ショッピングセンターの片隅に喫煙コーナーがある。
上から見下ろせばYの字に通路がのびて、両脇にショッピングするための建物が建っている。それぞれ一階と二階に店があり、いくつもある階段とエスカレーターで行き来が出来る。二階にも通路が張り巡らせてあり、地上に降りることなく対面の建物まで歩いていくことが出来る。通路、および建物を大きな屋根で覆っているから、雨でも傘をさすことなく買い物が出来る。そこは、小さな街のようでもあり、野外とも屋内ともつかない不思議な空間になっている。
ショッピングセンターには美味しいコーヒーが飲めるコーヒーショップもある。もし、お金と時間の余裕があれば、一杯のコーヒーを味わいながら、買ったばかりの本や雑誌をめくり、タバコを数本吸って過ごす時間もいい。
今日は時間がなかったから、ショッピングセンターの余った空間を再利用したような感じのある喫煙コーナーに向った。
若いとも若くないともいえない微妙な歳を感じさせる女性が携帯電話をいじっていた。
「XXXくん、電話くれたぁ?」
ぼくは奥に置かれているベンチに腰を下ろしてタバコを取り出した。
「えっ、私の声が聴きたかったって?」
ぼくはタバコに火をつけた。
「嬉しいこといってくれるじゃない」
ぼくは一息吸って煙を吐き出した。
「うん、うん、まだXXX駅。行きたーい」
ぼくは雑誌を取り出してページをめくった。
「ねぇ、XXXちゃんを誘ったでしょ?」
ぼくは一息吸って煙を吐き出した。
「さっきかけたら出ないんだもん」
ぼくは雑誌のページをめくった。
「ねぇ、明日、ふたりでディズニーランド行かない?」
ぼくは一息吸って煙を吐き出した。
「じゃあ、今度の火曜日は?」
ぼくは一息吸って煙を吐き出した。
「うん、うん、バイトなの?」
ぼくは一息吸って煙を吐き出した。
「いつバイト休みなの?」
ぼくはタバコをもみ消して灰皿に吸殻を捨てて立ち上がった。
「うん、じゃあ、あまり飲みすぎないでね」
彼女を通り過ぎて、背後から聞こえる声でやっと電話が終わったとわかった。
携帯電話が出始めた頃は、みんな、コソコソと話していたような気がするが?
人妻のような女性。
恋人同士じゃなく、相手は本気にしていない感じがする。
でも、積極的に女性のほうからモーションをかけている。
夢中にさせる相手の男性の顔を見てみたい、と思った。