………もうダメだ。
俺はもう、本当にダメだと思う。
俺ってこんなにダメな人間だったのか?
こんなにも弱い人間だったのか。
日を追うごとに、その思いは強まった。
最初は必死に否定した。
そんなことない。気のせいだって。
………でも。
俺はもう、これ以上頑張れない。
もう無理だ。もう。
………もう。
もう相葉くんに‼︎天使に‼︎お天使に‼︎俺は‼︎会いたくて堪らない‼︎
会いた過ぎて、会えなさ過ぎて、心がぽっきんって折れそうなんだけど‼︎
どうしちゃったの⁉︎俺‼︎
っていうかさ⁉︎3日だよ⁉︎いや、4日⁉︎
たったそれだけ俺が居ない間に、どうしてこんなにも仕事が溢れちゃうかな、ここは⁉︎
何か知らないけど、言葉が汚くてごめんだけど、クソほど忙しくて、全然行けてないんだけど、リーフシードに‼︎相葉くんに会いに‼︎
また来てくれる?って言ってくれたあの子に‼︎
腰が痛くて長時間座っていられないとか、2日に1回オカモト整骨院に行かなきゃとか、二宮メンタルクリニックに行かなきゃとかで、思うように仕事が捌けない。
そして俺は‼︎
あのお天使の顔が見られないと禁断症状が出る身体になってしまったのだよ‼︎ついに‼︎
手が心がぶるぶるよ‼︎会えてないから‼︎
仕事が思うように捌けないプラス、相葉くんに会えないのダブルパンチで、俺は何と二宮先生のところに行くまでに、2回もオレンジの悪夢にうなされた。
だから余計にメンタルがどぅうううううんで、どぅうううううんだ。
俺も横山さんに撮られた相葉くんとの寝姿ツーショット写真を貰えば良かったと激しく思った。
でも、冗談は抜きにしても、なかなかにヤバくなって来てるな、とは、ちょっと思った。
悪夢を見る間隔が短くなっている。
そして、悪夢を見るかもって思うからか、寝つきが悪くなって来ている。
「ちょっとアレですね………キてるっぽいですね、櫻井さん」
前回から2週間後よりも前に訪れた俺を見た二宮先生の第一声がそれだったもんな。
何でだろう。
パワハラ上司にいいようにやられていた当時を思い出して、相葉くんに話したりしたからなのだろうか。
それにつられて悪夢まで思い出しちゃったのだろうか。
はたまた、オレンジR………Mか、それを取り返そうなんて画策しているから?
それがあるから、古傷が刺激されている?
二宮先生に正直に色々話したら、そうかもねって。
「基本、櫻井さんがやりたいって思うことは、やればいいと思ってます。俺は。でも、ちょっとでもおかしいなとか思ったら、やめて欲しいとも思うかな」
「………」
「人間って、身体が死んじゃったら死んじゃうけど、心が死んじゃっても死んじゃう。心ってもうひとつの心臓だからね、大袈裟でも何でもなく。だからとにかく、無理はダメ。特に1回やっちゃてるじゃないですか。櫻井さんは。だから余計に、ほんの少しでも、ん?ってなったら、迷わず立ち止まって、迷わずここに来て欲しい」
ゆっくりとした、穏やかな口調で、机の向こう側の二宮先生が言う。言ってくれている。
ね?って、小さい子にでも、言い聞かせるみたいに。
はいって、俺はそれに返事をした。すみませんって。
「すみませんなんてことは何もないよね。俺は心のお医者さんだから」
「………あ、はい。………ええ、そうなんです、けど」
けど。
思うんだな。思っちまうんだな。
何でか。すみませんって。
お手数をおかけしてすみません。
ご心配をおかけしてすみません。
そんな感じ。
「櫻井さんってもしかして、怒られたときや何かあったときに、言い訳するなとか、人のせいにするなって言われて育ったりしてる?」
「え?………どう、かな………」
二宮先生からの急な質問に、え、どうだったかなって考えてみると、確かにそんなことを言われて来たような。
けどそれが具体的にいつで、誰からとかまでは分からなくて、ちょっと答えに困った。
うちで?………では、ないかも。
ってことは、学校とか?
「最近は多いんだって。そうい教えが。学校とか家庭とかで。そう言われて育った子は、何かあるとすぐ、自分に非があるって考えになる。それがね、俺は、つい言っちゃうすみませんとか、パワハラを我慢することに繋がっているんじゃないかと」
「………なるほど」
言われてみれば、確かに。
さっきもついすみませんなんて言ったけど、よくよく考えると別に俺に何か非があったわけではない。
なのに何かすみませんって気持ちで。
「パワハラは絶対に、する方が悪い」
「………はい」
「ただ、どんな理由にしろ、一回でも我慢しちゃったら、次が来る。相手が学習しちゃう。こいつは我慢するやつだ。だからまたやってやろうって」
「そうですね。そうだったと思います」
「うん。誰もプロレスラーに喧嘩売ったりしないもんね」
ちょっとため息混じりに、頬杖をついて二宮先生が言った。くだけた口調で。
それに思わず、笑った。プロレスラーって。
けど、確かに、だ。
プロレスラーに向かってケンカを売る人なんか、ほぼ居ない。
やったらやり返される可能性大だから。
ってことは俺がやられ続けた理由は。
そうやってひとつひとつを解説して貰えば、確かにってそんなことばかり。
だからか。なるほど。って。
もしやられている当時にこういうことを知れていたら。
二宮先生今言われたこと。相葉くんに言われたこと。
それを、今じゃなく当時。
そしたら俺は。
って、思うから。
だから、今さらではあるけど、相葉くんに手伝ってもらうけど、俺の努力を取り返そうって、思うんだ。
それは、もう二度と屈しない。という決意表明。
「俺ばっかべらべら喋っててごめんなさいだけど、もうひとつね」
「はい」
「やり返した後の結果までが行動だよってのは、忘れたらダメなんだと思う」
「やり返した後の、結果?」
「うん。相手はパワハラをするような人でしょ?どんなに櫻井さんが法的に正しくやり返したところで、もしかしたら相手はとんでもない仕返しをしてくるかもしれない。その時自分はどうするか。そこまでをちゃんと考えておいた方がいいよねって話。やられた、やり返した、またやられたって、またやり返したって、お互いにやり合ってたら、いつまでもいつまでも、終わらないじゃない」
「………」
「答えを先に言っちゃうと、最終的にはどっちも自分なんだよね。何故やるのか。何故やられるのか。そこを無視してやったやられたって、エンドレスなんだよ。根本を無視だから。そんなのイヤじゃない?」
「エンドレスは、イヤです」
「ね?人生って有限なのよ。だから、どこかでビシッと区切りをつけて、早く終わらせようよってね。俺は思うわけです」
あらゆることを想定して、ゴールを決めて、有限の人生を。
ああ、そうか。
楽しむんだ。
ここで俺は、相葉くんを思い出していた。
楽して楽しむ。
それが相葉くん。
彼はパワハラなんか我慢しない。
そこで、その瞬間にやり返せば、もうそこでその瞬間に終わる。
相葉くんはそれをやる人。
その方が実際楽なんだ。後々。
俺みたいに我慢するから、とらわれる時間も長くなるし、こんな風にごたごたと面倒になって。
「さっきよりはいい顔になったかな」
俺の顔をじっと見て、ふふって二宮先生は笑った。
悪夢はまだ見るかもだけど、相葉くん不足はもちろん解消されてないけど。
自分と相手がクリアになって、考えるべきことがはっきりして、悪夢への恐怖が薄れたような気がした。
めちゃくちゃ苦労して書いた1話でした
けど多分、反応薄いんだろうな(笑)
ってことで、米求む‼︎下さい‼︎餅ベーション‼︎