1970年代の事件
◎ホームスチール!
「盗む」という言葉は悪い意味があります。
「窃盗」というくらいで、
犯罪として処罰されます。
しかし野球の世界では
そうではありません。
サインを盗む、技術を盗む、癖を盗む。
色々な「盗む」があります。
どれも「盗む」方は悪くなく、
「盗まれた方」が悪い。
例えば「盗塁」という言葉があります。
その名の通り、「塁」を盗むのですが、
「塁」=つまりベースをそのまま盗むのではなく、
1塁から2塁、3塁と進塁することを言います。
これは非常に良いことです。
もちろん攻撃側にとって…。
守備側からすると、
進塁されることは悪いことです。
しかし「悪い」と言っても
相手を非難する訳にはいきません。
どうして進塁するんだ?
と…小一時間問い詰めたいことでしょうが、
そういう訳にはいきません。
盗まれたお前が悪い!
そう…監督やコーチ、
評論家に言われるのがオチです。
ましてや本塁を盗まれるのは
絶対に避けなければなりません。
ホームスチールだけは…
これだけは認めてはならないのです。
1976年9月17日の新聞に以下の記事が載った。
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阪急 山田久志投手 ぬかったホームスチール
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山田久志とは
当時の阪急(現オリックス)のエースだ。
彼は70~80年代にかけて活躍した、
阪急一筋の投手である。
山田投手はアンダースローが持ち味で、
アンダースローの投手としては
歴代最多の284勝をしている。
山田投手の雄姿はこちら
その山田投手が
ホームスチールを許したのだ。
それも野球ではなく、
本当のホームスチール…つまり泥棒にあったのだ。
記事によるとこういうことだ。
9月16日は山田投手の登板日だった。
この日は対近鉄戦だが、西宮球場での登板だ。
16日の午後10時ごろ、
芦屋署に山田夫人から連絡があった。
部屋の中が荒らされている…と。
捜査の結果、現金、指輪、時計など、
420万円相当が盗まれていた。
犯行時間は6時半から9時半ごろ。
山田投手の登板日を狙った犯行だった。
投手がホームスチールをされるのは失態だが、
これはショウガナイだろう。
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監督 何っ?盗まれた?
監督 山田がか?
監督 ホームスチールだと?
監督 あの野郎、ボーッとしやがって
監督 だから気をつけろとあれほど
監督 あいつはアンダースローだから
監督 モーションが大きいんだ
監督 その分、走られる
監督 もっとセットを練習しろと
監督 あれほど言ったのに
監督 結局、走られるんだ
監督 あれじゃー大成できないな
監督 投手としては
監督 ホームスチールを許すのは
監督 本人の責任だ
監督 で…何点取られた?
監督 420万?
監督 なんだ?ゲームの得点みたいだな
監督 420万ってなんだ?
監督 何っ?本物の泥棒?
監督 ホームスチールって、
監督 家に泥棒が入ったのか?
監督 それはご愁傷様
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と…言うことのようだ。
しかし登板日を狙うとは、
なかなか頭の良い泥棒だ。
まあマネされても困るが…。
◎ホームでの試合!
因みに先程書いたように…
この日は西宮球場だった。
西宮球場は阪急のホームで、
山田久志の住む芦屋市から
6km程度しか離れていない。
そのため山田夫人も
試合の観戦に訪れていた。
当然家は空だった。
そこで犯人は悠々と侵入し、盗んでいった。
犯行時間は6時半から9時半ごろ、
奥さんが帰って、警察に連絡したのが10時ごろ。
完全に、スケジュールを
理解した上での犯行だ。
まあ…そりゃーテレビで放映されているし。
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犯人 今日先発だな
犯人 間違いない
犯人 前回の登板から中4日だ。
犯人 山田が先発だ
犯人 スライドはない
犯人 彼はエースだから
犯人 動かすはずがない
犯人 何といっても絶対的なエースだぞ
犯人 大体12年連続で開幕投手だぞ
犯人 1975~86年まで
犯人 まあ今年は76年だけど
犯人 そんなやつを外すわけない
犯人 そして今日はホームだ
犯人 西宮球場だ
犯人 西宮球場の登板だと奥さんも見に行く
犯人 なんたって近いから。
犯人 アウェイだと難しいが、
犯人 ホームなら間違いなく行く。
犯人 それも試合終了まで見ていく
犯人 西宮球場から家まで
犯人 急いでも30分かかる
犯人 当時は先発完投が多い
犯人 つまり試合終了まで山田は投げる
犯人 なら試合終了までいてもいいなぁ
犯人 終了したら盗みも終了だ
犯人 それでも30分は余裕がある
犯人 唯一の心配は天候だ。
犯人 雨なら試合が延期される
犯人 しかし今日の天気なら大丈夫だろう
犯人 じゃあホームに突入するか
犯人 悠々セーフだろう
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見事な
ホームスチールだった!
そして見事に成功した。
野球では盗まれる方が悪いのだが、
そしてホームスチールをされる
ピッチャーが悪いのだが、
さすがにこれは
山田久志の責任ではないだろう。
ついていなかったとしか
言いようがない。
しかし確かにこのことはついていなかったが、
この日の登板で山田はシーズン
24勝目を挙げている。
そして最終的には26勝を記録している。
26勝?
もちろん最多勝だ。
現在の分業制になった時代では
信じられない成績だ。
因みに山田は20勝以上を4回経験している。
うち最多勝が3回で、17年連続で二けた勝利だ。
そしてこの1976年は
リーグ優勝だけではなく、
日本一にもなっている。
そういう意味では、
ホームスチールは許したかもしれないが、
優勝を奪ったのだから、良い年かもしれない。
まあ奥さんの山田夫人は
びっくりしただろうが。