花 187 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

「うんうん、しょーちゃん。こわかったねぇ」
「………うう」
「よしよし、もう大丈夫だから。泣かない泣かない」
「………うう」
「オレが居るでしょ?」
「………うう」





SHO MOCHI SAKURAI、32才。





ただいま俺は泣いている。


9才も年下の雇い主に抱き締められ、頭を撫でられ、慰められている。





ここはソイ御殿。


2階、雅紀の寝室。ベッドの上。






デジャヴか。





………って、いや、デジャヴではない。





何故デジャヴ的な今かというと、夢である。


悪夢である。


またしても俺は悪夢にうなされて、雅紀に起こされて、夢だったって安堵で涙。





夢。


カラスに狙われる夢。


そして。


宇宙人に食べられる夢。





今回のこの夢は初めて見る夢だが、こんなにもリアルに宇宙人に食べられる夢を見たのにはもちろん理由がある。





それは運悪く俺が見てしまったからだ。


今日、宇宙人用にと置いたオレンジが入ったコンテナのところで、宇宙人がぐぱあああああって喉から胸辺りを大きく開いた多分口に、オレンジをどぱあああああっと放り込んでいるところを。





皮ごと行くのかよ。


一気飲みかよ。





口のグロさと大きさが半端なかった。


人間ひとりぐらいなら、絶対に丸飲みできる。


そんな世にも恐ろしい口だった。





隣に雅紀が居たからぶっ倒れることはなかったが、居なかったらぶっ倒れた自信しかない。





その後からの俺は、ぽんこつ過ぎて使い物にならなかった。





そしてこれである。


うなされて雅紀の睡眠を邪魔して、邪魔してるのに恐怖からの安堵で涙が出るって。





情けない。


ただただひたすら、情けない。


俺は子どもか。幼児か。


いい年したおっさんがこんな。





「………ごめん」





雅紀にしがみついたまま、鼻をぐすぐすさせて謝ったら、雅紀がくすって笑って頭をぽんぽんしてくれた。





子どもか。


幼児か。





「いいよ。全然」
「………でも、俺のせいで雅紀の寝る時間が」
「大丈夫だから気にしない気にしない」
「………気にするよ。仕事もろくにできない上に、雅紀の睡眠時間まで削るとか」





雅紀は種の開発だけじゃなくて、作業だってするのに。


体力がいるのに。


俺は雅紀を手伝うために大学からレンタルされているのに。





「え?しょーちゃんいっぱい仕事してるじゃん。今日もしてたよ?」
「してないよ、全然。俺が居なくたって………むしろ居ない方が………」





言ってたら情けなさが倍増で、増幅で、またじわって涙が出てきた。





何してるんだ。俺。


迷惑過ぎるだろまじで。





「確認だけど、しょーちゃんの仕事は何?」
「雅紀の………リーフシードの手伝い」
「………は?」
「………え?」





ヒョオオオオオオオオオオ………





ぐすぐすしてたって分かる。分かった。


エアコンと加湿器で気温も湿度もいい感じに保たれているはずの寝室が、一気に極寒の部屋になったことが。





雅紀が俺の両肩をつかむ。


ぐって身体を離される。





いつものお天使顔が、The 雪女。


無表情。氷。目も。視線も。





ぴっきぃいいいいいんって、俺も一気に、全身が凍った。





「しょーちゃんの仕事は、何?」





一音一音区切るように言われ、はいいいいいって伸びる背中。背筋。





「おっ………俺の仕事はっ………」
「しょーちゃんの仕事は?」
「………雅紀へのキスです」
「うん。今日もしたよね?」
「………しました」
「いっぱいしたよね?」
「………いっぱいしました」
「なのに何で仕事できてないなんて言うの?しょーちゃんはおバカなの?」
「………」





ん?って俺を覗き込む雅紀は、もう雪女じゃなかったけど。





………でも、おかしいから。どう考えたって。キスが仕事って。





って、俺が思っていることを、雅紀も本当は、ちゃんと分かってくれている。





だからまたぽふって、俺は雅紀に抱き締められた





「しょーちゃんはメンタルやられてる病でしょ。しかも先生のお墨付き」
「………うん」
「なら、当たり前じゃん」
「………え?」





当たり前?


何が?





分からないでいる俺に、雅紀は柔らかい、穏やかな声で続けた。





「ご飯食べたら何が出る?」
「………へ?」





いきなりの話題転換に、一瞬の空白。


俺の頭がついていかない。





けど、頭の中で繰り返して、考えて、そして答えた。


お天使にこんな言葉を言っていいのか?と少々思いつつも。





「………う、う◯こ?」
「じゃあ水分とったら何が出る?」
「え………お◯っこ」
「風邪ひいたらどうなる?」
「熱出て、咳出て、くしゃみ鼻水が出る」
「うん。それってさ、ものすごい当たり前のことじゃん」
「………え?………う、うん」
「だから、メンタルやられてる病のしょーちゃんが、メンタルやられてるのは当たり前。メンタルやられてる病のしょーちゃんが、今までできてた仕事ができないのは当たり前。メンタルやられてる病のしょーちゃんが、色んなことをくよくよ気に病んでるのも当たり前」
「………え」
「今のしょーちゃんって、ご飯食べてう◯こが出るんです。何ででしょう。どうしたらいいでしょうって悩んでるのと同じだよね」
「………え?」
「すっごい変」
「………」





今の俺は、ご飯を食べてう◯こが出るんですって悩んでいる。





え、俺。





例えが秀逸すぎてくらくらする。





え、ウソだろ。


俺。そんなバカなことしてるの?


え、まじで?


ちょっと信じられないんだけど。でも。





ご飯を食べたらう◯こが出る。





当たり前が当たり前になるだけなのに、それを。





「ずっと続くわけじゃない。上がれば下がる。下がれば上がる。今しょーちゃんは下がってるところだけど、この先ずっと下がってるわけじゃない。今はキスしかできなくても、また普通に仕事ができるようになる」
「………雅紀」
「じゃなきゃやだよ。オレ、いつかしょーちゃんと、ソイプロテインやオレンジM以上のものを作る気だし」
「………え」
「そんな日は来る。絶対」





絶対。





絶対って。雅紀。





じわり。





また涙が勝手に出てきて、俺は泣いた。


情けないけど。いい年したおっさんだけど。


9才も年下の雇い主にしがみついて。抱き締められて。





俺。





思った。


すごく思った。


はっきり思った。





俺。


この子が。


雅紀が。




すごく。





すごくすごくすごくすごく。





………好きだ。










今日のお話はめっちゃ頑張って書きました。

たくさんの米をお待ちしています。

たくさんの米をお待ちしています。

2回言いましたよ真顔


プロデューサー、裏話ありがとう✨

でもオレンジ一気食いのネタバラシしちゃってたよ(笑)