鷹匠高橋隆さんと鷹のタカアンドトシの活躍により、ソイ御殿周辺のカラスは目に見えて減った。
もちろんゼロになったわけではないので、ソイ御殿周辺の残ったカラスについては、とりあえず様子を見て、また(主に俺にだが)イタズラするようであれば、安田さん自らが猟銃で狩ってくれると約束してくれた。
俺たち一般人が野鳥を狩ることはできないが、安田さんのように狩猟免許を持っていれば大丈夫なのだそうだ。
しかもカラスのような害鳥だと、保健所に喉仏を持っていけばお金がもらえるらしい。知らなかった。
カラスはソイ御殿周辺だけでなく、山の中腹やふもとの方をネグラにしているカラスもいる。
そいつらについては、高橋さんのところにいる新人の練習に、ぜひやらせて欲しいとのことだった。
高橋さんは実地訓練の場が増えてバンザイ。
リーフシード及び相葉種苗はカラスが減ってバンザイ。
じゃあきみちゃんもいっぱい練習できるじゃんって雅紀がサクッと言って、そやなって横山さんがサクッと言ったのは、現実か俺の幻聴か。
ひとりだけ、え、ヨコが練習って何?って置いてけぼりだった松本さんに、横山さんを鷹匠にしよう計画がありましてと説明したところ、ありがたいことに松本さんは、『はあ?何寝ぼけたこと言ってんの?』と言ってくれた。
さすが松本さん。ここでは数少ない普通が分かる人。
だがしかし。
駄菓子菓子。
横山さんの師匠になりそうだよたかはしたかし。
「だってカラスは居ない方がいいでしょ?」
「別に定期的に来て貰えばいいだろ」
「きみちゃんなら言ったらすぐやってくれるし」
「いやだから、毎月来てもらうとかにすればいいだろ?」
「だってまたしょーちゃんがカラスに悪さされたら速攻やり返したいじゃん」
「………は?」
「………え、俺?」
「………やっぱり」
「………にいちゃんのために俺をそそのかしたんかい」
という会話がその後ございまして。
松本さんはそのままフリーズ。
風間さんは呆れてコーヒーいれてくるって行ってしまい。
横山さんは部屋のすみでいじいじといじけた。
「しょーちゃんもカラス居ない方がいいでしょ?」
え。
鷹が気に入って飼うって言ったんじゃなかったの?
横山さんが鷹匠似合うからやってって言ったんじゃなかったの?
え、俺なの?俺のためなの?
にこにことお天使スマイル炸裂で、雅紀は俺に振ってくれたのだけれども。
そりゃ俺のためならめちゃくちゃ嬉しいし、カラスは正直恐怖対象になってしまっているから、居ない方がいいのだけれども。
ここで普通にうんって答えたら、俺は近日中に抹殺されるような気がする。
なのにだ。
なのにだよ。なのに。
雅紀は、それだけじゃなく、それだけじゃなく‼︎
「あ、そうだ。今年の誕生日、オレしょーちゃんちに泊まりに行くから、集まるなら別の日にしてね」
「あ、ちょっ………。雅紀」
「ん?なあにー?しょーちゃん」
後で俺からお三人に相談をしようと思っていた『誕プレは俺んちお泊まりがいいなって言われたよ。どうしよう案件』を、まさか雅紀本人が超絶最悪なタイミングで言ってしまったのだ‼︎
「………は?」
フリーズしたまま力無く聞き返すシんだ目の松本さん。
「え?」
先ほどの呆れ顔から更なる呆然、ウソでしょ?顔の、コーヒーを持って来てくれた風間さん。
「まーくんが誕生日ににいちゃんちに泊まるぅ⁉︎」
目が飛び出るんじゃないかというぐらい見開いて、シンプルに驚いている部屋のすみのいじけ横山さん。
そこにすかさず雅紀は。
「うん。その日はしょーちゃんにたっぷりお祝いしてもらうから、絶対邪魔しないでね。あ、スマホの電源切ればいいのか。オレもしょーちゃんも電源切るから、電話しても無駄だよ。だからってマンション来ても絶対無視するから」
追い討ち追い討ち追い討ち追い討ち。
追い討ちに次ぐ追い討ち過ぎてええ⁉︎って思わず俺も言ったぐらいの追い討ち。
「なっ………なっ………なっ………」
「………ついにまーくんにそんな日が………」
「………まーくん………もしかしてにいちゃんとヤる気なんじゃ………」
「きみちゃん‼︎それは‼︎それは言っちゃダメだ‼︎」
「………あ。すまん。つい」
「………大丈夫。松本さん放心状態で聞こえてないっぽい」
「ねぇきみちゃん。ヤる気って何を?キスならもういっぱいしてるよ?もちろん誕生日にもいっぱいするし」
「わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎」
雅紀‼︎
俺がこの状況にパニクって頭真っ白になっている間に何を‼︎何てことを‼︎
「ん?どうしたの?しょーちゃん」
「………キ………キス………いっぱい………え?………え?」
「何や‼︎もう付き合うとるんか、まーくんとにいちゃん‼︎」
ほら見ろ‼︎どうするんだよこれこのこれ‼︎
何て説明をしたらいいのか分からない更なる悪化状況に陥ったじゃないか‼︎
「え、えーと………そ、それはですね。その………」
「………まーくん、それは誰にも言っちゃダメって言ったよね?おれ」
「そうだっけ?でもいいじゃん別に。みんなだってとっくに誰かとキスぐらいしてるでしょ?オレが最近初めてしたってだけじゃん。その相手がしょーちゃんなだけだよ」
だから雅紀‼︎
雅紀‼︎まじで雅紀いいいいいっ………‼︎
「わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎ わー‼︎わああああああああっ」
「どうしたの?しょーちゃん。今日は元気だね」
「ああああああああっ………」
「………まーくん。多分だけど、櫻井さんは元気だから騒いでるんじゃないと思うよ」
「そうなの?」
「にいちゃん、キスの話、ちょっと詳しく聞かせてもらおうか」
「ひっ………」
耳元で囁かれる、横山さんの低いドスのきいた声。
オワタ。
俺はオワタ。もうダメだ。
俺はシぬ。コロされる。雅紀大好き鉄壁トリオに。
こんな風にキスがバレてしまったらもう。
「………キス………雅紀がキス………初めての………」
「松潤は………線香ぐらいあげたるな」
「なーむー」
「え?シんじゃった?松潤。何で?」
「あああああああああ………」
このあたりからこの後までの記憶は、はっきり言って俺にはない。
気づいたらリーフシードの事務所で、風間さんとふたりきりであった。
まーくん、バラしちゃった………。って方は米ください🌾