花 282 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

病院の面会時間は14時から20時で、横山さんたちが来てくれたのは夕飯前の17時半頃だった。


何でもふたりで早めに仕事を終わらせてくれたらしい。





そんなことも含めてぎゃあぎゃあとひとしきり騒いだ後、色々持って来たでーと横山さんと松本さんが見せてくれた。


そこにはコンビニで買ったらしい飲み物やお菓子などの他に、まるやまパンのパン、ひとつひとつラップでくるまれた手作りっぽいおにぎりやサンドイッチ、冷食の焼き鳥や串カツなんかがあった。





「この辺全部冷凍できるから冷凍して、ちょっとお腹がすいたときに食べる分だけレンジであっためればいいよ。箸とか使うよりこういう方がいいでしょ?」
「ああああありがとうございます、松本さん………。実はご飯って地味にツラくて………」
「おいしくないんか?」
「いえ、味は多分普通なんですけど、箸とかスプーンフォークで食べるのが本当大変で………。痛みにくじけて途中でリタイアすることも………」
「………うわ」
「そんなに?」
「そういやにいちゃん、ちょっと痩せたんちゃう?」
「手術後点滴だったせいもあります。その後お粥だったり。まだまだご飯はある意味拷問の時間で、美味しいのかどうかも分からなくて………。だから手で持って食べられるのはありがたいです、本当に」
「まーくんに食べさせてもらったらいいんじゃないですか?」
「………あー、それは………すみません、正直たまにやってもらってます………」
「まーくんにか?あーんて?」
「はい。お恥ずかしながら。自分で食べるより早くて楽なので………」
「それええなあ。俺もやってもらおか」
「は?何でヨコが」
「って顔しとるで、松潤」
「………はあ⁉︎んなっ………おまっ………‼︎おっ、俺は別にっ………‼︎」
「そうかあ?」
「そっ、そうだよ‼︎いきなり変なこと言うな‼︎」





ぐふっ………。





俺の話からまさかの巻き込まれ事故な松本さんの大慌てっぷりに、思わず吹き出して、そのままシんだ。俺は。





ダメだ。


そうだ。俺は今笑ったらダメなのだ。笑ったらシぬのだ。痛くて。痛みで。





笑った直後に、いいいいいっ………て思いっきり顔を顰めて硬直したら、櫻井さん⁉︎とかにいちゃん⁉︎ってお三人が慌てて、あああああ大丈夫ですごめんなさい、ちょっと調子に乗って笑っちゃっただけですって説明したいのに痛くてできないでいたら、ばたーん‼︎ってドアの開く音としょーちゃん⁉︎って雅紀の慌てた声が聞こえた。





趣味と実益を兼ねた種との戯れタイムと、どんなに会議室にこもろうとも、俺がこうしてピンチ?になると毎回すぐに駆けつけてくれる雅紀がすごいと思う。





けど、あまりにも毎回すぐ過ぎて、どこかに何かついてるのか?と不思議に思う。思っている。赤ちゃんとかペットの見守りカメラ的な。





まあ、そんなものがあるならあるで雅紀になら見守られたいからいいのだが。


ないならないでないのに何故分かるのかナゾすぎるため、あった方が納得する。俺としては。





「ちょっとしょーちゃんに何したの⁉︎」
「ええ⁉︎何もしとらんて‼︎なあ⁉︎」
「そうだよ。してないしてない。何もしてないよ、まーくん」
「ただ喋ってただけだ」
「そうやで‼︎俺ら普通に喋っとっただけや‼︎」
「漫才とかコントはやめてよ。しょーちゃん今笑うだけで大変なんだから」
「だから、俺ら普通に喋っとっただけやで?」
「だからそれが漫才でコントじゃん。しょーちゃんただでさえ笑いの沸点超低いのに、今笑いに飢えてるからすぐ笑っちゃうんだよ。だから今日はいつもみたいに喋るの禁止」
「え、んなあほな」
「そんな」
「………漫才でコント?」





いやいやいやいや、雅紀くん。


せっかく来てくれたのに、久しぶりの日常感なのにそんな。


いくら俺のためとはいえ、そんな。


確かに笑うと痛いけども。





ほら、見てごらんよ、雅紀くん。


漫才とかコントなんて言われちゃった松本さんがショックを受けてるよ。





このまま変な空気感でまさかもう帰るとか言っちゃう?





なんてことは、もちろんなかった。





「あ、そうや、まーくん。ファミ◯キ買うて来たで」
「え、ほんと?」
「ヨコ‼︎お前結局買ったのか‼︎」
「当たり前やん。まーくん直々のリクエストやで」
「あれだけやめろって言ったのに‼︎雅紀、いいか?ファミ◯キは添加物がな?」
「わーい、オレ、ファミ◯キ超好きー。ありがとー、きみちゃん」
「聞けよ‼︎」
「こんなんいつでも買うて来たるで、食べたくなったらすぐ言いや。フィナンシェもあるでな。フィナンシェも食べ」
「ヨコ‼︎」
「やったー。あ、風間ぽん、コーヒー入れてー。しょーちゃんにはアイスコーヒーねー。ストローで飲めるからー」
「はいはい。きみちゃんも松本さんも飲むでしょ?コーヒー」
「おう、飲む飲む」
「………飲む」
「飲むんかい」
「しょーちゃん、ファミ◯キあーんしてあげようか?………って、しょーちゃん?」





そこでやっと雅紀が俺の異変に気づいてくれた。………のだが。





痛い。


痛すぎる。


だから笑うとダメなんだって。と、言ったところで。





笑える。


あまりにも、入院前の日常が目の前にありすぎて。





そしてそれが泣ける。





良かった。


シななくて良かった。


ケガで済んで良かった。


後遺症がなくて良かった。





もしシんでたら。


もし後遺症が残ってたら。





俺は危うく、この漫才でコントな日常を失ってしまうところだった。この人たちから奪ってしまうところだった。





ううって思わず涙ぐんだ俺に、静かになる4人。





「大丈夫。しょーちゃんもすぐ一緒にコントできるようになるよ」
「………うう」
「にいちゃんにはロールケーキも買うてきてん」
「………うう」
「おれコーヒーいれてきますね」
「………うう」
「………えーと………おにぎり、いる?海苔巻くけど」
「………昆布」
「え?」
「………え?」
「こ、昆布?」
「はい。昆布あります?」





何故か松本さんがびっくりしたように俺を見て、目をぱちくりして、俺には『うう』じゃなくて昆布なの?って笑った。


はいって答えつつも、俺は俺で、松本さんってご兄弟いらっしゃいます?って。





だってこれは聞かないと。


松本先生がスパルタ過ぎて聞けてないから、松本さんに。





そしたら何故か雅紀に、横山さんに、風間さんに、松本さんに思いっきり笑われた。





ううむ。






ナゼダロウ。