ドッドッドッドッドッ………
ドッドッドッドッドッ………
ビカビカ光る稲光と、外の嵐のBGMもあって、正直俺の恐怖心はMAXを突き抜けている。
絹ごし豆腐メンタルなこの俺が、よく気絶しないものだと自画自賛状態。
だってこれは、ある意味正夢だ。
長年、そして連日うなされ続けているオレンジの木にコロされる夢と同じようなことが、今まさに目の前。
しかもこのオレンジの木は、オレンジくんは、あの夢と同じで、俺に殺意を抱いている。
殺意だぞ。
普通に生活していたら向けられることなんかない感情だ。
そんなの俺じゃなくても普通にこわい案件だろ。
足なんかガクブルだ。
ガクブルしながらも、オレンジくんを前にベラベラと喋ったのだが、問題はオレンジくんがどこまでの知能を持ち、どこまで俺の話を理解してくれたかだ。
プラス、どこまで人間の常識やルールを理解しているのか。
人間ならまだ、法律がある。
俺の元上司がそうだったように、悪いことをすれば捕まる。逮捕される。
逮捕されたら裁かれる。
そして被害者も加害者もどっちも、法律で守られる。守ってもらえる。それを盾に防げることだってある。
けど。
当たり前だがオレンジくんにそれは通用しない。
人間相手なら通用するものが、いっさい。何も。
もしそのことがオレンジくんに分かっていたら?
そんなの、考えるだけでおそろしい。
もちろん、この説得がオレンジくんに通用しないかもしれない。
そもそも理解できないかもしれない。
それでも、足がつかまっていて動けない以上、雅紀や俺の気持ちを伝えて分かってもらうしか。
ブブブ………って、ジャケットの内ポケットに入れてあるスマホが振動したのが分かった。
これは多分、雅紀だ。
多分だけど。
そうであって欲しいのに、見たいけど見れない。
オレンジくんが枝をゆらゆらさせながら、これも多分だけど俺を見ているから。
少しでも目をそらしたら、ダメな気がする。
そらしたら、伝わりそうな何かが伝わらなくなりそうな。
ブブブ………
返事がないからか、既読にもならないからか、それとも何か用事があるのか、続くメッセージ受信。
今、どこにいるんだろう。雅紀は。
今から取引先を出るところか、それともソイ御殿かリーフシード事務所に着いたところか。
後者であってくれ。頼む。
そしたら、車があるのにソイ御殿にも事務所にも居ない俺を探しに、ここに来てくれるかも、だから。
ゆらり………
ゆらり………
オレンジくんの枝が揺れる。
オレンジくんは無言だった。
これは、敢えての無言なのか。
それとも、そこまで話すことができないのか。
少しの間、ゆらゆらと揺れていた枝が、ゆっくりと俺の方に向かって来た。
ドッドッドッドッドッ………
ドッドッドッドッドッ………
え、何?
位置的には胸より下あたり。
そこで止まって、じっとまた、止まっている。
………何だろう。
この奇怪な植物は、俺を前に今何を思い、何を感じているのか。
「………あの」
あまりにも無言でじっとしているから、堪らず声をかけた。
何もして来ないということは、理解してもらえたということなのだろうか。理解しようとしてくれているのか。とか。なんて。
「オレンジくん?」
そして手を伸ばして、目の前の枝に触れようとしたその瞬間。
「………っ」
枝が、シュルシュルっと音を立てて、俺の手に巻きついた。
巻きついて。
………シね
え?
聞こえた声に、頭の中が真っ白になった。