5-12 鳥箱先生とフウねずみ | 宮沢賢治論

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宮沢賢治の作家論、作品論

宮沢賢治全集〈5〉貝の火・よだかの星・カイロ団長ほか (ちくま文庫)/宮沢 賢治

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■「鳥箱先生とフウねずみ」に関する感想
鳥箱先生とは、鳥箱がすなわち先生となったもので字面の通りの存在である。思わず筒井康隆の作品に出てきそうな、シュールな登場人物である。

本作の主題は、末尾に猫大将が述べる台詞に集約されているので、あえて述べるまでもない。

中野新治は、鳥箱先生がフウねずみに述べる訓示はどれも「子ねずみの現実を無視した届かない言葉」であり、このことから、生徒に「届かない言葉」が教育界に充満していることを賢治は実感していたのだと指摘する。

本作の現存草稿は「四百字詰原稿用紙十枚にブルーブラックインクで清書したものに、1 同じインク、2 赤鉛筆、3 青っぽいインクで順に手入れ」されたもの。

鳥箱先生とフウねずみのやりとりがユーモラスであるが、結末は残酷であり、そして、批判的である。


■「鳥箱先生とフウねずみ」あらすじ
「天井と、底と、三方の壁とが、無暗に厚い板でできてゐて、正面丈けが、針がねの網でこさへた戸」でできているのが「鳥箱先生」である。

彼は自分の中に入れられてくる小鳥にことごとく訓示をするのであるが、鳥は饑えたり、病気になったり、また、あまりの寂しさから箱の中で死んでしまうのであった。

ある日、小鳥が箱の中にいるにもかかわらず、戸を開けたまま居眠りをしてしまった鳥箱先生。目を覚ますと、すでに猫大将が小鳥を捕まえて、ニヤニヤ笑いながら向こうに走り去っていた。それ以来、信頼を損なった先生は、物置の棚へ放置される。

物置で出会った母親ねずみから、フウという名前の子ねずみの教育を頼まれた先生は、フウに向かって、
「男といふものは、もっとゆっくり、もっと大股にあるくものだ」とか、
「男はまっすぐに行く方を向いて歩くもんだ」
と訓示を述べるが、まったく効果のないことに腹を立てる。先生が、ねずみの親子に説教をしているところに猫大将が嵐のように現れ、フウをつかんで地面にたたきつけた。
「ハッハッハ、先生もだめだし、生徒も悪い。先生はいつでも、もっともらしいうそばかり云ってゐる。生徒は志がどうもけしつぶより小さい。これではもうとても国家の前途が思ひやられる。」