花 243 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

コロ、される。





コロされるコロされるコロされる‼︎





逃げた。





車のドアを開けて外に飛び出して、今来た道を、アスファルトを、今度は逆に全速力で走った。





「………っ⁉︎」





走っていての、一瞬の空白。





の、後、ガツッ………という衝撃。





何か。


何かあった。何かに躓いた。


ここは駐車場で平坦なアスファルト。車止めもないところ。なのに、何かに。





何かって、何。





全力で、全速力で走っていたせいで俺はかなり派手に転んだ。


結構な勢いでアスファルトにダイブした。





衝撃と痛みに我を失ったのは一瞬。





一瞬の後、俺は何に躓いたんだ⁉︎ってすぐに振り返った。





でも。


そこには何も。





何も、躓くようなものは何も、本当に何もなかった。





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





びくり





突然のカラスの鳴き声に、身体が反応した。大きく跳ねた。





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





姿は見えないのに、増えていく鳴き声。





ザアアアアアアア………





そこに吹く、強い風。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





こわい。





ここは大学。俺の母校。


なのにあの山にいるような錯覚に陥っていく。


あの山。





テンゲン山に。





逃げろ。





逃げないと。





逃げないと来る。あいつが来る。オレンジくんが。あのオレンジの木が。


はっきりとした殺意を持って来る。追いかけてくる。





早くって立ちあがろうとして、あちこちが痛いことに気づいた。





どこが痛みの元だ?って見たズボンの両膝部分が、大きく破れて血が出ていた。


転んだ時についた両方のてのひらからも血が出ていた。





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





さっきより近づいた鳴き声に驚きながら空を仰いだら、俺を中心に円を描き飛ぶカラスが二羽。


俺の近くにバサバサとおりてきたカラスが三羽。





じっとこっちを見て、少しずつ、少しずつ、近づいて来る。





思い出す、テンゲン山。


あの山にいた謎のカラス。










こわい。











こわい。こわいこわい。コロされる。





カアアアアアッ………


カアアアアアッ………





黒い嘴が大きく開き、俺に向かって何かを叫ぶ。





カサカサカサカサ………


パキパキパキパキ………





それを合図にしたかのように、どこからかオレンジの枝の動く音。





振り向いた。





何もない。


誰も居ない。





見渡した。





何もない。


誰も居ない。





なのに聞こえる。確かに、聞こえる。





カサカサカサカサ………


カサカサカサカサ………


パキッ………パキパキ………





立ち上がらないと。


逃げないと。


早く。





早く。一刻も早く。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





足は痛むけど。あちこち痛むけど。


逃げないと。早く。





じゃないと、俺。俺は。





ガクガクする足に何とか力を入れて、立ちあがろうと痛む膝を立てた時、ふとオレンジのにおいがしたような気がして、血が出る膝に視線を落とした。





「うわああああっ………」





思わず叫んだ。





何故ならそれは血が、擦りむいて流れていた赤い血が、赤くあるはずの血が、何故か。





何故か、オレンジ色になっていた、から。





何で。





そこからにおうのが、鉄っぽいにおいではなく、オレンジのにおい。





オレンジ。





脳内に浮かぶのは、動くオレンジの木。





俺は、俺の身体は、オレンジの木に侵されているのかもしれない。





カサカサカサカサ………カサカサ………


パキパキ………パキッ………パキパキパキパキ…………





この音は、俺の身体の中から聞こえるのかもしれない。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





『しょーちゃん』





「………っ⁉︎」





その時微かに、俺の耳に雅紀の声が聞こえた気がした。





「雅紀‼︎雅紀⁉︎」





呼んだ。叫んだ。雅紀。どこだ⁉︎どこにいる⁉︎俺おかしいんだ‼︎血がオレンジ色なんだ、血からオレンジのにおいがするんだ、身体の中から枝が動く音が聞こえるんだ。雅紀。雅紀雅紀雅紀雅紀‼︎





呼ぶ。叫ぶ。





雅紀‼︎雅紀‼︎助けてくれ‼︎コロされる‼︎オレンジに、オレンジの木に俺は‼︎





雅紀を必死に探し、雅紀の名前を必死に叫ぶ俺の前に、ふっと雅紀は、雅紀が、俺の目の前に現れた。一瞬で。


そして。





『シんじゃえ、しょーちゃん』





おはようの挨拶ぐらい軽く、何でもないことのように、俺が今一番聞きたくない言葉を、告げて。





ニタリ。





不気味に。





笑った。





雅紀の後ろには、オレンジくん。


俺にうねうねと動く枝を向ける、オレンジくん。





「ひっ………」





シぬ。


コロされる。





俺は、オレンジの木に。





………雅紀に。





ぶつん。





そこで俺は恐怖の限界を迎え、俺の目の前は、黒一面の画面に切り替わった。