擦りむいた手が痛いし血というか汁というか、そういうのが滲んでくるため手は繋げない。
が、雅紀のフィナンシェ発言が愛しすぎて手を繋ぎたい。手首じゃなんか連れて行かれている感満載だし。
でもどうにも手を繋ぎたい。今からあのオレンジくんの葉っぱとご対面再びだから余計に。
ということで、俺は雅紀の指に自分の指を絡め、絡めながら、駐車場に向かいながら、何なら生徒たちに『おめでとう』とか『お幸せに』なんて謎の声援を受けながら雅紀がここに来るまでの詳しい経緯を聞いた。
ちなみに謎の『おめでとう』『お幸せに』はカップル誕生と勘違いされて、のようだった。
最近の若者は同性カップルでも驚いたりしないんだな。
思わず謎に『ありがとう』なんて答えて手を振ってしまった俺である。
………これを人は現実逃避と呼ぶのかもしれない。
いやだって、こわいし。色々。
今だけでも幸せな気持ちに浸りたいじゃないか。
雅紀の話によると、森田さんは城島教授から連絡をもらって雅紀に電話をしたらしい。
奇行な俺を見ていたのが田んぼ三兄弟を農業の師と仰ぐ生徒で、倒れた俺にパニクって城島教授に助けを求め、城島教授が生徒に指示を出して俺を教授室に運び、森田さんに連絡をして、森田さんが雅紀に連絡をして、雅紀が横山さんに連絡して連れて来てもらった。というのがどうやら全貌のようだ。
ありがたい話である。
ちなみにこれもちょっとちなむと、バイクは普段相葉種苗に置いてある雅紀のバイクなんだとか。
え、雅紀バイク乗れるの⁉︎って聞いたら、何とびっくり、雅紀は大型二輪の免許を持っていた。
お天使が大型二輪て‼︎
お天使が大型二輪て‼︎
驚きすぎて思わず二度驚いた。
しかもさらに驚くことに、所持しているバイクはもちろん大型で、もちろんと言うべきかハーレーであった。
お天使がハーレーって‼︎
お天使がハーレーって‼︎
予想通りと驚きが同時の謎の気持ちで二度驚いた。
思わず今度後ろに乗せてくださいとお願いしたもちである。
そのハーレーを、同じく大型二輪の免許を持つ(というか、普段ほぼ乗らない雅紀のかわりに、時々横山さんが乗り回しているらしい。え、めちゃくちゃこわいんだけど。横山さんって元暴走族総長ですよ?ガチもんじゃん。っていうかちゃんと免許持ってたの?なんてことを思ったのはここだけの話)横山さんが雅紀を乗せてここまで来てくれたと。
横山さん。俺、帰ったらおいしいソーセージ探しますね。
横山さんだけじゃない。森田さんにも何か買ってこよう。
森田さんはもしかしたら、俺がコロされたとか、コロされそうになったとか思ったのかもしれないし。
殺気とかコロされるぞとか、まじで真面目な顔で言ったもんな。
だからしつこいほどしつこく雅紀に連絡したのかも。してくれたのかも。
何か手土産を持って行って、森田さんにも色々聞かせて頂きたい。
殺気とは。コロされるとは。オレンジくんの葉っぱへのあの反応とは。
城島教授にも、協力してくれた生徒たちにももちろん。
明後日また来るから、明後日、どこかで。
なんて話して考えているうちに到着のリーフシード社用車。
俺がオレンジくんの葉っぱからダッシュで逃げて、ドアが開けっぱなしだ。
ドッドッドッドッドッ………
ドッドッドッドッドッ………
心臓が早鐘を打つ。
「しょーちゃん、オレに見てもらいたいものって?」
「………運転席の、足元」
「………分かった。オレ見てくるから、しょーちゃんはここに居て」
「………うん。そうしてくれると実はありがたい」
俺から何かを察したんだろう。
雅紀はそう言って、車に、ドアが開いたままの運転席に近づいた。
カアアアアアッ………
カアアアアアッ………
カアアアアアッ………
カアアアアアッ………
響くカラスの声に、俺の身体が盛大にびびった。