「櫻井さん⁉︎」
相葉くんの驚きと困惑の声が、背中に聞こえた気がした。
けど俺は、ハウスの入り口までダッシュして、そこで振り向いてオレンジの木を見て、きたときは大丈夫だったオレンジの木にうわってなってハウスからも出た。
息が切れてるのは、走ったからじゃなくて………。
何。
何アレ。何今の。
何で木が。
ドッドッドッドッドッ………
ザアアアアアアアッ………
うるさい心臓の音と、雨の音。
ハウスの外に出た俺に、雨が容赦なく降り注ぐ。
屋根もないからモロすぎてびしょびしょ。
っていうか‼︎っていうか俺‼︎
雨のせいでというか雨のおかげでというか、そこで我に返った。
腰が痛ぇ‼︎
じゃなくて‼︎なくないけど、じゃなくて相葉くん‼︎
相葉くんが俺を櫻井さんって呼んでくれた‼︎
って‼︎そうじゃない‼︎けど、それもそうなくもない。
相葉くん、ちゃんと俺の名前知ってくれてたの⁉︎
もしかして、昨日夢の中で聞こえた『櫻井さん』って、もしかしてリアルに相葉くんが呼んでくれてた?
なんだ、相葉くん。
ちゃんと俺の名前知ってくれるじゃん。
「櫻井さん‼︎」
びしょ濡れになりながら、いやだからそうじゃなくて、相葉くんだよって、ハウスに戻ろうか、でもちょっとアレはって、入り口のところで逡巡してたら、相葉くんが追いかけて来てくれて。
『あ』って。
お互いにお互いを見て、お互いに黙った。
どうしよう。
せっかく俺だけにって見せてくれたアレに、思いっきり叫んで逃げた俺。
それには俺が見る悪夢を彷彿とさせるからっていう理由があるけど、相葉くんはそんな俺事情なんか知らないわけで。
「ごめん」
「ごめんなさい」
謝った。
どういう経緯で植物が動くなんてことになったのかの謎だけども、アレを俺に見せてくれた相葉くんを見る限り、アレは相葉くんにとって自信作だろう。
それなのに、それを見ての俺の反応は、一番したらいけないやつだ。
って思って謝ったのに、俺はその相葉くんに謝られていた。
同時に謝って頭を下げあって、お互いに何で?ってなって同時に頭を上げた。
「え、何が………?」
聞いた俺に、相葉くんは。
「とりあえずうち行こう」
うひょ。
ちょ。あの。相葉くん⁉︎
降る雨。
降り頻る雨。
俺はまた相葉くんに手を引かれて、ソイ御殿に連れて行かれた。