横溝慎一郎行政書士合格ブログ   -2899ページ目

科目別学習法~民法編その2(2006年度民法記述式回顧録)

前回は2006年度本試験民法の択一式問題を振り返ってきました。


今回は記述式問題を振り返っていきましょう。


【記述式】

多肢選択式という予想外の出題があったため、記述式問題自体が3問にとどまり、しかもそのうち2問が民法というアンバランスな出題傾向になりました。ただこれもまた民法重視の傾向といえばそこまでなのかもしれません。

内容的には2問とも標準レベルだったのではないでしょうか。


問題45 売買契約において買主が売主に解約手付を交付した場合に、このことによって、買主は、どのような要件のもとであれば、売買契約を解除することができるか。40字程度で記述しなさい。


この問題は受験生の多くがある程度は解答できた問題だったようです。

問題文に「解約手付」とはっきり書いてあること、そしてその要件を聞いていることも問題文から読み取れるため難易度からするとそれほど高くない問題だったといえるでしょう。

ポイントは2点です。


POINT1 解除できるのはどのタイミングまでか⇒「相手方が履行に着手するまで」(最判昭40年11月24日)

POINT2 解除する際に買主に要求されることはなにか⇒「手付を放棄すること」(557条1項)


この両方が過不足なく入っていないと満点には届かないでしょう。


解答例⇒買主は相手方が履行に着手するまでは交付した手付を放棄すれば売買契約を解除できる。(41字)


問題46 AはBに対して3000万円の貸金債権を有しており、この債権を被担保債権としてB所有の建物に抵当権の設定を受けた。ところが、この建物は、抵当権設定後、Cの放火により焼失してしまった。BがCに対して損害賠償の請求ができる場合に、Aは、どのような要件のもとであれば、この損害賠償請求権に対して抵当権の効力を及ぼすことができるか。40字程度で記述しなさい。


こちらは受験生がかなり苦戦した問題だったようです。「なにか代位する話だ」ということまでは気付けたものの、それが「物上代位」であることを思い出せず「債権者代位」と書いてしまった人は、けっこういたということがわかっています。


事案としては「物上代位」の典型的なパターンなので落ち着いて問題文を読めば十分解答可能な問題ではあるのですが、

問題45と違って「物上代位」という文言が問題文中に登場しない分難易度はやや高かったといえます。


抵当権の設定された建物(抵当目的物)が焼失しているので、物権の一般的消滅事由にしたがって抵当権は消滅することになるはずですね。つまりAはBへの債権を他の債権者に先立って弁済を受けることができなくなります。

一方Bは放火したCに損害賠償の請求をすることで損害の穴埋めは可能になるわけです。

これは、権利を失うAに比べて、担保物件の消滅および損害の穴埋めを受けられるBは優遇されすぎているということができますね。そこで民法は372条で304条を準用するということにして、このような場合に一定の条件の下で抵当権の効力をBが有するCへの損害賠償請求権に及ぼすことができるとしているのです。これが「物上代位」ですね。


本問はこの「物上代位」が認められる場合の要件を聞いている問題です。

これは304条にはっきりと書いてあります。

「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」ということですね。


この要件が要求されることについて最近の判例の立場(最判平10年1月30日)は

差押えをすることで第三債務者が二重弁済をすることを防止して、第三債務者を保護する

趣旨だとしています。ここでいう第三債務者とはCのことですね。

CとしてはBから請求されてBに支払ったのに、その後物上代位だ!とAから言われて

Aからも請求され支払わなければならないのではさすがにかわいそうです。

そこでAが差押えをすることで、Cに対してAにだけ支払えばよいのだということをわからせる必要がある(※差押えの効果としてCはBへ支払うことが禁止されます)、ということなんですね。


少し難しい話をしましょう。

実は304条1項ただし書で「差押え」を要求する趣旨として従来は次のような考え方が有力でした。

それは「差押え」を要求しないと、CがBに損害賠償金を払ってしまった場合に困ったことになるというものです。

Bに払われた金銭はBのそのほかの財産の中にまぎれてしまいます。ここにまで抵当権の効力が及ぶとするとBの全財産についてAに優先弁済権を認めることになり、Bに他の債権者がいた場合バランスが悪くなります。もともとAはB所有の建物について抵当権を設定していたにすぎないのに、それがBの財産全体に広がるのはAを優遇しすぎですよね。
そこで「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」として、BがCに対して有する損害賠償請求権がBのほかの財産に紛れ込むことを防止していると考えるのですね。こういう考え方を「特定性維持説」といいます。


さて本問の解答は次のようになります。赤字の箇所がないと点数に結びつかないと考えてよいでしょう。


解答例⇒AはBが有する損害賠償請求権を払渡し前に自ら差押えれば抵当権の効力を及ぼすことができる。(44字)


問題45、46とも40字程度での解答を求められているので、最低限32字は書きたいところです。与えられたマスが45字分ありましたのでそこまで許容範囲とみてよいでしょう。

またどちらも「~できるか」と聞いているのですから、文末は「~できる」で終わらせたほうが無難です。


最後に漢字を間違えた場合の扱いですが、減点は覚悟したほうが良いと思います。

特に解答例中赤字で示した箇所について誤字があると確実に減点されます。

常日頃から正しい漢字を書く意識を持っていないといけないということですね。


さていよいよ次回から具体的学習法、およびおすすめ参考書の紹介に入っていきます。

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科目別学習法~民法編その1(2006年度民法択一式回顧録)

今回から5回にわけて民法の学習法についてお話していきましょう。


民法は本試験において受験生を悩ませる科目のひとつです。

それだけに学習法を誤ってしまうと最後までひきづってしまう危険があります。

最初が肝心、ということですね。


まず具体的な学習法に入る前に


2006年度の本試験を振り返っておきましょう。


2007年度の対策を考えるには前年度の試験を振り返ることは重要な作業です。

トラックバックに、2006年度本試験問題択一式民法の問題があります。手元に問題のない人はそちらを参照してくださいね。


1 2006年度本試験をふりかえって


出題数は予想通りふえました。択一式が9問、記述式で2問計11問の出題となったのは今後の行政書士のあり方を見据えた試験委員からのメッセージと考えるべきでしょう。

ただ、行政法に比べて民法の問題をしっかり正解しなかったからといってそれが合否に大きく影響するような問題だったかといえば、そこまでではなかったというのが実情です。


択一式は9問中4問、記述は2問中1問とっていれば十分だった


というのがさまざまなデータから判明しています。


ここからは問題ごとに見ていきましょう。


【択一式】

問題27 制限行為能力者からの出題は2年連続になりました。制限行為能力者の典型論点である「相手方の保護」からの出題です。これは得点しなればならない問題でした。合格者は確実に得点してくる問題といってもよいでしょう。正解肢の4は基本的知識でした。選択肢5で「補助人の行為を取り消すことができる」となっているのは「被補助人の行為を取り消すことができる」の誤り(単純な誤植)です。


問題28 捨て問です。司法書士試験では頻出論点のひとつですが、行政書士試験ではここ10年見たこともありません。


問題29 得点すべき問題。選択肢2,3,4は知らなかった方も多かったと思いますが、いずれも問答無用にひとつの結論しかないという内容になっており、私的自治の原則からおかしいなと気付いてほしい問題でした。それ以上に選択肢1と5は知識で判断できる選択肢だったので、2、3、4に惑わされなければ正解できたのではないでしょうか。


問題30 できれば得点したい問題です。選択肢2、3、5は判断できなければいけない選択肢です。特に選択肢2は基本知識であるとともに1997年問題29(3)で「抵当権は、不動産のほか、地上権及び永小作権を目的として設定することができる」という内容で出題されています。選択肢3も「177条の第3者」には、包括承継人はふくまれないということがわかっていれば、その段階で問題なく切れる選択肢です。

選択肢1が借地借家法1条の知識が必要になるので多少やっかいですが、選択肢4において、いわゆる保証人の補充性のような話が物上保証人にはないということに気付ければ正解にたどり着ける問題です。


問題31 捨て問です。そもそも出題に問題があります。特にイは問題文として妥当性を欠くのではないかと思われます。


問題32 正答率(LEC無料成績診断による)からすると、捨て問なのですが、内容を見ると出来てほしい問題です。選択肢ひとつひとつは決して難しくありません。ただ個数問題であることから正答率が良くなかったのだろうと思います。


問題33 賃貸借は大ヤマだったのですが、難易度の高い問題だったため正答率は伸びませんでした。組み合わせ問題なのでいくつかわかればなんとかなるのでは、という期待を抱かせる問題だったので、現場で捨て問と判断するのは厳しいでしょう。

アとウは基本知識ですので、この2つは確実に判断できるようになってほしい。現場思考ということでいえばアが正しいと判断できることが条件ですが、それとの対比でオも正しいのではという推測を立てることは可能です。同様にエは誤りという推測を立てることも可能です。つまりAB間の賃貸借契約の終了原因がア、エ、オはBに帰責事由がないということで共通している。そしてウとはそこが違う。ここに気付けると正解に到達できます。


問題34 得点すべき問題。いずれも基本知識です。


問題35 多くの人が選択肢3と4で迷ったようです。選択肢4は文末の「みなされる」がポイントですね。夫婦別産制(762条1項)であることから考えて、いきなり「共有に属するものとみなされる」のはおかしい、ということに気付きたい、そんな問題です。


択一式では問題の見極めと基本知識の充実、そして現場思考が求められる問題構成だったということで

典型的な行政書士試験問題だったといえるでしょう。


記述式については、次回コメントします。そしてそれらをふまえて学習法の話に入っていきますね。


最後に民法の大家である我妻栄先生の言葉から

「法律を学ぶには、暗記しないで、理解しなければならない」



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よくある質問その4&5~模試の活用法とゼミの功罪

今回は少し先の話になります。

ということで、またお話する機会があると思いますので、今回は簡単に触れることにしましょう。


① 模試の活用法


模試(答練も含む)は試験学習をしているときに避けては通れないものです。

これまえで繰り返しお話してきましたが、試験は単なる知識では対応できないものです。

「問題を解くことができる知識」でないといけない。


そして「問題を解くことが出来る力」=「解答力」は実戦の場でないと身につきません。

だから模試は重要なのです。

いってみれば「本番のシミュレーション」ですね。


ということを考えると、せめて模試だけでも会場受験しておきたい ですね。


家でリラックスして解いても、無意味とまではいいませんが、効用は半減します。

会場受験の場合でも、工夫次第でその効用を単に受けている人の何倍にもあげることが

できます。この話はまた機会を改めてお話しますね。


と同時に、弱点の洗い出しを行う機会でもあります。

ここは復習の方法を工夫するとよいのですが、この話も

機会を改めてお話しましょう。

弱点を洗い出す機会だということは、点数が悪いほうが

補強のやりがいがある、ということにもなるのです。

だから点数に一喜一憂していても、時間の無駄なのです。


とにかく模試はやり方次第で、自分でも気付いていなかったような弱点を発見できるとともに

本試験にむけての重要なシミュレーションもできるという貴重な機会を手に入れることが

できるのですね。


②ゼミはやるべきか


国家試験対策などをゼミにて行っている人は結構います。

同じ学校だったり、同じ予備校だったりと、きっかけはさまざまでしょうが、

なんだか「ゼミ」という響きは「熱心に学習してる人」を連想させるものです。

ですから、受験生仲間でゼミを組んでいろいろ検討していくこと自体は悪いことではありません。


しかし見方を変えると「自己満足」の領域を出ていないケースを多いのが実情 です。


ゼミで学習をしていて有害なことは、全員で間違った方向へ突き進んでいってしまうという点にあると考えています。

つまり、ゼミは自主学習会のような位置づけですから


必ず「羅針盤」が必要 になります。


ここで、全員のレベルが同じくらいだと、まさに進むべき方向性が定まらず、その結果難破してしまうことも十分に考えられるのです。


ですからゼミでの学習を取り入れる場合には、相当の実力者にも入ってもらうことが重要です。

しかもある科目に特定したゼミの方が得られる効果は高いですよ。

今度はゼミを組んでいる科目と、そうでない科目とのバランスにも気をつけなければならない。


そう考えると、無理にゼミを組む必要は全くありません。


むしろ普段の学習は一人で学習したほうが効率は格段に高いですよ。

このことは予備校を利用している人も独学のひとも同じです。


さて次回は、科目別学習法第2回「民法」について、お話していきましょう。