花 70 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

ハウスとソイ御殿は目と鼻の先。


でも、かなりの雨量によって俺も相葉くんもびしょ濡れで、玄関に入ってすぐ、お風呂入る?って聞かれた。引かれたままだった手もそのままに。


お風呂はさすがに申し訳なくて、丁重に断って、相葉くんが持って来てくれたタオルであちこちを拭いてからソイ御殿に再びお邪魔した。


そして松本さんが毎日せっせと洗濯してくれた、初日に相葉くんに買ってもらったスウェットに着替えた。





ワイシャツもスラックスも、びしょびしょ。





ソイ御殿から病院、大学。もしくはソイ御殿から大学、病院に行こうと思っていたのに、これは一度うちに行かないと、か。


スウェットで大学は、ちょっとな。





俺がリビングで着替えている間、相葉くんも別の部屋で着替えて、そして。





「普通のオレンジの木を見て大丈夫だったから、大丈夫だと思って………。オレの認識が甘かったよね。ごめんなさい」





相葉くんは着替えてリビングに、俺の近くまで来て、頭を下げた。





「いや、それは俺の方がごめん。せっかく見せてくれたのに、あんな風に情けなく逃げちゃって。これ、すごいただの言い訳なんだけど、俺、昨日も、メンタルぼろぼろのときも、オレンジの木に絞めコロされる夢にうなされてて、それで………」
「………え」
「それがちょっと、重なっちゃったんだよ。夢と現実が一瞬ごっちゃになっちゃって。だから、俺の方こそ、ごめんなさい」





ごめんなさいで俺も、相葉くんのように頭を下げた。





相葉くんが責任を感じることなんかない。


俺が先に、どんな夢でうなされているか言っていたら、相葉くんに頭を下げさせることはなかった。





だってアレは。


アレは普通にさ‼︎


そうだよ、アレ‼︎





「っていうかアレすごくない⁉︎びっくりしすぎてしっかり見れなかったけど、木が自分で実を落としてたよね⁉︎アレはどういうこと⁉︎どうなってるの⁉︎」





こわかった。


またあの夢を見ているのかと。


でもこれは現実で、現実なら俺はあの木に絞めコロされることは絶対にない。


アレは俺や上司とは無関係で、天才天使相葉雅紀が作り上げたものだから。





そうとなったら俄然興味がわいた。あの木に。動くオレンジの木に。





アレがまだアレだけなら、あの1本なら、流通するのはまだ先のことだろう。


でもアレが流通したら、それこそ世界中に嵐が巻き起こる。





アレは、革命。


農業というものが根底からひっくり返る。





「詳しくは言えないけど、アレは『オジギソウ』の動きを元にして作った木なんだ」
「オジギソウ‼︎」
「うん。人間や動物が、脳からの信号を神経を経由して筋肉に伝える時に使われる物質がカルシウムイオンでしょ?『オジギソウ』は、葉っぱに触れるとちゃんと『触れられた』って認識して、同じようにカルシウムの信号を葉の根元に伝えて葉っぱを閉じるんだ」
「その働きを、オレンジの木に応用したってこと?」
「うん」





うんって相葉くんは簡単に頷いてるけど、それってめちゃくちゃすごいことじゃない⁉︎って俺ははふはふの大興奮だった。





「自分で実を収穫する以外に、できることはあるの?」
「水やりと肥料の摂取」
「水やりと肥料の摂取‼︎」
「それだけでもできれば、人手不足の解消になると思って。あとはもう少し改良して、自力で害虫や害鳥をなんとかすることができれば、農薬を撒かなくても良くなって、オーガニックなものがもっと安価に手に入るようになる」





いやいやいや。


いやいやいやいや。


ちょっと待って‼︎





相葉くん、自分がどれだけすごいことをしてるって自覚あるのかな⁉︎って、ないよね⁉︎これ絶対ないやつだよね⁉︎





嗚呼、逃げた自分が悔やまれる。


いや、見るのはやっぱり結構こわいなって思うんだけど、興味はあっても近づけないかもなんだけど。けどけどだけど。





すごいよ‼︎って興奮でぜはぜはしながらぜはぜは言ったら、相葉くんは、お天使な顔を曇らせた。


視線とテンションを下げに下げて、でもあのオレンジには問題があって………って。





「だからまだ、もちさんに提供してあげられない」
「………え」





今、なんて。





え、今、このお天使は何て⁉︎


問題があって、だからまだ俺に。





ウソだろ⁉︎


ちょっと待って⁉︎


この子、あのめちゃくちゃすごいオレンジの木のオレンジを俺にって思ってるの⁉︎


いやいやそれってダメくない⁉︎


もっと普通ので良くない⁉︎


やっぱりこの子、あのオレンジの木の価値をちゃんと分かってなくない⁉︎





ってな。





とはいえ、まだ問題があって。





「ちなみに、問題って………?」





聞いたところできっと俺には分からないんだろうけども、え、でももしその問題点が解決できたら。





俺、逃げたのに。思いっきり。





っていうか、もちの特別感、えげつなくない?


い、いいのかな。





あの『お3人』に俺、それこそ………。コ、コロ………っ。





「あの木のオレンジはね、すっごくおいしんだ。味はすごくいい。でも、壊滅的に種が多くて………」





お天使が顔を曇らせたまま、不満そうにそう呟いた。





種、か。





そこから相葉くんは『種モード』に突入して、タオルを被ったまま、しばらくもち放置で動かなかった。









お待たせ✨