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■「よく利く薬とえらい薬」に関する感想
「賢治童話の中ではやや軽い作品」と天沢退二郎が述べるように、物語に奥行きというものがほとんど見られない。ほとんど日本昔話程度のあらすじと物語の展開である。
偽金使いの大三が罰せられる理由は、自らの欲望ゆえ自滅すると解釈できるが、なぜ清夫には「よく利く薬」が与えられるのかという理由は言及されていない。強いて言うなら、母親思いというぐらいであろうか。
現存草稿は、「四百字詰原稿用紙十二枚にブルーブラックインクで清書、手入れは1 同じインク、2 細いペン・青っぽいインク、3 太いペン・青っぽいインクの順」と、かなり手を加えていることが分かるのだが、手が入っている割に読後感がほとんど湧かない作品である。
本作が創作された大正十年から十一年にかけて、賢治は菜食を礼賛していたことから、ばらの実による浄化を本作でとりあげ、それは後の「ビヂテリアン大祭」につながっていったと井上寿彦は指摘するのだが……。
原初的な物語と言ってしまえば、それまでだが、この頃の賢治は、こういう簡単な構造の作品が創りたかったのだろうか。
■「よく利く薬とえらい薬」あらすじ
母が病気であるため、清夫はひとり森の中でばらの実を集めている。森の生き物はそんな清夫を気遣って、母の容態を彼に尋ねる。
たくさんの実を集める清夫だったが、不思議と籠の中に実が増えていかない。ぽたぽたと汗を流しながら疲れてしまった彼は、ふと一粒のばらの実を唇に当てる。すると、「唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分に」なる。清夫は飛び上がって喜び、母の元に急ぐ。その実のおかげで母の様態は全快するのであった。
不思議なばらの実の話はまたたくまに広がり、それを聞きつけた偽金使いの大三はばらの実を集める。森の生き物たちは、欲深い大三をよく思わないのであった。
いくら探してもあのばらの実が見つからないものだから、大三は十貫目ものばらの実を持ち帰り、自分であのばらの実をつくろうとする。ガラスのかけらと水銀と塩酸をばらの実に加えて、るつぼで灼いたものを飲んだ大三は、死んでしまう。るつぼのなかにできたものは昇汞という毒薬であった。