闘う覚悟 その2 <医療と経済> | 宮沢たかひと Powered by Ameba

COVID-19 第3波の襲来に国中が苦悩しています。第3波襲来の主な原因は、第2波までの我慢と気疲れに起因した政府および国民の「気の緩み」による飲食や行動範囲の拡大、および緩い出入国管理であろうと推測しています。私は経済活動活性化の象徴である GoToトラベルに必ずしも反対ではありませんが、実行するタイミングと、他の施策との優先順位という点では疑問に感じる点があります。

 

“医療と経済のバランス”。 たいへん難しく、政治家もビジネスマンも悩んでいる点ですが、ときに議論が空回りしているように思えます。私は元々脳外科医師ですが、経営大学院で中堅若手のビジネスマンとともにビジネスマネジメントを学び、2年間の国会議員も経験しましたので、医師、ビジネスマン、政治家それぞれの視点でこの点を考察してみようと思います。

COVID-19 関連では本年5月以来の投稿です。
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【医療従事者】

 

医療従事者は医療現場に従事して患者を助けることを目的とする職業ですので、カネがどれだけ儲かるかを第一には考えません。患者を助けることに喜びを見出す使命感も仕事に対するモチベーションやエネルギーとなります。ただ、「我々は医師として感染症診療を第一に考えるのが仕事であり、経済活動や予算配分を考えるのは政治家の仕事だ!」とつっぱねてしまうのは問題ではないかと思います。医療現場での状況を政治家に伝え、要求すべきことを要求する一方で、国民の経済活動、国家としての税収、国家に制定してほしい法律等についても勘案しながら意見を述べられる医療従事者も必要です。
 

日本医師会長は医療崩壊を招かないために国民に Stay Homeを訴えています。国民の行動変容が重要であることは間違いありませんが、未来も続く感染症への対策として、医師会と厚生労働省を含めた医療界側も改革すべき点はたくさんあります。例えば、
 

●急性期病院、一般病院、開業医、保健所の役割を明確化し、国民にわかりやすく周知する。日本医師会長が述べる通り、感染症には休日も年末年始も関係ありませんので、診療機関の休日体制を再検討してもいいと思います。

●コロナ患者を診療できる急性期病院を地域の実情に応じて集約し、重症患者を診られる専門医と専門看護師を、国家の権限で統括かつ適正配置できるよう法整備を行う。

●年齢、基礎疾患の有無と程度、PCR検査、抗原検査データ等に応じて国民をグループ分けし、グループごとの社会活動の範囲と制限をコントロールする。それには、これら検査のデータ集積と分析機関、及び国家の権限が必要です。

●災害と考えても良いCOVID-19感染症の治療と管理にはきわめて特殊な管理技能とリスクへの覚悟が求められます。感染症診療では医療従事者自らの命が危険にさらされるため、医療従事者の使命感だけに頼った救急診療では長続きしません。医療に従事しているのだから自らの命を危険にさらして仕事をするのは当たり前だ、などという精神論で問題は解決しません。そうであるならば、従来の診療報酬システムにとらわれず、「危険従事報酬」とも言うべき特別報酬が医療従事者本人と病院に入る報酬体系になるよう法整備すべきです。診療科と診療内容に応じて病院および医療従事者個人の中に報酬格差が生じるのはやむを得ません。また、医療従事者のモチベーションを削ぐ差別的言動や行動に対しては、罰則などで厳しく対応していいと思います。

 

【ビジネスマン】

 

経済活動に貢献するビジネスマンは会社等の組織のために利益をあげることが第一の目的となり、その上で組織から家族を養うための糧を得ます。一方で、競合と競争しながらも、同時に自分の仕事が地域と社会の発展のためになることにも喜びを感じながら仕事をしています。この度、「人が動かない」ことでこれほどビジネス活動が影響される事態は想定していませんし、仕事の中で自らの命が脅かされる事態も想定していません。事故や病気に際しては、病院やクリニックに行けば対処してくれるのが当然と思っていますが、医療崩壊が進めばそれも不可能となります。政府の姿勢と方針にヤキモキしているビジネスマンも多いかと思いますが、政府の方針に異議があるのであれば、コミットする機会は選挙しかないのが現状ですので、選挙と政治に対する関わり方を強める必要があります。また、当面は飲食と行動範囲を抑制しながら、働き方および生き方を考え直すよい機会と捉えるのが賢明と思います。

 

【政治家】

 

政治家、特に国会議員は、厚生労働省などを通じて国家としての基本的医療体制を構築する責任があります。肝に銘じるべきは、政治家は病院のICUなど、命を扱う医療現場の激務をそう簡単には理解できないことです。従って、現場の医療従事者の意見を真摯に聞き、医療現場のベッド稼働体制、医療従事者の確保、COVID-19感染症以外の疾患への対応等にフォーカスして、予算を集中的かつ優先的に投下しなければなりません。また、医療現場の対応力の観点からCOVID-19感染症を指定感染症2類のままとするか、5類に落とすべきかという議論がありますが、2類のままであることにより医療崩壊が進み、心疾患、脳疾患、重症外傷等、他の重症疾患への対応ができなくなるようですと本末転倒ですので慎重な判断が必要です。さらに、アメリカやヨーロッパ並みに重症症例を管理するベッドが絶対的に不足する事態が想定される今、災害時と同様、人工呼吸器やエクモの装着にあたりどのような基準でトリアージして患者を選別するのか、医療倫理や哲学など様々な分野の専門家を集めて議論し、早急に結論を出す必要があります。

 

今の政府が、十分な科学的考察に基づいて政策方針を決定しているようには見えません。すなわち、GoToトラベルのような施策を実施する場合でも、COVID-19の感染率、死亡率、医療現場の状況等を念頭に置き、経済活動の指標としての雇用率、失業率、税収、経済成長率、自殺率等のデータの推移を把握した上で、新たな経済政策を実施した場合の医療および経済の将来見通しを科学的に考察し、政策を決定すべきです。100%正解の政策はありえませんので、たとえ結果が裏目に出ても、科学的根拠と議論のプロセスを明示しながら進めれば、国民はついてくるはずです。日本は自由を謳歌できる民主主義国家ではありますが、危機管理体制を徹底する必要が出てきたとき、国家の権限で国民に何らかの制限を課す仕組みは、必要であれば憲法を改正してでも構築すべきです。

 

国家予算の元となる税金を納めるのは国民であり、政治家や政府ではありません。政治家の役目は、さまざまな危機管理をしながら国民が安心して働き、経済活動を続けられるような社会を構築することです。国会議員は臨時国会を開催してでも上記の議論を煮詰め、早急に結論を出し、国民に告知すべきです。そして、国民に理解してもらい、実際に行動に移してもらうためには、政治家自身がCOVID-19感染症の深刻さを理解し、国民の模範となるような言葉と行動で、COVID-19感染症と闘うよう国民に促してほしいと思います。

そして、「政治リーダーのことばと覚悟」 が重要です。昨今の政治リーダーの言動を見ていると、リーダーとしての覚悟も迫力も伝わってきません。国民はCOVID-19感染症コントロールと経済のバランスが難しいことは理解し、すべての政策が成功するとは思っていませんので、政治リーダーとしての覚悟を示し、国民を導いてほしいと思います。