花 265 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

ザアアアアアアアッ………





雨が激しくハウスに叩きつける。





不吉に光る、稲光。


すぐさま轟く雷鳴。


ヒューヒューとも聞こえる。ゴーゴーとも聞こえる風。





外は完全なる、嵐。





ハウス内は暗かった。


入り口に電気のスイッチがあるのに、俺はそれをONにしないまま飛び込んだ。


雅紀の声があまりにも切羽詰まっていて。


心配で1秒でも早く雅紀のところに駆けつけたくて。





つければ良かった。


そしたら、取引先から帰って来た雅紀が絶対すぐに気づいてくれるはずなのに。


ついている電気を不審に思ってくれたはずなのに。


そしたらここに来てくれて、そしたら。





じわじわと、こっちに迫って来るオレンジくんの枝。


枝という枝が、俺を狙うように蠢いている。





え。





ちょっと待って。





その枝は、何でそんな伸びるの。伸びて来るの。もしかして伸縮自在なの。知らなかったけど、そんなことができるなんて。聞いてないけど。





伸びるなら、届く。届いてしまう。


伸びるなら、ここまで。今俺の足首を掴んでいる以外の枝も。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





髪がヘビなのは、ギリシャ神話に出てくるメデューサだったか。





稲光に浮かび上がる、俺に向かって枝を伸ばすオレンジくんが、まるでメデューサの髪のようだった。


見たら石になるって、まさに今の俺。





なんて、こんな状況にも関わらずこんなことを考えているのは、ワンチャンこれが夢かもなんて期待があるからだ。





実はもうどこかで俺は気を失っていて、これは夢。いつもの悪夢。なんて。





だって、いくらなんでもさすがに大学を出てから色々ありすぎだろう。盛りすぎだ。


これがいつもの夢ではなく、運悪く運の悪い偶然が重なった現実なのだとしたら、相当タチが悪い。





俺、そんなに悪いことしたか?清く………はないけど、わりと正しく美しく毎日を生きてるぞ?


舐めんなよ。俺のメンタルは今絹ごし豆腐以下だぞ。


なのにこんな。


お祓いまで行ったのにこんな。





………シね





「………っ」





枝が伸びて、俺の腕に触れた。


聞き覚えのある声が聞こえた。





咄嗟に払う。枝を。やめろ‼︎って。





………コロす





払った枝がまた触れる。


腕に絡みつく。





………消えろ





幻聴、ではない。


確かに聞こえる。聞こえた。はっきりと。





ということは、これが現実なら俺は幻聴を聞いていたのではないということだ。


オレンジくんが俺にだけ聞こえるように言っていたということだ。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





オレンジくんは、雅紀にはずっと、ただのオレンジのふりをして。


俺には。





………シね


………コロす


………消えろ


………シね


………コロす


………消えろ


………シね


………コロす


………消えろ





迫り来る枝の、葉っぱという葉っぱから聞こえる気がする。声が。


その声は雅紀の声を真似た声。


雅紀の声で無機質に繰り返される、冗談でも聞きたくない言葉。





どんな原理だよ。


喋るって。言葉を発するって。植物が。


しかも雅紀の声を真似てとか。


もうそんなの植物がやることじゃないだろ。何なんだこれは。オレンジくんは。





伸びて来る枝を叩く。叩いた。やめろって。





指先が当たって葉っぱが散った。





やめろ。


俺に雅紀の大切なものを傷つけさせるな。





って、願うのに。


伸びる。オレンジくんの枝が。俺に向かって。





叩く。





伸びる。





叩く。





伸びる。





このままじゃまじで何をされるか分からないと、俺はオレンジくんの枝を掴んで引き千切った。力任せに。





「やめろ‼︎やめろ‼︎やめろやめろ‼︎」





雅紀が悲しむ。絶対に悲しむ。


そんなのは、俺は。





「オレンジくん‼︎キミが雅紀のことを大好きなのは分かってる‼︎だから一旦話し合おう‼︎こんなことをしたって雅紀は悲しむだけだ‼︎」





枝を掴んでいた手を離して、俺は言った。


夢でも現実でもどっちでも。


こんなのはイヤだ。雅紀を泣かせるなんてイヤだ。





ぴたり。





オレンジくんの動きが止まった。





これはもしかして、話を聞いてくれるということ?





「俺は雅紀を悲しませたくない。それはキミも同じじゃないの?」





ザアアアアアアア………





ハウスの中に、激しい激しい雨の音が、激しく激しく、響いた。