2770.中庸と詩経(14)徳の輶きこと毛の如し | 論語ブログ

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中庸と詩経(14)徳の輶きこと毛の如し

 

詩に云わく、徳の輶きこと毛の如しと。毛は猶お倫あり。

上天の載は聲も無く臭も無し。至れり。

   仮名中庸 第三十三章 85頁7行目

   伊與田先生の解釈

詩経(大雅烝民篇)に、「徳の軽いことは毛のようなものである」とある。

更に、詩経(大雅文王篇)には、「上天のことは声もなく臭いもない」と言うが、

実に聖王の徳をもって民を化するに、声もなく臭いもなくて、

民は自ら感化することを形容している。至れり尽くせりというぶきである。

 

「詩に云わく、徳の輶きこと毛の如しと。毛は猶お倫あり」・・・この部分は、「詩経」大雅の烝民篇に出てきます。烝民篇は八章六十四句の長篇です。その六章にでてきます。

「詩経」大雅の烝民篇。この句は古いことわざとして詩中で引かれたものです。詩は、毛のように軽い徳でも、だれにも持ち上げられない、とつづきます。

大雅の烝民 第六章(烝民篇全文は後ろの方にかいています)

人亦有言、 人亦言えること有り、

德輶如毛、 德の輶(かろ)きこと毛の如くなれども、      (出典箇所)

民鮮克舉之。民克(よ)く之を舉(あ)ぐること鮮(すくな)しと。

・世人の言う諺に言っている。徳は毛の如く軽いものであるが、人はこれを挙げ行う者はすくないと。徳を修めることは、何もむずかしいことではないが、世間の人はなかなかこれを行う者はすくない。

「詩経」には、「徳の軽くて広く行われやすいことは毛の飛ぶようだ」といわれている。毛のようだといわれると、まだその徳と比べるものがあることになる。

最後に、「上天の載は聲も無く臭も無し。至れり」・・・上天のしわざには、声もなければ臭いもない。とらえどころがなくて、比べるものもない、これこそが最高の徳だ。「天命としての誠の徳こそそれである。」と。ここでは、「詩曰」ということばはありませんが、「詩経」大雅の文王篇の二句にでてきます。この文王篇は七章八区の詩です。

大雅の文王篇 第七章(文王篇全文は後ろの方にかいています)

命之不易、無遏爾躬、 命の易からざる、爾が躬に遏(た)つこと無かれ、

宣昭義問、有虞殷自天。義(よ)き問(ほまれ)を宣(し)き昭らかにして、

有(また)殷を虞(はか)ること天に自(したが)え。

上天之載、無聲無臭、 上天の載(こと)は、聲(おと)も無く臭(か)も無し、

(出典箇所)

儀刑文王、萬邦作孚。 文王に儀(かたど)り刑(のっと)らば、

萬邦作(おこ)り孚とせん。

・天命は保ちやすからぬものであるから、常に戒慎恐懼して、長くこれを保つ様に勉めねばならぬ。

・爾の一代の時に於いて、天命を止め失うて、周王朝の断絶する如きことが有ってはならぬ。成王は武王の子であって、周王朝の二代目(文王よりは三代目)の天子である。而もかくの如く天命の断絶することを畏れるのは、天命を慎み畏れることの極みである。いわゆる安きに居て危うきを忘れず、治に居て乱を忘れないものであって、斯くの如くであるから、長く天命を保つことができるのである。

・然し上天の事は、聞こうとしても声もなく、嗅ごうとしても臭いもなく、図り知り難いものであるから、ただ心に深く思い、慎み畏れて、天道に循って行くことを勉めねばならぬ。

・故に、文王の行いは、即ち天に協う所であるから、之を手本として倣い行えば、天下万邦も皆興って信として従うであろう。

文王篇の第一章では、文王の徳が上帝の意にかなって天命を受け、天下に王となるその基盤を築いたことが述べられています。そして、この徳を長く子孫が継いていくことを誡めています。終章である第七章では、この文王の行いを倣っていくべきことをもって結ばれています。つまり、始まりの第一章と、終りの第七章が照応しているのです。

 

大雅・民(じょうみん)篇

第一章

天生烝民、有物有則。民之秉彝、好是懿德。

天烝民を生す、物有れば則有り。民の彝(つね)を秉る、是の懿德を好みんぜり。

天監有周、昭假于下、保茲天子、生仲山甫。

天有周の、昭らかなるが下に假(いた)せるを監(み)て、茲の天子を保(たす)けて、仲山甫を生せり。

第二章

仲山甫之德、柔嘉維則。令儀令色、小心翼翼。

仲山甫の德、柔(やす)く嘉くして維れ則あり。儀を令(よ)くし色を令くし、心を小(せ)めて翼翼たり。

古訓是式、威儀是力、天子是若、明命使賦。

古訓是れ式(のっと)り、威儀是れ力め、天子是れ若(したが)い、明命を賦(し)かしむ。

第三章

王命仲山甫、式是百辟、纘戎祖考、王躬是保。

王仲山甫に命じて、是の百辟に式(のり)せしめ、戎(なんじ)の祖考を纘(つ)いで、王躬是れ保んぜしむ。

出納王命、王之喉舌。賦政于外、四方爰發。

王命を出だし納れて、王の喉舌となれ。政を外に賦(し)いて、四方爰に發(おこ)さしむ。

第四章

肅肅王命、仲山甫將之。邦國若否、仲山甫明之。

肅肅たる王命、仲山甫之を將(おこな)えり。邦國の若(よ)し否(あ)しも、仲山甫之を明らかにせり。

明且哲、以保其身、夙夜匪解、以事一人。

 旣に明らかに且つ哲(さと)くして、以て其の身を保ち、夙夜に解(おこた)らずして、以て一人に事えり。 

第五章

人亦有言、柔則茹之、剛則吐之。

人亦言えること有り、柔らかなれば則ち之を茹(い)れ、剛ければ則ち之を吐く、と。

維仲山甫、柔亦不茹、剛亦不吐。

維れ仲山甫、柔らかなるをも亦茹れず、剛きをも亦吐かず。

不侮矜寡、不畏彊禦。

矜(かん)をも侮らず、彊禦をも畏れず。

第六章

人亦有言、德輶如毛、民鮮克舉之。        (出典箇所)

人亦言えること有り、德の輶(かろ)きこと毛の如くなれども、民克く之を舉ぐること鮮しと。

我儀圖之、維仲山甫舉之。愛莫助之。

我れ之を儀(はか)り圖るに、維れ仲山甫之を舉げん。愛しめども之を助くること莫し

袞職有闕、維仲山甫補之。

袞職闕くること有れば、維れ仲山甫之を補えり。

第七章

仲山甫出祖、四牡業業、征夫捷捷、每懷靡及。

仲山甫出でて祖す、四牡業業たり、征夫捷捷たり、每(つね)に懷う及ぶこと靡けんと。

四牡彭彭、八鸞鏘鏘。王命仲山甫、城彼東方。

四牡彭彭たり、八鸞(らん)鏘鏘(しょうしょう)たり。王仲山甫に命じて、彼の東方に城(きず)かしむ。

第八章

四牡騤騤、八鸞喈喈<音皆。仲山甫徂齊、式遄其歸。

四牡(しぼ)騤騤(きき)たり、八鸞(らん)喈喈(かいかい)たり。仲山甫(ちゅうざんほ)齊に徂(ゆ)く、式(もっ)て遄(すみ)やかに其れ歸(かえ)れ。

吉甫作誦、穆如淸風。仲山甫永懷、以慰其心。

吉甫(きちほ)誦を作る、穆(ふか)きこと淸風の如し。仲山甫永く懷えり、以て其の心を慰(やす)んず。

 

大雅・文王篇

第一章

文王在上、於昭于天。周雖舊邦、其命維新。有周不顯、帝命不時。文王陟降、在帝左右。

文王上に在(いま)す、於(ああ)天に昭らかなり。周舊邦なりと雖も、其れ命維れ新たなり。有周顯らかならずや、帝命時ならずや。文王陟(のぼ)り降りて、帝の左右に在せり。

第二章

亹亹文王、令聞不已。陳錫哉周、侯文王孫子。文王孫子、本支百世。凡周之士、不顯亦世。

亹亹(びび)たる文王、令聞已まず。周に陳(し)き錫(たま)えり、侯(こ)れ文王の孫子に。文王の孫子、本支百世。凡そ周の士も、顯らかならざらんや亦世々せり。

第三章

世之不顯、厥猶翼翼。思皇多士、生此王國。王國克生、維周之楨。濟濟多士、文王以寧。

世々之れ顯らかならずや、厥の猶(はかりごと)翼翼たり。思(そ)れ皇(よ)いかな多士、此の王國に生まるること。王國克く生めり、維れ周の楨(てい)。濟濟たる多士、文王以て寧(やす)んぜり。

第四章

穆穆文王、於緝煕敬止。假哉天命、有商孫子。商之孫子、其麗不億。上帝旣命、侯于周服。

穆穆たる文王、於緝(つ)ぎ煕(あき)らかにして敬めり。假(おお)いなるかな天命、有商の孫子あり。商の孫子、其の麗(かず)億のみならず。上帝に命じて、侯れ周に服せり。

 第五章

侯服于周、天命靡常。殷士膚敏、祼將于京。厥作祼將、常服黼冔。王之藎臣、無念爾祖。 

侯れ周に服せり、天命常靡ければなり。殷の士の膚(よ)く敏きも、京に祼(かん)將せり。厥の祼將を作(な)せる、常に黼(ほ)(く)を服せり。王の藎(じん)臣、爾の祖を念うこと無けんや。

第六章

無念爾祖、聿脩厥德。永言配命、自求多福。殷之未喪師、克配上帝。宜鑒于殷、駿命不易。

爾の祖を念うこと無けんや、聿(そ)れ厥の德を脩めよ。永く言(ここ)に命に配(かな)えば、自ら多福を求めん。殷の未だ師を喪わざるとき、克く上帝に配えり。宜しく殷に鑒(かんが)むべし、駿命易からず。

第七章

命之不易、無遏爾躬、宣昭義問、有虞殷自天。上天之載、無聲無臭、儀刑文王、萬邦作孚。

命の易からざる、爾が躬に遏(た)つこと無かれ、義(よ)き問(ほまれ)を宣(し)き昭らかにして、有(また)殷を虞(はか)ること天に自(したが)え。上天の載(こと)は、聲(おと)も無く臭(か)も無し、文王に儀(かたど)り刑(のっと)らば、萬邦作(おこ)り孚とせん。

 

つづく

                                                                                              宮 武 清 寛

                                                                                              論語普及会

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