5-17 カイロ団長 | 宮沢賢治論

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宮沢賢治の作家論、作品論

宮沢賢治全集〈5〉貝の火・よだかの星・カイロ団長ほか (ちくま文庫)/宮沢 賢治

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■「カイロ団長」に関する感想
たのしくて、愉快な作品である。雨蛙たちが、「苦境をたとえば反抗や革命によって克服するのでなく、『王様のご命令』によって都合よく救われる設定に甘さをみる向きもあろうが、これはむしろ、雨蛙たちの基本的な弱さ・限界に対する作家の優しい見極め」と天沢退二郎が指摘する。

殿様蛙から搾取される雨蛙たちが、ついに革命を起こして殿様蛙を打倒するというのも面白そうだが……。造園を楽しい仕事とする彼らが、階級闘争により問題を解決するというのは、やや考えがたいし、そもそも彼らの造園業という仕事と矛盾していないだろうか。

あくまで本作の構図とは、雨蛙たちを支配する、非生産的な殿様蛙と、自然と調和した仕事をして生きる雨蛙という対立である。この対立する二極の関係を解決する方法は、両者の話し合いであるとか、先に挙げた革命による方法ではなく、超越的な存在である王様による命令である。

他者との調和とは、自らの働きかけによってなされるものではない、と作者はいいたいわけではなかろうが、殿様蛙の言い分が通る世界を認めることはできず、一方で、反抗・革命による解決も選択できない。本作における対立構造を解消する方法は王様による命令によるものしかないのである。

小説の奥深さとしては問題があるが、本作はたいへんユーモアに溢れており、読んでいて楽しい。愉快なかえるたちのユーモラスな物語が進行し、最後は水戸黄門のような強引なまとめ方で大団円を迎える。ある意味われわれの好きな予定調和のパターンである。

現存する草稿は二種類ある。
「(1)四百字詰原稿用紙八枚の裏面に鉛筆で書かれた下書稿で、手入れが鉛筆によるもののみ」
「(2)四百字詰原稿用紙二十四枚にブルーブラックインクで清書、手入れは1 同じインク、2 青インク」
ちくま文庫に所収されたものは(2)の2のものである。


■「カイロ団長」あらすじ
三十匹のあまがえるたちが、みんなでたのしく庭を造る仕事をしている。ところがある日、仕事が終わったあまがえるたちが一本の桃の木の下を通りかかると、そこには「舶来ウィスキー 一杯 二厘半」という看板が掛かっていた。あまがえるたちにはウィスキーがめずらしいものだから、ぞろぞろと店の中に入っていく。そこは、とのさまがえるが経営する飲み屋であった。酒盛りを始めるあまがえるたち。ウィスキーがあまりにおいしさから、おかわりを繰り返すあまがえるたちだったが、一匹、また一匹と酒の酔いからみんな眠ってしまう。

とのさまがえるは、あまがえるたちを順々に起こし、代金を請求するのだが、たくさんウィスキーを飲み過ぎてしまったため誰も代金を支払うことができず、全員がとのさまがえるの家来になってしまうのであった。

「いいか。この団体はカイロ団ということにしよう。わしはカイロ団長じゃ。あしたからはみんな、おれの命令にしたがうんだぞ。いいか。」

あまがえるを家来にしたが、これといった仕事もないので、とのさまがえるは適当な仕事をあまがえるたちにいいつける。だが、その仕事は彼らには過酷な労働だったので、自分たちにはこんな仕事はできないと言って抗議するが、とのさまがえるは全員を警察につきだすと脅迫する。

そこに王様からの命令が下る。人に物を言いつけるものは、まず自分がその仕事を行うこと。そして、続いての王様からの命令は、あらゆる生き物は憎み合ってはいけないというものであった。悔悟するとのさまがえる。三十匹のあまがえるたちは庭を造る楽しい仕事に戻るのだった。