社会科見学をしてきました。
ヘルメットメーカーで有名なアライ・ヘルメットの本社を訪問してきた。
場所は埼玉県さいたま市(旧大宮市)。
東北・上越新幹線が停まる大宮駅から歩いて15分ところにある。
「1万円のヘルメットが出回っています。見た目には変わらなくてもアライのヘルメットは高いです。4万円も5万円もします。それでもアライのヘルメットを買われるお客様がいます。どこかでアライの良さを知って買っていただいたのでしょう。でもお金は大切です。その大切なお金を出して買うからには何か秘密があります。今日は目に見えない中身をじっくりご覧になってください」
そんな内容の新井社長の挨拶から始まった。
近代的なオートメーション化された大規模な工場ではなく、職人さんが働く工房のようである。
帽体(シェル)作成から塗装、組み立てを拝見したが、ロボットを使っているところは金型作成と帽体の裁断(シールド部分など)だけで、全部手作業だった。シールドベースのねじ穴も一人の職人さんが短い筒状の金属を1つ1つ押し込んで、別の職人さんが1つ1つねじ穴を刻んでいく。型から成型した帽体をつるつるに磨き上げるためには一週間もかかり、やっと塗装することができる。レプリカモデルの模様は1つ1つ転写シールを手で張っていく。別工場で作られた衝撃吸収ライナー(発泡スチロール)は職人さんが汗をかきながら全体重をかけながら押し込んでいた。単に押し込めばいいというわけでもなく、帽体のダクト穴とライナーの穴をぴったりあわせなければならない。シールド部分のゴム、あご紐、ダクト&デュフューザ、シールドベースなども帽体に1つ1つ職人さんが取り付けていく。
1つのヘルメットが出来上がるまで気が遠くなる作業が続く。
ヘルメットの性能を左右する帽体は成型された段階ですべて検査され、規定の厚みがなかったらはじかれ補強処理される。ほかのメーカーはロッドから抜き取って検査するか1度の検査だけで塗装処理されてしまうが、アライヘルメットはすべてのヘルメットを成型段階で1度検査して、検査部に持って行き再び1つ1つ検査をする。帽体成型は群馬県にも工場があるが、そこで作られた帽体も埼玉の検査部に運ばれ、検査を受ける。
もし、規定に満たないものがあれば、再び群馬の工場に送り返される。
2度の全数検査は安全に対する意識の違いがうかがえる。
市場に出回っている安いヘルメットの帽体はABSあるいはポリカーボネートなどで作られている。
いわゆるプラスチック。
軽くて、ある程度の衝撃には強い。
安全規格でいえばSG/PCS規格のレベル止まり。
日本の公道を走るためにはSG/PCS規格をクリアしていなければならない。
衝撃吸収テストはSG/PCS規格(自動二輪)は1.7mの高さから落下させて300G以下、JIS-2000(自動二輪)は2.5mの高さから落下させて300G以下、SNELL-M200は3.06mの高さから落下させて300G以下をクリアさせなければいけない。
一般的に300Gが人体の脳が耐えられる衝撃といわれている。
アライヘルメットは厳しいSNELL規格を上回るアライ規格でテストしている。
実際に落下衝撃テストを目の前で見た。
まずはノーヘルの状態を想定して、10mm厚のベニア板に人の頭に相当する5kgのマグネシウム合金の塊を30cmから落下させた。
計測器は400Gを遥かに超えた。
もし、人体なら頭の中はマーボー豆腐状態だろう。
次にマグネシウム合金の塊にヘルメットを被せて落下させることになった。
使用したヘルメットは新品のアストロTR。
平面に落とすのではなく、しかも突起物に落とす。
スネル規格にアライ規格をプラスした高さから落とすと、計測器は200G未満を示していた。
落下衝撃を受けた箇所を再び落下させてみる。
計測器は200G未満を示していた。
2回落下させる理由は転倒時に同じ箇所を強打することが多いからだという。
最近、F1用の規格が変更された。FIA8860-2004規格といわれている。
その規格はスネル規格よりも厳しい。
このF1用の規格で落下衝撃テストが行われた。
使用したヘルメットは先ほど使用した二輪車用のアストロTR。
落下の高さは4.8mほど。
計測器は200Gを少し超えたほどだから、充分にクリアしている。
ただし、F1用の規格では素材にカーボンの仕様を義務付けしているため、レースでは使用できない。
とことん安全性を追求しているアライのヘルメットは強靭な帽体なのだ。
試しにJIS規格サンプルヘルメットをスネル規格で落下衝撃テストした。
1回目の落下では計測器は、ほぼ200Gを示したが、2回目の落下では400Gを大幅いに超えてしまった。
最後にJIS規格サンプルヘルメットをJIS規格で落下衝撃テストした。
1回目も2回目も落下後の計測器は150Gを超えていない。
ここで150Gだから安全だなんて思わないで欲しい。
テスト条件が甘いだけなのだ。
そして、日本の国家規格に相当するJIS規格は、この程度なのだ。
まして公道走行するためのSG/PCS規格は最低限レベル。
低いレベルが安心とは言い切れない。
アライヘルメットの頑丈さの秘密は帽体に使われている素材にある。
グラスファイバーにプラスチック樹脂を染み込ませたFRP(繊維強化プラスチック)と呼ばれるスーパーファイバーを使用している。
価格は普通のガラス繊維の6倍、強度は30%向上し、引っ張り、貫通に優れている。
少し強度を弱めたスーパーファイバーの板切れを手渡され、押し曲げてみた。
柔らかくしなり、プツプツ音がして繊維が切れるように真っ二つに折れた。
この性質は衝撃を和らげることに向いているという。
ケブラー、カーボンは硬さがあっても、しならずある程度の力がかかるとボッキッと折れてしまった。
秘密は、まだある。
帽体の天井部分には特殊繊維の布が使われているのだ。
均一的にスーパーファイバーを使うと、どうしても重量が重くなる。
重心が上にあるとライダーの負担が増えてしまうので、なるべく重心を下にもっていきたい。
そこで天井部分を薄くして特殊繊維の布を貼って強度を増すと同時に軽量化を図っている。
この特殊繊維の布はハサミで切ると非常に切りづらい。
ヘルメットにはダクトのための穴が空いているモデルがある。
ダクト穴に衝撃があったとき、裂けてしまうことを防ぐ役目もしているそうだ。
さて、安全は高い?安い?
安全はお金でも買えてしまう。