（ＫＤＤ事件）惰性で仕事をすると、人に迷惑をかける

１９７０年代の事件

◎慣性の法則！

子どもの頃、電車に乗っていると、
友人に言われたことがある。

「電車の中でジャンプしても
　同じ場所に着地するのはどうしてだ？」

そう…電車は急速に動いている。

それなのにジャンプして
空中に浮いているわずかな時間

体は移動しないのか？

子どもの頃は
本当に疑問だった！

しかしこれは

「慣性の法則」で説明できる。

慣性の法則とは…

新たに力を加えなければ、
止まっている物体はそのまま止まり続け、
動き続けている物体はそのまま動き続ける。

ことをいう。

実際には地球上では、
摩擦や空気抵抗があるので
新たな力を加えなければ止まってしまうが、

そういう力が無ければ、
物体はいつまでも止まっているし、
いつまでも動き続けるのだ。

それを「慣性の法則」という。

先程の電車の話でいえば、
電車が進行方向に動いているのと同様、
乗っている乗客も同じ速度で動いている。

だからその場でジャンプしても、
電車と乗客は同じ速度で進んでいるので

その場に着地する。

ところで慣性の「慣」とは
「慣れ」という意味だ。

つまり新しい力が加えらえれないと
これまでの動きに「慣れて」しまい、
同じ動きを継続する。

そういう意味だ！

新しい力が加えられないと、
同じような行動を繰り返す。

これは一般的には「惰性」という。

「惰性」と「慣性」は
同じ意味なのだろうか？

確かに同じような意味もある。

「惰性」も「慣性」と同様に、
物体がその運動を維持しようとする現象

という意味もある。

だからアクセルを踏んでいない状態を

惰性運転！

などと言ったりする。

ところで「惰性」と「慣性」では

違う部分もある。

それは「慣性」は物理現象のみを言うのに対し、
「惰性」は人や習慣などにも使われる。

例えばこれまでの習慣を
「惰性で続けている」

などと言ったり、

冷え切った恋人同士が
「惰性で付き合っている」

などと言う。

決して

「慣性で付き合っている」

とは言わない。

このように同じく
「物体がその運動を維持しようとする現象」
でありながら、

物理現象のみを対象とする「慣性」
習慣や人間関係などにも使う「惰性」

両者はそのように区分して使う。

そして物理現象以外で使う「惰性」とは

悪い意味で使われることも多い。

そして「惰性」によって
人に迷惑をかけることもある。

そういう事件があった。

前回取り上げたＫＤＤ事件。

1979年に発覚したこの事件が、

ＫＤＤ（国際電信電話株式会社）がその立場を利用して、
海外から多額の美術品等を密輸し、
それを政治家等にばら撒いていた事件。

ＫＤＤは独占企業でありながら、
民間企業並みの自由を持ち、
なおかつ監督官庁の郵政省からのチェックは
杜撰だった。

また海外出張が多いことを利用して、
会社ぐるみで密輸をしていた。

ところでこの事件…

どうして発覚したのだろうか？

それには惰性で行われていた
ある事柄が関係している。

実は密輸が行われていたのは
空港のチェックが無かったからだ。

当時、羽田空港では
ＶＩＰに対してはノーチェックだった。

例えば政治家や官僚、
大企業の役員などが対象だ。

つまりＫＤＤの社長と一緒の場合、
羽田空港では荷物検査が無かった。

これは羽田の税関が手狭だったことから
慣例として行われていた。

そして1978年　成田空港が開港する。

これにより税関のやり方が変わった。

と…いうのは…

成田空港ではＶＩＰ待遇が無くなったからだ。

羽田では行われていたＶＩＰ待遇
つまり税関のノーチェックが
成田空港では行われなかった。

しかしＶＩＰ側では

そうではなかった。

羽田でやっているのだから
成田空港でもＶＩＰ待遇をしろ！

そう要求していたのだ。

そして1979年10月2日

ＫＤＤの板野社長がロシアから帰国した。

その際、ＫＤＤ社長室の社員2名が、
多数の美術品を持ち込んでいた。

彼らは通常ノーチェックだ。
※社長と同伴ならチェックされなかった。

しかし成田空港は羽田と違い、
ノーチェックではなかった。

だがＫＤＤ社員はこれまでと同じだと思い、
そのまま通過しようとした。

つまり惰性で仕事をしようとして、
引っかかった。

惰性とは恐ろしいものだ。

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ＫＤＤ　　大丈夫

ＫＤＤ　　俺たちはＶＩＰだから

ＫＤＤ　　税関はノーチェック

ＫＤＤ　　通常美術品などを持ち込む時は

ＫＤＤ　　税関で申告する

ＫＤＤ　　でもうちの社長はＶＩＰだから

ＫＤＤ　　一緒の社員も同じ扱いになる。

ＫＤＤ　　つまり…ノーチェック。

ＫＤＤ　　税関のノーチェックだ。

ＫＤＤ　　まあ一応申告はするんだけどね。

ＫＤＤ　　それもテキトーでいいから。

ＫＤＤ　　だってノーチェックだよ。

ＫＤＤ　　向こうの顔を立てるための申請。

ＫＤＤ　　だから形式的で大丈夫

ＫＤＤ　　俺たちはパリやロンドンで仕入れた

ＫＤＤ　　多量の美術品を持っているが、

ＫＤＤ　　大丈夫だから！

ＫＤＤ　　ノーチェックだ！

ＫＤＤ　　えっ？

ＫＤＤ　　カバンを開けろ？

ＫＤＤ　　ヲイヲイ…（苦笑）

ＫＤＤ　　俺たちを知らないのか？

ＫＤＤ　　まあ俺たちは知らなくてもいいけど

ＫＤＤ　　あの人を知らないのか？

ＫＤＤ　　参ったね…どうも…

ＫＤＤ　　新人さんかな？

ＫＤＤ　　いいか…よく聞けよ。

ＫＤＤ　　あちらにいらっしゃるのは

ＫＤＤ　　ＫＤＤ社長の…

ＫＤＤ　　板野学であらせらる。

ＫＤＤ　　控えおろう！

ＫＤＤ　　えっ？誰って？

ＫＤＤ　　だから板野学だよ。

ＫＤＤ　　ＫＤＤ社長の…。

ＫＤＤ　　えっ？そんなことはイイから

ＫＤＤ　　カバンを開けろ？

ＫＤＤ　　こらっ、無礼にも程があるぞ。

ＫＤＤ　　たかが末端の税関職員が

ＫＤＤ　　天下のＫＤＤ社長を知らない。

ＫＤＤ　　それがどんなことか

ＫＤＤ　　わからないのか？

ＫＤＤ　　まあお前は新人らしいから

ＫＤＤ　　とんでもない所業だと気付かない。

ＫＤＤ　　そうみたいだが

ＫＤＤ　　後で後悔するぞ！

ＫＤＤ　　まあいい

ＫＤＤ　　今回の事は無かったことにしてやる

ＫＤＤ　　だから道を開けろ

ＫＤＤ　　ＫＤＤの紋所が目に入らぬか？
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ここまでは言っていないが、
近いことは言っている。

「フリーパスにしろ」だとか、
「大変なことになるぞ」とか

本当に言っている。

確かにこれまでは通れたのだから、

今回通れないのは心外だろう。

これが惰性の恐ろしさだな。

因みに本当にこの時の税関職員は…

新人だったらしい！

だからマニュアル通りやったのか。

新人よ。よくやった！

◎困った店

ところでこの密輸だが、
主にＫＤＤ社長室が実行していた。

この社長室は板野社長の匿名作業を行い、
ほかの役員にもアンタッチャブルだった。

元々社長室は副社長の管轄だったが、
板野社長時代になって、社長直轄になった。

だから他役員のチェックは一切入らない。

そのため今回の密輸のような仕事も
社長室が主になってやっていた。

そしてこの社長室だが、
「夜の社長室」と言われた場所があった。

なんかエロい感じだが、

そうではなく高級クラブだ。

それは東京新宿の歌舞伎町2丁目にある
ビルのワンフロアを貸し切った高級クラブ。

ここは社長室長のお気に入りで、
社長室のメンバーも常連だった。

因みにＫＤＤ事件では
この社長室長が事件のキーマンだ。

このクラブは”高級”だけあって、
値段も高額だった。

４～５人で数時間利用すると、
２０～３０万円は下らない。

そして社長室長はこの店に
平均して１日おきくらいに通っていた。

そして毎月１千万円ほどを払っていた。

毎月だぞ！

料金はツケで払っていたが、
高額にもかかわらず、一度も遅れなかった。

それ故に会社で払っていたという。

この店にはお客さんと一緒のこともあったが、
社長室内だけで利用することもあった。

と…いうより、その方が多かった。

それであるにも関わらず、
会社の経費で落としていた。

そのような社長室長のお気に入りの店だけに
事件が発覚すると、取材陣が殺到した。

しかし…

この店は全く悪くない！

ただＫＤＤの社長室のお気に入りだっただけで

ＫＤＤの行った犯罪には
全く関与していないのだ。

ただただ犯罪集団ＫＤＤ社長室の

お気に入りの店だというだけで、

マスコミが殺到する。

エライ迷惑だな！

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高級店　　迷惑だ

高級店　　エライ迷惑だ

高級店　　こっちは何も悪くない。

高級店　　ただ店と客の関係だけ

高級店　　でも「夜の社長室」なんて書かれ、

高級店　　マスコミの連中が大挙し、

高級店　　本当に迷惑してる。

高級店　　もしコッチも犯罪に関与していれば、

高級店　　叩かれるのも仕方がないが、

高級店　　全く関係ないのに

高級店　　叩かれるのは心外だ。

高級店　　大体、「夜の社長室」って…、

高級店　　社長室じゃないし、

高級店　　社長室がよく使っていただけ

高級店　　確かにオイシイ客だった。

高級店　　この店は高級店だけあって

高級店　　料金も高額だ。

高級店　　一晩で数十万円はザラで、

高級店　　百万単位にもなる。

高級店　　ＫＤＤの連中は

高級店　　平均すると１日おきくらいに来て

高級店　　毎月の利用料金は

高級店　　１千万円以上！

高級店　　基本ツケ払いだが、

高級店　　ＫＤＤは毎月きちんと支払う

高級店　　上客だった。

高級店　　だから店としては感謝していたよ。

高級店　　でもそれはあくまで

高級店　　店と客の関係で

高級店　　それ以上でも以下でもない。

高級店　　なのに密輸事件が発覚し、

高級店　　その関連でうちの店も報道された。

高級店　　さすがに店の名前は出なかったけど、

高級店　　ある程度の場所が報道されたから

高級店　　特定されるのは時間の問題。

高級店　　本当に…

高級店　　どうしてくれる？
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どうやら本当にこう考えていたようだ。

そして件の社長室長を呼び出して、
事件の説明を求めたりしている。

因みにこの社長室長だが、
マスコミ対応しているＫＤＤの広報によると

行方が分からない、といっていたが、

この高級店のオーナーが連絡を取ると、

すぐに連絡が付いた！

なんだ、行方不明じゃないじゃん。

しかし…

惰性で仕事をするとは恐ろしい。

ＫＤＤも惰性で税関に強気に出たが、

返り討ちにあった。

そのためにＫＤＤ自らが
世間から指弾されただけじゃなく、

全く関係ない高級店も迷惑を被った。

やはり仕事とは惰性で行うべきじゃない。

「惰性」で仕事をすると
人様に迷惑をかける！

密輸を見つけた若い税関職員のように、

初心を「貫く」ことだな。

貫く心こそ、
「慣」性を作るのだから。