花 223 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

ことお三人には塩対応な雅紀の、取り繕うことをしないご不満な顔にどきどきとひやひやが止まらない。


もしどうしたの?なんて雅紀に話題が行ってしまったら。





なるべく俺がおふたりを引きつけねばと、雅紀の手をぎゅっと握ってから、俺はソファーから立ち上がって風間さんと横山さんを出迎えた。





「うまいケーキ屋知らん?って聞いたら、風間がここ言うから買うてきてん。おめでとうな。にいちゃん」
「え、わざわざですか?ありがとうございます」
「ええねん。帰り道やったし」
「帰り道?」





ケーキの入った箱をありがとうございますって受け取りつつ、どこか行ってたんですか?と聞いてみた。





今日のお昼ご飯は松本さんが買って来てくれると言っていた。





『俺からの誕生日プレゼントってことで』って言ってくれて、松本さん………ってなったのは今朝の話。


昨夜、雅紀の俺への誕生日対応に、文字通りひっくり返るほどショックを受けていたのにも関わらず、だ。





だから横山さんが出掛けていたということは………?





「ちょっと風間とな」
「あれ、おふたりご一緒だったんですか?」
「一緒やったで。なあ?風間」





にやにやにやにや。





何やらあやしい笑みを浮かべて、横山さんが風間さんを見ている。





この顔はあれだ。


よく俺に向ける笑みだ。


俺を揶揄ったり俺で遊んだりするときの。





今日、風間さんはいつもよりキメた感じのスーツを着ていて、9時を過ぎた頃に出掛けてくると言って事務所を出て行った。


だからてっきり弁護士系の大事な仕事なのだと思っていたのだが。





それに横山さんも同行?





え、横山さん。そのいでたちで?


え、つなぎに頭タオルで?


しかも今日は、物騒にしか見えない刃物らしきものがその腰からぶらぶらしているように見えるんだけど、しかも2つ。


え、まさかそのいでたちで?





「一緒って言うか、きみちゃんが勝手について来たんでしょ」
「ええやん。楽しかったやろ?」
「まあそうだけど」
「どこ行ってたの?何か仕事だったんでしょ?風間ぽんスーツだし」





おっと。





ここでおかえりの言い方が微妙だった雅紀が会話に参戦。


どうやら風間さんと横山さんがどこに行っていたかが気になったらしい。





って、俺もそれは気になる。風間さんと横山さんが一緒に?って。





別にふたりの仲が悪いとかではないのだが、どちらもお互いより雅紀との関係の方が深いというか、濃いというか。


ふたりで話したりもするけど、お互いより雅紀。


俺の元上司のときは妙に気が合ってふたりで盛り上がっていたのが記憶に新しいが、あれがイレギュラー。


横山さんと松本さんは同じ会社で同い年ということもあってか、ふたりで会うこともあるようだけど、風間さんは会社も違えば年も違う。


だからふたりだけで行動をするところはあまり見たことがなく………。





意外。


結託した何かがないのに、ふたりでなんて。





「今日は櫻井さんの元上司の元愛人さんのところに」
「………え?………えええええ⁉︎」
「え、何で?」





意外な組み合わせ以上に意外な場所が風間さんの口から出て、俺は一瞬ぽかんの後めちゃくちゃ驚いた。





雅紀と同じことを言うけど、え、何で?





元上司の元愛人?


俺の汗と涙と努力の結晶を横取りした人。いや、実際したのは元上司で、横取りを知っていて自分のものにした人。





え、元上司だけじゃなく、あの人まで何かしてきたの?


だとしたらめちゃくちゃこわいんだけど。


訴えられるようなことしてたのそっちだよ?


悪いことしてたのそっちだよ?


なのに俺がまた仕返しされるの?





顔がぎゅって強張って、身体がぎゅうううううって強張っていくのが分かった。





「あ、大丈夫です櫻井さん。彼女が何かして来たとかではないですから」
「………え?あ、そ、そうですか。びっくりした………」
「前回、あの元上司だけじゃなくて、彼女にもかなり厳しくしたので、今後彼女が櫻井さんに何かする可能性はゼロに近いと思ってるんですけど、ほら、元上司が逆恨みしてきたじゃないですか。だから一応釘を刺しておこうかなと」
「く、釘………?」
「はい。それをおれからの櫻井さんへの誕生日プレゼントにって」





え。





それを、風間さんから俺への誕生日プレゼントに?





え?


元上司の元愛人のところに?釘を刺しに行くのが?行ったのが?





プレゼント?





「えええええ⁉︎」
「さすが風間ぽん」





え。


まじ?


まじで言ってるこの人?





いや、ありがたいけど。


ありがたいんだけども?





………俺、もしこの先この人に雅紀に相応しくないなんて思われたら。


そんな日が来たら。





ぞぞぞぞぞぞぞぞ。





暖房が効き、雪女も出現していないリビング。


俺はひとり、背中に冷たいものを感じていた。