「森田さんから電話があった」
「………え」
森田さんから。
目の前の雅紀は本当に雅紀なのか?って目で雅紀を見ている俺から、雅紀は視線も顔もそらした。俯いた。
声も、落ちて。
「今はオレ、地下にいるときもスマホ持ってるし、電源も切ってない。しょーちゃんから連絡あるかもって。そしたら森田さんから電話があって、無視してたけどしつこくて、何回も何回も何回も何回も何っ回も💢かけて来るから仕方なく出たらしょーちゃんが倒れたって」
き、気のせいだろうか。
今、最後の何回もの後に💢マークが見えたような気がしたのは。
っていうかそんなに電話をしてくれたんだ。森田さん。
あの人、見た目はヤ◯ザなのに、本当、意外と。
「だから、しょーちゃんが倒れたんならオレが車運転しなきゃって、渋滞もやだから、ちょっとでも早く行きたいから、きみちゃんにバイク乗せてもらって、それで、来た」
「………雅紀」
「しょーちゃん、出かけるまで全然いつものしょーちゃんだったのに倒れたって言うし、来てみたらケガまでしてるし、オレ見て2回も悲鳴あげるし、オレのこと本気でこわがってるし………」
「雅紀‼︎」
俯いて小さくぼそぼそ言うその声が、泣いているような声だった。
ふえっ………て今にも、小さい子みたいに泣き出してしまいそうな。
だからごめんって、抱き締めた。
てのひらを雅紀につけないよう、手の甲で抱き寄せた。
ここがうちでもソイ御殿でもなく、外で大学で俺の母校で職場だっていうのに。
そんなことよりも、全力で雅紀ごめんって。
「ごめん雅紀‼︎まじごめん‼︎ほんっとごめん‼︎心の底からごめん‼︎」
「………しょーちゃんに何があったんだろうって、めちゃくちゃ心配で、めちゃくちゃ大急ぎで来たのに………」
「ごめん‼︎本当ごめん‼︎そしてごめんしか言えなくてごめん‼︎」
「………やだ。オレ、ショックでフィナンシェも食べられない」
「………っ」
え。
ちょ。
ちょっと待って。ショックでフィナンシェも食べられないって。
え、ちょっと待って‼︎ねぇ、待って⁉︎
俺が500%悪いのは分かってるよ⁉︎
ちょっとでもこの雅紀を、もぐっていたのに駆けつけてくれた、しかも車のこととか渋滞とかのことまで考えてくれた雅紀を疑った俺が悪い‼︎500%‼︎
それだけじゃない、手をケガしてるって分かったら手じゃなくて手首をつないでくれて、30こえたおっさんが痛くて泣いてぐしゃぐしゃな顔を拭いてくれた、こんなお天使を雅紀じゃないかもなんて一瞬でも思った俺が悪いのは分かってる‼︎
けどちょっと待って。
まじ待って‼︎そして言わせてお願い‼︎まじで‼︎
ちょっと、っていうかいや、だいぶ‼︎だいぶあなたかわいすぎじゃない⁉︎
かわいすぎじゃないですか⁉︎あなた‼︎ねぇ、雅紀くん‼︎
ダメだ。
ショックでフィナンシェも食べられないがクリーンヒットでくらくらする。
ダメだ、超絶かわいい。かわいすぎる。ヤバすぎる。
そんなに俺のこと好き⁉︎そんなに大好き⁉︎そういうことだよね⁉︎ね⁉︎ね⁉︎
こんなこと言ってる場合でも場面でもないんだけど、クリーンヒット過ぎてダメだ‼︎
「………何があったの?」
雅紀いいいいい‼︎って鼻息ふんふんな俺におとなしく俺に抱き締められている雅紀が、まだちょっとスネ口調でそう言った。
うん。
分かってる。
ふざけている場合じゃない。
ちゃんとしないと。
けど、話しても、いいのだろうか。
オレンジくんは雅紀の大切な木だ。
その木が。
「………車に見てもらいたいものがある」
でももうきっと、話さないといけないんだ。
車、オレンジくんの葉っぱであんなだし。
足元一面のオレンジくんの葉っぱを思い出してゾッとして、身体が震えた。
「しょーちゃん?」
俺を呼ぶその声に、心配と怪訝。
覚悟を決めて、俺はあの、オレンジくんの葉っぱだらけの車を見せようと、雅紀の身体をそっと離した。