ゆうやけ | もとろーむの徒然歳時記

もとろーむの徒然歳時記

山が好き、花が好き、クラッシック音楽や絵画、演劇に歴史好き…気ままに書かせて頂いています。

 

やさしい心の持主は

いつでもどこでも

われにもあらず受難者となる。

何故って

やさしい心の持主は

他人のつらさを自分のつらさのように

感じるから。

やさしい心に責められながら

娘はどこまでゆけるだろう。

下唇を噛んで

つらい気持ちで

美しい夕焼けも見ないで。

 

吉野 弘 「夕焼け」

 

 

 

 

最近建った大きな物流センターに

 

明かりが灯るころ

 

鉄橋を渡る帰宅電車の

 

レールの音がこだまします。

 

吉野弘さんの夕焼けです。

 

親切心、責任感だったのでしょうか

 

人の気持ちに敏感すぎる心の葛藤に

 

自らを責め、

 

辛い思いをする優しい娘…。

 

あなたは何も悪くない

 

せつない話です。

 

葛藤を乗り越えて、

 

明日は元の優しいあなたでいて下さい。

 

 

 

 

美しい夕焼けでした。

 

一日の終わり、

 

夕闇せまる木の上で

 

カワセミは何を思っているのでしょうか

 

冬旱(ふゆひでり)で

 

川の水は干あがり、

 

取り残された水溜まりは、日に日に小さくなっています

 

カワセミは何も言いません。

 

物流センターの灯がともっても

 

遠くを見つめたまま、動こうともしませんでした。

 

気が付けば

 

言いようのない寂寥感に

 

さいなまれていました。

 

 

 

 

 

( 夕焼け 吉野弘 詩集/ 奈々子に )

 

  いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に。
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をギュッと噛んで
身体をこわばらせて―。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。