花 283 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

その日、面会時間ギリギリまでお三人は、風間さん、横山さん、松本さんは居た。居てくれた。





何なら横山さんは最後まで泊まる‼︎って駄々をこねてたけどな。


風間さんと松本さんにずるずる引きずられて行ったけどな。


『もう少し櫻井さんが良くなってからにしろ‼︎』って、松本さんに怒られてたけどな。





ちなみに松本さんはお姉さんがいるだけで、お兄さんや弟さんは居ないらしい。


念の為親戚の方がここに勤めてるとかは………?って聞いてみたけど、居ないよって言われた。


つまりリハビリの松本先生とは赤の他人。





何で?って不思議そうな松本さんに、実はリハビリの先生が松本さんにそっくりで………って話したのだが、何せ雅紀がそうだっけ?だし、横山さんが松潤にそっくりなやつが日本におるわけないやん‼︎で、風間さんもそれに納得してしまい、全然信じてもらえなかった。


いつかお三人に目撃してもらいたい。あれは是非。





しかし賑やかだった。


そして楽しかった。





笑うと痛いのに、笑わずにはいられなかった。笑ってはいててて、笑ってはいてててを何度も繰り返した。





久しぶりに、ご飯もお腹いっぱい食べた。


良くないんだろうけど、病院のご飯は『めっちゃうまそうやん‼︎』って興味津々な横山さんにあげて、俺は松本さんお手製のおにぎりやサンドイッチ、まるやまパンのパン、横山さんが買って来てくれたロールケーキを、時間を気にせずゆっくり食べた。





うまかった。


おいしかった。





食べると痛いのには変わりなかったけど、それでも日常の味は、一度シにかけただけに格別だった。冗談抜きで食べて涙が浮かんだ。





大袈裟でも何でもなく、生きている味だった。


生きているんだなって、味。





『にいちゃんまたな‼︎またすぐ来たるでな‼︎』
『ヨコはそのうち出禁だろ』
『きみちゃんはやばそう』
『何でやねん‼︎大丈夫や‼︎そんなことあらへん‼︎』
『その謎の自信はどっから来るんだよ』
『それ知りたい』
『どっからって、そんなん俺からに決まっとるやろ』
『………』
『………』





ドアがパタンと閉まるまで、本当に賑やかで賑やかで。





だからの反動。





雅紀とふたりになった途端、病室がめちゃくちゃ静かだった。





お三人が来るまで、この静かなのが普通だったのに、あの賑やかさからこの静かさに戻ると、寂しいと思うのは何でか。





「しょーちゃん、大丈夫?痛かったでしょ」
「痛かったけど………大丈夫。楽しかったよ」
「そう?うるさかったじゃん」
「確かに相当賑やかだったけど………楽しかったよ」
「そんなこと言うと、またすぐ来ちゃうよ。特にきみちゃんが」
「言わなくても来るでしょ、横山さんは」
「………どうしよう。毎日来たら」
「そのうちここから出勤とか?」
「え、それ本当にやりそうでこわいんだけど」





ウケる。


痛いのにウケる。


雅紀が本気で心配してて。





いていてってなりながら笑っていたら、ベッドに横座りしている雅紀が、そっと俺の手を握った。


だから俺もそっと握り返して。





「ひとつ聞きたいんだけどさ」
「ん?」
「どっかにカメラついてない?ここ。俺の近くに」
「………え?」
「俺に何かあると、雅紀すぐ来てくれるから。会議室に居ても。だから何か仕掛けがあるのかなって、俺ちょっと思ってるんだけど」





言いながら、ああこれは黒だなって分かった。


聞いた瞬間の雅紀の『え?』で黒判定。確定。


声が明らかにギクってなったから。それはもう、非常に分かりやすく。





聞き逃さないよ。雅紀の声なら、俺は。





「どこにあるの?」
「………そことそこ」
「おっと?まさかの2箇所」
「えー、せっかくこっそりやったのに、何で分かったのー?」





雅紀くん。


不服そうに膨らませるほっぺたが尖っている口が実にかわいいのだが。





雅紀の説明によると、やはり見守りカメラ的にだそうだ。


モニタリングって言い間違って?いたのは聞かなかったことにしようか。





テレビ番組じゃないけど、超小型カメラを雅紀がベッドとして使っているソファーベッドと、テレビのところに仕込んだらしい。風間さんと。





風間さんもグルか。まあそうか。そうだよな。





雅紀にはどうしたってやらなくてはいけないリーフシードの仕事がある。


そのためには、ある程度運んできた機材がある会議室にこもらなくてはならない。


でも、俺のことが心配だし、俺の顔も見たいからって。仕事を捗らせるためにも。





やばい。


雅紀が愛しすぎてやばい。





ああくそう。ケガがなければ押し倒し案件なのに。





「俺さ、思うんだけど………」





雅紀の手を握り直して、カメラがあるかもって思ったときに思ったことを雅紀に伝えた。





オレンジくんもじゃない?って。





俺は、思い込みで盗聴器なんてマイナス方向に思っていたけど。オレンジくんの葉っぱを。


でも、雅紀が俺を心配してカメラをこっそり仕込んだように、オレンジくんも、もしかしたら。


丸山さんが言っていたのが、正解だったのかもって。





雅紀が好きだから、ただ一緒に居たくて、自分と居ないときの雅紀の様子が心配で。だから葉っぱをくっつけていたのかも。





だから思う。


あの、さっきまでの賑やかさの中に、オレンジくんもいられたら。


俺はコロされそうにはなったけど、オレンジくんも俺たちと同じように、雅紀が好きだったのだから。





雅紀に見せてもらった、亡骸のようなオレンジくんの姿が、どうしてもチラつく。忘れられない。


シにかけた、コロされかけた記憶とともに、きっとこれからもあの姿は、忘れられないのだろう。





「育てたオレより、しょーちゃんの方がずっとオレンジくんを大事に思ってくれてるよね」
「………そう、かな」
「そうだよ。それに気づかなかったオレンジくんは………バカだよ」
「………雅紀」
「本当、バカ」





呟くような小さな声に、色んな思いが見えた気がして。





自分から動けないって、ツラい。


自分からしたいのに‼︎自分からしてこそのカッコつけなのに‼︎





でも、できないから。





俺は雅紀に、キスのおねだりをした。