花 246 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

何をどこからどう説明したらいいのだろう。





分からなくて黙っていたのを、雅紀がどう捉えたのか。





行こって、俺より少し大きい手が俺の手首をつかんだ。


手は擦りむいていて痛いから、手首。





別に、イヤがる子どもじゃないんだから、こんな風にしなくても行く。一緒に。


それでもつかむのは、繋げない手のかわり。





本当は手を繋いで行きたいけど、繋げないから。





で、いいんだよな?





『シんじゃえ、しょーちゃん』





そう言ってニタリと笑った雅紀の顔が、頭の中にチラついた。





そのまま引っ張られ引っ張られて、納屋ドーム外にある手洗い場に連れて行かれた。


ここは収穫した作物や作業後の農道具、手や足を洗うところ。





「先に手ね」





いつもよりワントーン低い声の雅紀に促され、俺は雅紀にもらった腕時計を外してポケットに入れてから、ジャケットの袖を捲った。










「しょーちゃん、ほら、顔拭くよ」
「………ゔゔ」






返事と同時に拭かれる。


城島教授のところでもらったティッシュで。顔を。


汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を。





俺はもう雅紀にされるがまま。お任せ。





全速力ダッシュ中に『何か』に躓いて転んでできた擦り傷は、想像以上にひどかった。


結構深くまでずしゃっといっちゃっていた。





それを洗って痛くないわけがない。


でも洗わなければ細かい砂利なんかが傷口に付着している。入り込んでいる。





ってことで洗ったのだが。





痛い。とにかく痛い。まあ、痛い。





泣いた。





いや、勝手に涙が出た。痛すぎて。


特に膝は悶絶した。叫んだ。いたいいたいいたいいたいいいいいいいい‼︎って。





痛すぎてすぐに手を止める俺に、オレがやろうか?って雅紀が言った。


それもありかと思ったが、自分のタイミングの方がいいだろ。


痛くてストップして欲しくても、あとちょっとだからってノンストップでやられるとかイヤだろ。


しかも雅紀は力加減ばか男だ。





ってことで何とか自分で両手両足を洗い、手足は水でびしょびしょ、顔は汗と涙と鼻水でびしょびしょで、雅紀にそのびしょびしょの顔を拭かれているのであった。





この一連の俺の大騒ぎで、さっきより雅紀の空気はやわらいだ。





「拭いたら病院行こう。ちゃんと消毒してもらおう」





雅紀はそう言いながらスマホを取り出して何やら打ち始めた。


何だろうと思ったら、ここから一番近い病院を探してくれていて、あと1時間半ぐらいで午後の診察が始まるって。





「途中コンビニ寄ったりして行って、駐車場で待ってればいいよ。しょーちゃん叫んで泣いて喉かわいたでしょ?」
「ん、めちゃくちゃかわいた」
「じゃあ行こう。その足じゃさすがにお店は入れないし」
「行こうはいいけど、そういえば雅紀ってここまでどうやって来たの?っていうか何で雅紀はここに………」





そうだ。





雅紀は今日地下にもぐるって言っていた。もぐっていた。俺はちゃんとそれを見た。


そして雅紀はもぐると基本音信不通になる。


俺以外の誰からの連絡も無視する。





え。





俺じゃない。


雅紀に連絡をしたのは。





俺は雅紀に連絡なんてしていない。しようと思ったけど、する前にオレンジくんの葉っぱでパニクって結局していない。





え。





これ。





今目の前にいる雅紀は………雅紀、だよな?





さっき俺に『シんじゃえ』って言った雅紀は雅紀じゃない。


雅紀は絶対、俺にそんなこと言わない。


じゃあさっきのは何だ、誰だって話は今はちょっと置いといて、あれは雅紀じゃない。





けど。





なら。





この、雅紀は?





ドッドッドッドッドッ………

 
ドッドッドッドッドッ………





おさまっていた心拍数が、また一気に、ぶわっと上昇した。