花 72 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

「………っす」
「おはようございます」





3日ぶりに戻った日常の1日をひとりきりで過ごして、本日復帰仕事初日。


3日間たまりにたまった仕事を早く片付けたい気持ちは山々ではあるが、正直地味にまだ腰が痛い。





まあ、急ぎのものを優先してぼちぼちやるか。





って思ってちょっと早く来ただけであって、決してひとりのマンションが寂しくて耐えられなかったからではない。そこは断じて。


昨日、相葉くんに送ってもらったとき、『まるちゃんのパン屋さんここね』って教えてもらって、早速今朝寄って来たのは、決してひとりのマンションが寂しくて耐えられなかったからではない。そこは断じて。





「櫻井」
「はい」
「あれ何」





一番最後に出勤して来た森田さんが、珍しく入り口奥の俺の席のところまで来て、こそっと俺に聞く。





あれ、とは。





大野さん、である。





いつもいつでもどんな時でも、可能な限り顕微鏡を覗くというテイで寝ている大野さんが、今はそれをやっていない。


顕微鏡を覗かず何をしているかと言うと。





彼はむぐむぐとパンを食べている。





お行儀悪く机に身体をべたっとぺたんこにして。





「えーと………怒ってます」
「は?」
「怒ってると言うか………拗ねてる?」
「は?何で?」
「えー、それは、ですね………」





俺は森田さんに、大野さんとのさっきまでのやり取りをかくかくしかじかと説明した。





ことの始まりは『まるやまパン』。





ネットで調べたら、さすがのパン屋で開店時間が8時と早かった。


大学からほど近いし、人気No. 1だというクリームパンを、ソイ御殿でちゃんと味わうことなく食べたことが心残りでもあって、いつもより早く部屋を出て、俺はぶぶんとまるやまパンに向かった。





着いた頃には店はすでに開いており、お客さんもちらちら。ぼちぼち。出勤前のリーマンやらOLやらやら。


ついでに店の奥に3席ほどの飲食スペースもしっかり埋まっていた。





こんな時間からこんなって、人気なんだなあってトレイとトングを持って、いい匂いの中クリームパンを探した。


そこに、ナイスタイミングで来たのが、焼きたてのクリームパンでーすって、カゴにほこほこのクリームパンを乗せた、ちょっとふわふわした髪の男の人だった。


熱いから気をつけてなーって、関西訛りでにこにこしながらパンを並べる姿を見て、この人が『まるちゃん』だなって確信した。





でもってめっちゃナイスタイミングじゃん。俺。





お目当てのパンが焼きたてで買えるなんて、さすが、ラッキーマンSHO MOCHI SAKURAIだぜって、トングをかちかちしながら寄って行った。





そこにだ。





てっててれっれ♪





って、急に謎な童謡ちっくな音が流れた。


急すぎてめちゃくちゃ耳に入った。


今の今までにおしゃれな洋楽流れてたからそれは余計。





そしたら店内がちょっとざわってなって、あって声も聞こえたりして、何何?何なの?ってひとり、まるパン初心者な俺。





そこにだよ。





ま・る・みを・お・びた〜ゆ〜じのすいそう〜♪


ま・る・みの・え・むっで〜ふ・たを・した〜♪





??????????





ナゾだった。


何もかもがナゾだった。





何この不思議で、やたら耳に残る歌。





店内はちょっと、何でかきゃっきゃ盛り上がっていた。


そしてそこにいたお客さんがどっと、焼きたてのクリームパンに集まった。





?????


?????





まじでわけが分からないながらも、無事、アラサーな俺が買うにはちょっと勇気のいるうさぎ型クリームパンをゲットして、他にもケツバットじゃない方の普通のカレーパンや、ウィンナーロール、甘くないパン甘いパン、あれこれ色々チョイスしてレジに並んだ。





その間ずっと、店内にはナゾの歌が流れていた。


それはもう洗脳レベルで流れていた。





そしてだ。





パン選びに時間を費やしすぎて、おはようございまーすって研究室に入ったら大野さんがいた。


大野さんの机には、缶コーヒーとコンビニのパンで、それを開けようとしていた。


だから何気なく声をかけた。


大野さんがここのパンを食べてたのを知っていたし。





『パン買いすぎたんで、良かったらどうぞ。まるやまパンのです』
『え、いいの?』
『いいですよ。どれもおいしそうだったから、食べきれなかったら昼に食べようって思うぐらい買っちゃったんです。好きなの選んで下さい』





そして大きい紙袋の中からパンが入った小さい紙袋というか包み袋?を大野さんの机に並べたら、大野さんが。





『これっ………‼︎』





パンが入った小さい紙袋を見て。





『………?』





ソイ御殿で見た紙袋には、『まるちゃん』と思しき男の人が、顔の横で手を広げて『おはようパーン』のスタンプだった。


でも今日のは、『まるちゃん』はそのままに、字が『U字の水槽パーン』。





U字の水槽パン??


何それ??





浮かぶハテナ。





………だったのだが。






てっててれっれ♪





思い出したナゾの歌。





それが、まるみを帯びた『U字の水槽』って言ってた‼︎ってやっと気づいて、大野さんそう言えば‼︎ってはふはふと伝えようとした。





だがしかし。


駄菓子菓子。





大野さんは、もう1年以上まるやまパンに通うも、まだ一度もこの『U字の水槽パン袋』をゲットしたことがないそうだ。





どゆこと??





って分からなさすぎてネットで検索したところ、何と、この紙袋はまるやまパンでは相当レアな紙袋であると判明。


何でも、いつ流れるか分からない『U字の水槽』という歌が流れているときだけの、特別な紙袋なんだとか。


ちなみに、朝が『おはようパーン』、昼が『こんにちパーン』、夜が『こんばんパーン』で、時々『お疲れパーン』もあるとか。


『お疲れパーン』も結構レアだけど、それより何より、『U字の水槽パーン』はとにかくレア中のレア。


まるやまパンファンの中では伝説の紙袋で、ネットオークションにも出品されるとか。


フリマアプリじゃなくネットオークションなのは、ウソか本当か、オークションの方が高く売れるから。ごいごい金額が上がるから。らしい。





横山さんの友だちって、面白いなあ。





っていうか、U字の水槽って何?





もうひとつちなむと、何?なU字の水槽の歌は実は絵描き歌で、歌の通り描くとうさぎになるとかならないとか。


そしてうさぎの形をしたパンがまるやまパン人気No. 1のクリームパンとか何とか。


つまりU字の水槽パンとはクリームパンではないかという噂があるとかないとか。





『おれまだ一回も聞いたことないのに………』





大野さんはそう言って大層口を尖らせて、俺が一番食べたかったU字の水槽パン………いや、クリームパンをむぐむぐと食べるのであった。





ちっくしょー。


もう一個買っとけば良かった。





森田さんに説明しながら、俺はぐすすんって鼻を啜った。










おふざけ回です(笑)

だから余計進まないのよ‼︎

ってことでみなさん、ぜひ『丸みをおびたU字の水槽』を検索して、本物の歌を聞いてみて下さい。

今でも時々トレンドに上がるぐらい伝説の歌ですゲラゲラ

もれなく若チャラ♾️が見れます(笑)