止まってくれた枝に、これは話を聞いてくれるのかも‼︎と、俺は必死にオレンジくんに向かって、雅紀がいかにオレンジくんを大事にしているかを話した。
そして俺が、そんな雅紀を好きになったこと、雅紀も同じように俺を大事に思ってくれていることを話した。
でもそれは、決して雅紀がオレンジくんを嫌いになったということじゃない。
変わらず雅紀はオレンジくんのことを大事に思っている。オレンジくんが雅紀にとってかけがえのない存在であることには変わりない。
必死に必死に、伝えた。
稲光に浮かび上がるオレンジくんは、じっと俺の言葉を聞いてくれているようだった。
じっとじっと。
それはただの希望的観測かもしれない。
そうであって欲しいという、俺の、勝手な。
それでも続けた。
できれば俺も、雅紀と同じようにオレンジくんを大事にしたい。雅紀が大事に思うオレンジくんを、俺も一緒に。
「一生懸命やるよ。キミが俺を認めてくれるように。お世話はもちろん、もっと勉強する。少しでも雅紀に近づくために。研究もする。少しでも雅紀の役に立てるように。そしてキミを大事にするために。キミ守るために。………ごめん。俺はさっきキミの枝を千切ってしまった。そんなこと、絶対にしちゃいけないのに。………ねぇ、オレンジくん。さっきも言ったけど、ここで俺たちが傷つけ合っても雅紀は喜ばないよ。それどころか悲しむ。雅紀が大事だと思ってくれている俺たちが、こんなの………良くない。絶対に。だから、すぐには無理でも、何とかならないかな。俺を受け入れてはもらえないかな?頑張るから………キミに雅紀を任せてもらえるよう、一生懸命頑張るから」
言いながら、夢なら早く覚めてくれと願った。
何故って。何でって。
オレンジくんは植物だ。人ではないのだ。
………人、では。
どんなにオレンジくんが雅紀を好きでも、どんなに雅紀を独り占めしたくても、そこには確固たる隔たりがある。
オレンジくんの好きがどんな好きなのかは分からないけど、例えどんな好きでも。
小さい子が母に思う好きでも。
恋愛感情の好きでも。
俺に殺意を持つほどの好きでも。
松本さんの時と、これは似た感情。
俺より先に雅紀のことを好きになって、ずっと好きだった松本さん。
なのに雅紀は全然で、それどころか、結果的に後になってぽっと出て来た俺が横取りするみたいになって………。
その時の、罪悪感。
オレンジくんも、同じだよな。
俺が現れなければ、雅紀はもっとオレンジくんを。オレンジくんと………。
「………ごめん。そんな簡単に許せないと思う。俺がどんなに頑張ったって、認めたくないと思う。けど………それでも」
それでも、俺は。
「雅紀が俺を想っていてくれる限り、俺は雅紀を、キミに譲らない。だから今は無理でも、せめて傷つけ合うことは………」
俺がオレンジくんに向かってそう言った瞬間。
一際激しく稲光が光って。
バリバリバリバリッ………
どおぉおおおおおん………
このタイミングでのそれは、まるでオレンジくんの怒り。
なんて、な。
はは。うそうそ。
そんなことないない。
たまたまだよ。偶然。
ゆらり
ひとり焦る俺の目の前で、オレンジくんが、オレンジくんの枝が、メデューサの髪のように、揺れた。
これは、夢ではないのかもしれない。
これは、現実なのかもしれない。
なら。
だとしたら。
オレンジくんにとっては。
悪夢だな。
オレンジくんの気持ちを考えて、胸の奥がぎゅってなった。