「………っ‼︎」
ぼきぃっ………というイヤな音………自分の首の骨が折れるを聞いて『目が覚めた』。
ガバって起き上がって、思わず首を確かめた。
折れていない。
痛くない。
ということは夢。
いつもの夢。
夢のせいで異様に早くなっている呼吸を、大きく吐いて緩めた。
心臓がどくどくとうるさいが、少しすれば落ち着いて来るだろう。
もう何度。
何度この夢を見ただろう。
何度この夢でコロされただろう。
………いい加減、どうにかならないものか。
それともこれは、一生見続けるものなのか。
もう一度、深呼吸とは名ばかりの、大きな大きなため息を吐いてから、そこでやっとあれ、何かおかしいと俺は気づいた。
布団がいつもと違う。
ソイ御殿の超高級羽毛布団じゃない。
でも、使っているうちにぺったんこになったうちの激安布団でもない。
「櫻井くん、えらいうなされとったけど、大丈夫か?お医者さん呼ぼか?」
「ふわあああっ………」
え、ここどこって、ちょっと呆然としていたところに、のんびりとした関西弁。
その声が不意打ち過ぎて、変な声が出た。
「え、城島教授………?」
「そうや。城島教授や。櫻井くん、起き上がって大丈夫か?横にならんでええか?気分悪ないか?お茶飲むか?水のがええか?スポーツドリンクもあるで」
「え?え?あ、あのっ………」
何故城島教授?ここは一体。
まったく状況が飲み込めない俺に、城島教授は手に持った500mlのペットボトルを1本ずつヘッドボードに並べた。
え。
だから待って。
ここはどこで何故城島教授がいらっしゃる?
俺は一体。
医者とか、気分とかどういう………。
何だか妙にてのひらが痛くて、何だろうと見たら擦りむいたような傷に血が出た痕跡。
膝も痛いと布団を捲ったら派手に破れたズボンの両膝部分と、やっぱり血。そして傷。
何なら血はまだじわじわしている。傷口に小さな砂利も見える。
「………俺」
「覚えてるか?櫻井くん駐車場で倒れてたんやで」
「………そう、ですよね。俺今日森田さんのところに行って、帰ろうと思って………」
「畑におった子がたまたま櫻井くん見とってな、何やものすごい勢いで走って来て車に乗った思たら、すぐにまた車からものすごい勢いで出て来て、そのまんまの勢いで転んだって言うとったわ」
「………」
「勢いがあり過ぎて一瞬飛んだ言うてたで。ほんで起き上がって、急にうわあああって叫んで」
「………」
「何やよう分からんこと色々大声で言うて、ほんでぱたって倒れたって。どないしたん?車にスズメバチでもおったんか?刺されたりしてへんか?」
「………」
城島教授の、のんびりはのんびりだけど、いつもの穏やかさのない声がその異常性を物語っているようだった。
俺はというと城島教授の話を聞いているうちに段々と思い出して、血の気が一気に引く思いだった。
オレンジくん。
俺がいつも見る悪夢に出て来る、オレンジの木にそっくりな。
「櫻井くん、しんどいかもしれへんけど、起きれるんやったら傷の手当てせんと、バイキンが入ってまう。どうや?起きれるか?肩貸すで、洗いに行こ」
「………はい」
こわい。
色々と非常にこわい。こわすぎる。
俺を見たと言う人は俺以外何も見ていないのか?
なら、俺は一体何を見たと言うのだろう。幻?幻覚?
それとも、何か見たけど伝えていないのか、伝えたけど城島教授が黙っているのか。
え、これ。この人。
城島教授、だよね?
ドッドッドッドッドッ………
ドッドッドッドッドッ………
さっき、雅紀が居た。
目の前に居た。
けど今居ないってことは、アレは雅紀じゃなかったってこと。
当たり前だ。雅紀が俺に『シんじゃえ』なんて言うはずがない。それは絶対だ。
じゃああれは誰で、この人は。
それでも傷は早く洗わないとって、ベッドを降りようとした。
その時。
ひらり
葉っぱ。
葉っぱが。
オレンジくんの葉っぱが。
黒く、赤く、棘棘しい。
「うわあああああああっ………‼︎」
「どっ………どないしたんや櫻井くん‼︎」
がたがたがたっ………
葉っぱに驚いて俺はまた見事に転んだ。
ガタガタガタガタ………
そして、床に転がる俺の身体が、自分でも驚くほど震えた。