 

久しぶりに散歩に出かけました。

 

 

素心蝋梅(そしんろうばい)、

 

まだまだ満開の状態です。

 

この蝋梅は花全体が黄色になる品種です。

 

蝋梅は中国原産で日本には1600年代に唐梅という呼び名で入って来たといいます。

 

中国では宋の時代より観賞用とされていますから、

 

今より1000年程前には既に人々の目を楽しませていたことになります。

 

金梅春寒をとざし 人を悩ますの香り未だ開かず 桃李の種類なしと雖(いえど)も

風味極めて浅からず。               (黄 庭賢(こう ていけん))

 

金梅とは言うまでもなく蝋梅です。

 

春の訪れを予感させる花の香りと、その美しさを称えています。

 

春寒(しゅんかん)は、春の寒さを指します。

 

「桃李の種類なし」という部分は、まだ花が開かない段階であり、

 

具体的な種類は分からないが、その香りは浅くないとしています。

 

 

 

毎年見事に咲かせる枝垂れ梅があります。

 

青空に大きく手を広げ、下に立つと花が降ってくるような感覚になります。

 

梅が奈良時代に日本に入って来たのは、

 

以前にも書きましたが、この時代が中国でも梅の観賞が最も盛んな時代でした。

 

そのころ中国へ渡った遣唐使たちの目にも

 

この梅を愛でる姿が入らなかった訳もなく、

 

おそらく遣唐使たちは梅の種や苗を大宰府へ持ち帰ったのでしょう。

 

万葉集に梅を詠んだ歌が118種あるということも以前にも書きましたが、

 

この歌のほとんどが西国で詠まれたもので、

 

当時、まだ東国では詠まれていません。

 

つまり梅の広がりも当時は九州から西国までで、

 

東国ではまだ馴染みがなかったのでしょう。

 

唐風を最高の風流としていた万葉貴族たちは、

 

中国的な雰囲気を漂わせる梅に関心を寄せ、

 

庭に植え、花を楽しんでいたことは容易に想像できます。

 

 

シナノマンサクです。

 

名前は「真っ先に咲く」との東北なまりの「まんず咲く」とも言われていますが、

 

定かではないようです。


花は黄金色で花弁が長く紐のようになっているので、

 

中国では金縷梅(きんるばい)と言い、

 

日本語ではまんさくと読ませているようです。

 

このマンサク、日本はアカバナマンサクやベニマンサク等が

 

自生していたようです。

 

私も生垣にトキワマンサクを植えています。

 

春になると美しい紅色の花を沢山咲かせてくれます。

 


毎年観る侘助です。

 

紅侘助と白の侘助が花をつけています。

 

侘助の学名はCamellia wabisukeで

 

ツバキのCamellia japonicaと区別されています。

 

この侘助は筒咲きでツバキより小粒の花をつけます。

 

科目はツバキ科ですが

 

ツバキのように花は開かず、晩秋から寒中にかけて半開の花をぽつりぽつりと咲かせます。

 

どこか質素で控え目の花であるところから茶道ではよく使われる花です。

 

 

カラタチの生垣です。

 

とげだらけの姿は一種異様な感じをうけますが、

 

この花木ももともと中国の原産で、古い時代に渡来しています。

 

りっぱなとげがあることから生垣にも使われ万葉集にも詠まれています。


名前のカラタチは唐橘(からたちばな)を短くして

 

カラタチと呼ばれるようになったようです。

 

からたちの 棘原(うばら)刈り徐(そ)け 倉たてむ 屎遠くまれ 櫛造る刀時(とじ)

 

万葉集(巻第16 3832)


カラタチの茨を刈り取って倉を建てよう。

 

櫛作りのおばさんよ。トイレは遠くでやってくださいね。

  

また枕草子の148段(春・134)には名おそろしきものの中にも、

 

うばら、からたちが書かれています。

 

このカラタチ、みかん属なので白い花を咲かせ実もつけ、

 

芳香も良いのですが、実は食べられないそうです。

 

 

公園にクリスマスローズが花を咲かせていました。

 

この花はヨーロッパの原産で

 

日本には明治初年の入ってきた渡来花です。

 

クリスマスローズと言いますが、

 

自然咲きでは早春に花を咲かせます。

 

ヨーロッパでは1590年ごろに紹介され、

 

学名をヘレボルス・ニーゲルと言いリンネの命名です。

 

有毒植物ですが、

 

この花がサポニンを含んでいた為、利尿剤や強心剤などの薬草として栽培され、

 

観賞用となったのはその後の事になります。

 

 

あせびの花が咲き始めていました。

 

この花もまた有毒植物です。

 

スェーデンの植物学者ツンベルクの「日本植物誌」にはあせびの事を

 

「シシクワズ」と紹介しています。

 

これはかつて彼が滞在した長崎県の西彼杵(にしそのぎ)地方の呼び方である

 

ことからそのまま採用したようです。

 

この有毒成分はアセボトキシンとアセボチンという物質で

 

昔の人達は茎や葉を煮だして、農作物の害虫駆除などに使っていたそうです。

 

奈良公園の馬酔木は有名ですが、

 

いうまでもなく鹿が食べないので、残って繁殖したのでしょう。

 

埼玉の奥武蔵地方では、

 

江戸時代この馬酔木を腰にさして歩くと、

 

狼などに襲われないという風習があったと言います。

 

 

 

まだまだ山茶花の花は残っていました。

 

学名はツバキやユキツバキと同属の

 

CamelliaでありC.sasanqua Thunbergとつけられています。

 

示種名にsasanquaという和名がついています。

 

もちろん山茶花は日本原産です。

 

自生しているのは九州、四国の

 

山地、山口県の西の一部で、

 

自生地で観られる花はほとんどが白一色だそうです。

 

山茶花が日本古来の花でありながら、

 

万葉歌や枕草子を探しても登場しないのは何故でしょう。

 

自生する場所が山の中だったからでしょうか…。

 

しばしそんな事を考えながら散歩を終えました。

 

半日の散歩でしたが、

 

春が確実に近づいている事を、出会った植物たちが教えてくれました。